迷い迷う。
数匹のゴブリンを倒したカノンは周囲一体の時間が止まったような現象に襲われた
。害意がないためか(何を基準したかはカノン独自の判断なのだが)、とりあえず現在の状況を確認することにした。
「……ここは?」
そんなつぶやきも消えるだけで何かの反応があるわけでもない。
「……ルー?」
パートナーの様子を確認するが、近くにいる気配がない。つい先程まで一緒にいたはずの彼女はどこにも見当たらなかった。それにダンジョンに入ってから嫌というほどに感じていたじめじめとした湿気を感じない。それに匂いなども感じることはできない。
「この空間は一体?」
『レベルアップしました』
そんな機械音がカノンを驚かせる。
「レベルアップ?」
『レベルアップしました。ステータスを割り振ってください』
その言葉に反応するようにウインドが自動的に開かれ、等身大の自分自身が目の前に出現する。
『数値を任意で割り振ってください。前回途中中断を行ったため自動的に最適化を行いましたが、以後ご自分でお願い致します』
そういえば意識を失う前にそんなこともあったようなとカノンは記憶を探る。そして記憶がすぐに思い出せないものだとわかると、諦めステータスを割り振ることにした。
ステータスの数値を確認するとどの能力値もわずかばかり成長している。
【ステータス】
名前 カノン・ツヴァイ
種族 咎人
レベル 2
HP75/150
MP40/60
攻撃力8+50
防御力2+1
魔法攻撃力3
魔法防御力1
回避力9
速度9
技術力6
幸運1
残りBP10
「種族特性としてあがるステータスの他に自分でも能力値を挙げられるってことでいいのか?」
カノンは自分の目の前にある自分自身のアバターに数値化されているステータスをいじる。
「……攻撃力は武器でなんとかなってるから、まずは防御力だよな」
そう言うとカノンは持っているポイントの半分を防御へ回す。そして残った半分を速度へと変換した。
「これでよしと」
……どうするかな?
ステータスを割り振ったカノンはこの場所から出ることだけを考える。
「……」
『元の空間に戻られますか?』
カノンの考えていることに反応したようにそれは答える。ここに留まる理由もなかったためカノンはその問に対して頷く。
『了解しました、レベルの上昇を確認する度、以降この機能を使うことが出来ます。オートモードを推奨しますが、いかが致しますか?』
「どういうことだ、オートモードってのは」
『オートモードはレベルが上がる度、この空間に自動的に呼ばれるシステムです。他にはマニュアルモードがあり、そちらはステータス画面から任意でこちらへ来ることが出来ます』
そして声はこう付け足した。
『当空間にはプレーヤーの皆様の疑問になるべく答えるためのサポートとシステムが存在します。ご利用になられかどうかはご自由ですのでお気になさらず』
「なら、一つだけ。この世界から元の世界に戻ることは可能か?」
『可能ですが、ワールドクエストのクリアが条件となっています』
「わかった。ならダンジョンに戻してくれ」
どうやら初めにこの世界に来たときに言っていたことは間違いではないのかもしれない。いつまでここにいても状況が打開できるわけでもないため、カノンは戻ることにした。
◇◇◇◇ 愚者のダンジョン 1F 迷いの回廊
元のダンジョンに戻ってきたカノンは深呼吸をすることで意識を覚醒させる。
「ルー、何か異常は?」
「さっきからおんなじとこばっかだねー」
ルーリアは進みながら壁伝いに小型のナイフで印をつけて進んでいるが、どうも先ほどから同じ印ばかり目にしているらしい。
「進路変更するにも戻るしか道はないのか?」
「そいつはどうかな?」
カノンの問に対して誰かがそう言った。
「お?ああ、悪い。脅かせたか」
「別に」
「つんけんすんなよ、同輩。マップウインドを出してるってことは同輩だろ?」
そう言って馴れ馴れしい男はカノンに自分のマップを見せる。
「プレイヤーか。ところでアンタも道に迷ったのか?」
「はははは、随分男勝りだな。まあ、迷ったな。マップも正常に作動しないみたいだし。それにここにくるまで一本道だったはずなんだがな」
自分の身長を超えるであろう大剣を背負った彼は笑いながらどうすることもできないと言った。
「どうすることもできないって……それは困るな。ルー、帰還できそうな回廊って他にあるか?隠し回廊でもなんでもいいんだが」
「それならー」
ルーリアは何かに反応するように壁に向かって手を向ける。
「そこ、くうどうだよ」
大剣を持った男はすかさずそこの壁を破壊する。壁は強度がなかったためかすぐに壊れ、隠れていた空洞が露になる。
「そこはどこに繋がってる?」
「るーはわかんないよ、ただそこにあるだけ」
カノンは自分のマップで確認するがやはりこの道は一本道になっているだけでどこ外れる道があるわけでもない。ここは本来あるはずのない道なんだ。
「帰還回廊ってどんな場所か、わかるか?」
「アイルって試験管も言ってたが、帰還回廊ってのは大体は見つけることができない場所にあるらしいんだ、ってことはだ、これじゃねえのか?」
たぶんそうなのだろうとカノンも内心はそう思っている。どちらにしてもこれ以上は進む方法がない。
「ところでアンタはパートナーいないのか?」
「いないわけじゃないんだが、別の道に勝手に進んじまってどうしようもねぇんだよ」
「なるほど」
ここにいても何の解決にもならないということで両者が頷き、帰還回廊らしき道を進むことにした。
その道に入ってから数分すると光が見え、その光を潜るとカノンたちはダンジョンの外にいた。
「帰還回廊を使ったのか?それにしては随分早かったな。まだ潜ってから半日程度しか経ってないぞ」
ダンジョンを出てからそう声を掛けてきたのは試験管のライクだった。
「迷路みたいな、トラップにハマったんで戻った」
「迷路だ?そんなもんは一層にはないはずだがな、どんな状況だったんだ?」
カノンは自分たちの置かれた状況を事細かに説明した。
「それは幻術系の魔法だな。幻術系の魔法ってのは幻術に耐性がないと防ぎようがないからな、それに同じ幻術使いならなんとかできるだろうけど。今回発動してもんはかなり強力だな。一流の幻術使いだろうな」
カノンはここにいた連中のステータスをざっと覗き込んでいたが、そんな冒険者はいなかった。だが、同じプレイヤーならありえる話だ。同じプレイヤーならカノンの持つ目は使えない。最もそれはカノンだけが使える特技ではないのだが、比較する対象のいないカノンにはどうすることもできない話だった。
「今の段階で、高レベルの幻術系の【スキル】を持つってことはオリジナルの可能性が高いな」
「なんだ、お前さんも同じことを考えていたのか」
「そうだとしか考えられないからな、仮にプレイヤーだとすれば推測がしやすいから。問題はそれに対してどう対処すればいいのかって話に変わるんだけど」
現状ではあれを突破することはできない。
「……ルート変えよう」
カノンは妥協した。
<ステータス>
名前 カノン・ツヴァイ
種族 咎人
レベル 2
HP75/150
MP40/60
攻撃力8+50
防御力7+1
魔法攻撃力3
魔法防御力1
回避力9
速度14
技術力6
幸運1
所持金0ガルム
貯金2600ガルム
固有技能
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
【錬金術師】レベル1
既存技能
【テイマー】レベル1
職業技能
【薬師】レベル1
<装備>
武器 『カノンの木刀』(+20)
武器 『ツヴァイ・番の剣』(±0)
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。
【魔剣を継承せし者】
魔剣と契約を結んだ者に贈られる称号。
攻撃力『レベル×3』防御力+30%