三本の道
新しくリメイク版を作っていますので、
今まで呼んでくくださった方、これから読んで下さる方、ぜひそちらも読んで下さると幸いです。
◇◇◇◇ 愚者のダンジョン 第一階層
中へと入ったカノンは現在の状況を確認しつつ、地図を表示した。ダンジョン内は薄暗く遺跡を思わせるような造りをしていた。通路のあちらこちらにある灯は不気味な通路をより不気味に仕立てていた。
そして目の前には三本の分かれ道がある。それと三つの立札。
『左・この先進むなかれ。剣を取るならばススメ』
『中・この先財を求めるならススメ。命失うこと省みず』
『右・この先勇敢なるものよススメ。光なき道を』
カノンはこれを見てどう解釈するべきなのか考える。
「ルーはどう考える?」
「のんちゃんのまかせるのー」
完全に思考放棄しているところを見ると彼女はこういったものが苦手なのかもしれない。各方面に散らばる冒険者見習いを見ながらカノンは思考を巡らせた。
左の道はその先に進むと危険があることを示している。だが、その危険がフロアボスのことであれば、この試験をクリアするためには最短ルート。剣を取るならばということは戦いが必ずあることを意味している。
中の道は換金率の高いアイテムやレアアイテムがかなり豊富な場所なのかもしれない。ただそれらを手に入れるためには即死系のトラップが待ち構えているのが定石だ。
右の道はよくわからない。いくら考えても分からないものは分からない。ただその道を選ぶものが少ないという事だけは分かった。
カノンは木刀を装備すると一番人の多い、左の道を選択した。そしてその道に入ると同時にマッピングの難易度の高さも理解させられる。
一度道を選択し、その道に進むと後に戻ることが出来ない。道は一方通行になっているようだ。マッピングを完成させるにはもう一度ダンジョンに潜り直す必要があるようだ。
「なるほどな。マッピングするよりもフロアボスを倒す方が早いわけだ。【スキル】を手入れるにはどうしたら……いいものか」
スキルメイカーを手に入れて自分だけのスキルを作るか、それとも行動によって生じる経験からなる既存技能を手に入れるかカノンは一刻も早くスキルを充実させたいと思っていた。
「のんちゃんはなにができるの」
唐突にそんなことを聞いてきたルーリアに苦笑しながらも薬を作ることが出来るとそう答えた。
「俺は薬師だ。薬の扱い方ならかなりのもんだよ」
カノンがルーリアにそう言うと頭の中に機械音声が響く。
───習得意志を確認。
───習得条件達成により職業技能【薬師】を習得しました。
───習得条件達成により既存技能【調合】【合成】【分解】【調薬の心得】【抽出】がプレイヤーレベル上昇時追加されます。
……成程な。
「とりあえず今はレベルを上げろってことか」
カノンは自身の木刀に【錬金術師】を使用した。代価として材料のアイテムを二倍消費するが、あらゆる過程を無視し結果だけを作り上げるこのスキルはカノンに戦うための力を与えてくれる。
左の道を選択してから数分くらいすると小鬼であろう魔物に遭遇した。
レベルは2。
初心者でも倒すことが出来るが、それは一対一での話だ。ゴブリンの特性として集団での行動が挙げられる。このときのゴブリンのレベルは三倍から四倍だと言われている。
そして今回遭遇したのがレベル2の集団つまりレベル6からレベル8相当の手練れということだ。
まだレベルが1から上がっていないカノンにとって正直厳しい相手であり同様にルーリアにも厳しい相手だった。
【錬金術師】を使用したことでカノンの木刀は芯を石で補っているため以前よりは強度が上がっている。
強度が上がっているということはそれだけ攻撃力もある程度はプラスされているということだ。
カノンは冷静に自分の感情を押し殺すように眼前の敵に視線を送った。
「ギガガ」
「ギャギギ」
