本格的な戦闘。
一時間くらい前にリンダさんと別れ、カノンはいつもお馴染みのというほど来てはいないが<始まりの森>に来ていた。
目的は今あるスキルのレベル上げと自身のレベル上げ兼ポーションを作る。
「あたしの場合どうしてもプレイヤーのお店に頼んないと生きていけないから。そうなると必然的にお金が必要なってくる。それに」
それにポーションだけのために250Gも払っていられないのだ。NPCの店で買ったところでとんでもなく不味いポーションが150Gで売っているだけ。
ポーションが不味いというのはかなりの痛手であることをこのゲームの製作者は分かっているのだろうか。それとも敢えてこの不味いポーションで通そうとしているのか。
考えたところ結果は出ない。
NPCの店で買い物できないカノンにとってはリンダさんの言っていたスキル屋という店も使用できない。つまり欲しい【スキル】があれば自分で手に入れるしかないということが今はっきりとしている事実だ。
生産者になると言ってもどうやら簡単になれるほど人生はうまく出来ていないようだ。
<始まりの森>のセーフティエリアまで来たカノンは5つ貰ったポーションを全て捨てる。ビンに入っていた緑色の液体はどくどくと地面に吸い込まれ消えていった。
空になったビンを使用し、リンゴを入れる。もちろん潰して。
完成したのがこれだ。
<アイテム>
【果汁100%のリンゴジュース】
生産者 カノン。
新鮮なリンゴジュース。
「なるほど……ミキサー的なものを使わなくても潰して入れるとジュースになると。それにしてもあたしって結構握力あるんだね、うん。STRが関係あるのかな?
新しいことが出来るようになると人はそれを試したくなる生き物だ。
「それにしてもリンダさんの話だとふつうは初心者用のキットがあるらしいんだよね。ポーション作るのにも何をするにも。それを買えないあたしはどうすればいいの?」
ラムに助言を求めようと思ったが今現在装備品になっているラムに話しかけることは出来ない。これでは完全にぼっちだ。
仕方ないので一時ポーションづくりを中断し、自身のレベル上げをすることにした。いくら虫系統のモンスターが嫌いだからと言ってもこればかりは避けては通れないようだ。
セーフティエリアから出てすぐに【キラービー】というモンスターに遭遇した。体長一メートルはあろうかという化け物蜂だ。
この世界での初めての戦闘らしい戦闘。
ふとあることを思い出す。
「……そういえばラムのこと倒してないのに、なんで仲間に出来たんだろ。ま、いっか」
【テイマー】の効果には倒したモンスターを、と表記がある。つまりラムのことをいつの間にか倒してしまったことになるのか。
そんな疑問を持ちながら短剣を正眼に構え、相手の攻撃を待つ。
【キラービー】は初級モンスターの類だが、その攻撃はかなり強い。攻撃自体が強いというわけではなく、初めてで遭遇しやすいモンスターの中で唯一、状態異常を引き起こす攻撃を持っているからだ。
「カノン流!投擲術」
もちろん【スキル】などではない。カノンは正眼に構えた短剣を振り抜くようにして投擲。【キラービー】の一体にそれが直撃すると直撃した一対は儚く、そして叫び声に似た断末魔とともにただの肉塊になった。
素手になってしまったカノンは他の【キラービー】の攻撃を受けてしまうが、液状化のブレスレットの効果が発動しているのかそれほどダメージを受けることはなかった。
それでも巨大な針が自分を襲ってくるというのには恐怖感を覚える。ダメージを受けてみて分かったことが針での攻撃は一応斬撃に含まれるようだ。
針での攻撃をうまくバックステップで回避するとすかさず【キラービー】の懐に潜り込み、打撃を打ち込む。
「掌底破っ!」
【拳闘士】の技の一種、掌底破。内部破壊系のこの技はあまりにもグロテスク過ぎるということから嫌われている。
技がヒットした【キラービー】は少し膨張したかと思うとすぐに破裂した。STR補正が高いためか一撃でHPバーを全て刈り取る。
「なんだ……呆気ない。虫なんて滅んでしまえばいいのに」
突然アラームが鳴り響く。
恒例行事だ。
【キラービー】が仲間になりたそうにこちらを見ている。
「……殺……いえ、装備にしましょう」
本来なら虫を身に着けるなんてことはしたくはないが、ここは我慢するところだ。そうでもしないと当分の間、錆びれた短剣とボロいワンピースで過ごすことになる。それだけはどうしても避けたかった。
作者はそんなに虫は嫌いではありません。
短剣「使い方間違えてるよ!」
カノン「うるさい」
短剣「ぎゃあああ」
投擲ってそこまで間違えてもいない気もするけどね。