試験開始
◇◇◇◇ <始まりの街>ラシュヘイト領・ウィンドル。 ギルド前
ギルドはいつも以上に騒然としていた。それもそのはずだった。今日は月に二度行われる昇格試験と入団試験が同時に行われる日だからだ。
昇格試験を待ち構えた人間はどこか殺伐とした、入団試験を待ち構えた人間は緊張した面持ちだった。
カノンは特に気負うこともなく、受付のお姉さんに奢ってもらった肉焼き串を頬張っていた。
「それにしてもよく食べるわね」
「腹が減っていては何も出来ないって昔誰かに言われたような気がする」
「なんだか曖昧ね。わたしとしてはよく喉を通るわねって言いたかったんだけど」
カノンは緊張してもしょうがないと新しい串に手を付けていた。
「マヤさん的には今回どれくらい合格出来そう?」
「半分くらいでしょうね。カノンくんとしてはどれくらい自身があるの?」
いつの間にかやって来たシェーレがマヤにそんなことを聞いていた。カノンはとりあえずやるだけのことをやるだけだと答えた。
「あんまり気負わない方がいいわ、あと番人に書類を渡してきてね。そしたらエントリーされるから」
「武器は『番の剣』を使うの?」
「あれは使わないさ、そのために大量に作ったこれがある」
カノンの装備をよく見るといたるところに木製の短剣が仕込まれていた。そしてメインとして二振りの木刀。
エントリーするための用紙を番人に渡すと
「ギルドは基本ギルド員の対して生死を保障しない。あくまで仕事を斡旋する為だけの場であることを理解したうえで試験に臨まれるといいでしょう」
要するに試験中に死ぬことになってもそれは自己責任ということなのだろうとカノンは解釈した。
番人に連れられて試験会場へ到着するとカノンは同郷の人間らしき人たちを多数見かけたが声を掛けるようなことはせず、これから行われる試験の内容に耳を傾けていた。
「この度の試験監督官を務めるアイル・ド・フェイカーだ。一次試験はタッグを組んでダンジョンに潜ってもらう。第一階層のフロアボスを倒せば、戻ってきて構わない。ただリタイアするなら今のうちにしておいた方がいいぞ」
ダンジョンに潜るということは実力のない者の死を意味している。カノンは自分がもしかしたら死ぬかもしれないと思いつつもパートナーとなってくれそうな人を探した。
「貴女と組むつもりはないわ。ほかを当たりなさい」
全てを拒むような雰囲気を放つ女性は黙ってこちらを見ていた。
だから声を掛けたというのに。
「……ま、それでもいいんだけど」
カノンは女性のニュアンスを気にしながらも、試験監督官に尋ねることにした。
「この試験って必ず誰かとペアを組まないとだめなの?」
「そうだな、必ずってわけではないが……どうしたペアが見つからないのか?」
「……」
カノンの視線に気付いたのかアイルは警告する。
「お前は死なない自信があるのか?無いならあれには近付かないほうがいい。もし、お前が絶対に死なないと言い切れるのならあれに声を掛ければいい。これは俺から言える忠告だ」
「なら、るーとくもうよ」
「……どこ?」
身長的にカノンより小さく、見た目もかなり幼く見える少年なのか少女が話しかけてきた。
「るーはここだよ」
「何でも子供が……」
「るーはこうみえても19さいだよ」
カノンはこの子供が何を言っているのか分からず頭を抱えそうになった。
「おい試験監督官」
「アイルで構わないぞ、それよりどうした?」
「そいつのことなら半精霊だな、見た目はあれだがかなり頼りになるはずだ。半精霊は魔法を得意としているからな」
多少なりとも情報があるということは彼女はプレイヤーではないんだろう。
カノンは少し目を瞑り、組もうかと短く答えた。
◇◇◇◇ オリオス
俺は戦うことが好きだ。
戦闘狂と呼ばれても仕方ないくらいに。
リアルでも武術を嗜んでいた。自分を強く鍛え上げるためには必要なことだった。俺は強くなることが好きだった。
何も出来ない自分が嫌いだった。
だから強くなるためには何でもやった。強くなろうとしているとき、俺は強さに種類があるのだと知った。
暴力だけが強さではない。財力であり、知力であり、カリスマ性であり、精神性だったり、例をあげたら正直なところ切がない。
だから俺はその強さを否定する奴が嫌いだった。強さの否定は自分の弱さを認めないから否定したくなる。
弱い人間は自分より劣るであろう人間を痛めつけることで自分が救われようとする。
俺はそれを見て憐れだと思う。
とある場所で俺はそれを見た。一人の人間が路地裏で集団に虐められている風景だ。その時の俺は何を思ったのかそれを止めようとは思わなかった。
「……なんとか言えよ」
虐められている少年を見るが、いじめを受けるような印象を持たない。印象で言えば万人受けしそうなくらいの少年だ。
何故、その疑問が浮かんだと同時に俺は寒気を感じた。
それは一瞬だったが、人間が放てるような殺気とは桁外れの殺気だ。武術を嗜んでいたから気付けたのか、いじめをやっている連中は気付いていない。
彼の本質がそこにあるようなそんな殺気に俺は恐怖を感じた。
本質的な壊す者。破壊の体現者。
「……しかし」
彼は本質を隠しているように見えた。自身で本質を理解しながらもそれを隠そうとする素振りが見えた。
どうしてなのか理解は出来なかったが、それでも人間社会で生きるためには彼の行動は必然なものだったと思った。
法があるこの世界では必要とされない本質故に、彼はそうしていたのかもしれない。
だから再び”彼女”に会った時、震えが止まらなかった。
「面白い」
戦闘狂の血が騒ぐ。狩る側の本質を持つ人間がこの世界でどんな動きをするのかかなりの興味があった。スキルというシステム以外はほとんど現実と変わらないこの世界なら。
俺はそう思うと愉快な気持ちにさせられる。
「誰がこの世界に連れてきたかは知らんが面白いことをしてくれた」
俺は不敵に笑みを浮かべた。
<ステータス>
<ステータス>
名前 オリオス
種族 獣人
レベル 2
HP190/190
MP100/100
攻撃力30+20
防御力20+60
魔法攻撃力13
魔法防御力22
回避力21
速度15
技術力4
幸運11
所持金3000ガルム
貯金0ガルム
固有技能
【獣化】
独自技能
【静かなる闘志】レベル2
【意志無き拳】レベル1
【英雄末路】レベル1
既存技能
【加速】レベル1
職業技能
【狂戦士】レベル1
<装備>
武器 『鋼鉄の剣』(+40)
武器 なし
盾 木の盾(+20)
頭 なし
胴体 チェーンガード(+46)
腰 チェーンベルト(+80)
脚 ブーツ(+13)
羽織 なし
装飾 『激昂の指輪』
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。
<ステータス>
名前 カノン・ツヴァイ
種族 咎人
レベル 1
HP80/80
MP40/40
攻撃力5+50
防御力1+1
魔法攻撃力2
魔法防御力1
回避力7
速度7
技術力4
幸運1
所持金0ガルム
貯金2600ガルム
固有技能ユニークスキル
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
【錬金術師】レベル1
既存技能
【テイマー】レベル1
職業技能
なし
<装備>
武器 『カノンの木刀』(+20)
武器 『ツヴァイ・番の剣』(±0)
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。
【魔剣を継承せし者】
魔剣と契約を結んだ者に贈られる称号。
攻撃力『レベル×3』防御力+30%