何を言っているのか普通なら分からないだろうが、カノンには彼らの言葉を理解することが出来た。
『エモノダ』
『コロシテ、ウバエ』
それを聞いたカノンはため息をつく。
「悪いが、殺すのは俺達だ」
そう言うと静かに腰を低く、抜刀の構えを取る。
「ルーは援護だ」
「あいあいさー」
気合の入らないその声は既に詠唱の準備に入っている。自分にできることを瞬時に理解する辺りルーリアは優秀だ。
カノンは状態を変えることはせず、その状態を維持したまま地面を強く蹴った。
───【罪の剣】発動条件を達成。
「奪うこと。それが今の生き方だ」
カノンは一気にゴブリンの懐まで潜り込むと刀を振り抜いた。スキル効果で斬れ味が増しているため刃が無くてとも切り付けることが出来た。
斬られたゴブリンは抵抗することなく動かなくなった。それを見た他のゴブリンたちが一斉に咆哮を上げる。まるで弔い合戦だと言わんばかりに。
カノンが一度距離を取ると先ほどまでカノンがいた場所が燃え上がった。
「るーはたくさんもやす」
おそらくルーリアの【火魔法】が発動してるとカノンは推測した。詠唱までは聞き取れなかったが発動した現象を見る限りでは第一階梯にあたる【ファイアボール】だろう。
【火魔法】に含まれる術式は全部で第五階梯までそのうち第一階梯が先程ルーリアが使用した【ファイアボール】だ。ただ一般的な【ファイアボール】と違ってかなりの威力であることからほかのスキルも同時に発動してるのだと考えられる。思い当るのは【魔力増強】だろうか、【単詠唱】だという可能性も考えられるが今はそんな検証をしている暇はない。
燃やされているゴブリンを放置することに決め、カノンはポーチから召喚石を取り出す。もちろん召喚するのは彼だ。
「サモン、ラム」
元々低階層のモンスターであるラムの召喚には詠唱なんて必要ないのだが、ノリだ。
「ラム、仕事だよ」
『わかった』
ラムはそれだけいうと器用に触手を伸ばしてゴブリンを締め付ける。そしてただ締め付けるだけではなくラムの持つスキル【血流操作】でゴブリンの血の流れを反転させる。
するとゴブリンから大量に血が溢れ出し、そのまま絶命した。
「のんちゃん……こわい、あれ」
「俺の大切な仲間だから大丈夫だ」
ぷむぷむと可愛らしい音を立てながらカノンに近付くラムに、ルーリアは明らかに怯えていた。
「大丈夫だって」
カノンはラムを頭に乗せたまま、進行することに決めた。ルーリアもラムが危害を加えないことを理解したのかそのまま一緒に移動することにした。
「こいつはブラッティスライムって種類のスライムだから普通とはちょっと違う」
「はじめてみた」
それはそうだろう。ギルドに置かれていた魔物図鑑で調べたのだが、ブラッティスライムなんて名前の魔物はいなかった。そもそもスライムは色違いがいるだけで上位種なる存在は確認できていないとのことだった。
使役しているモンスターが独自の進化を持っているのかそれともただの突然変異なのかそれはおいおい検証していくとしよう。
カノンは静かに暗い道の先を見ながらそう思った。
<ステータス>
名前 カノン・ツヴァイ
種族 咎人
レベル 1
HP80/80
MP40/40
攻撃力5+50
防御力1+1
魔法攻撃力2
魔法防御力1
回避力7
速度7
技術力4
幸運1
所持金0ガルム
貯金2600ガルム
固有技能ユニークスキル
【罪ギルティの剣ブレイドⅠ】レベル1
独自技能
【錬金術師】レベル1
既存技能
【テイマー】レベル1
職業技能
【薬師】レベル1
<装備>
武器 『カノンの木刀』(+20)
武器 『ツヴァイ・番の剣』(±0)
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。
【魔剣を継承せし者】
魔剣と契約を結んだ者に贈られる称号。
攻撃力『レベル×3』防御力+30%