試すことは悪いことじゃない
大変遅くなりました。
繁忙期って大変ですね。三度目の経験ですけど毎年大変です。
さて、今回は少しだけ長めになってます。
街に到着したカノンは、シェーレと共にギルドへと来ていた。ゲームの頃とギルドのある場所が変わっていたため、カノンには分からなかった。
傭兵派遣所と書かれた看板を目にしたカノンは、少し驚きを見せるが別に仕事が変わるわけではないので、それほど気にしなかった。
「……お金さえ、払えれば誰でもギルドには入ることが出来るんだけど、それが結構いい額なんだよ」
「へぇ」
「あまり興味なさそうだね、カノンはどうしてあんな場所にいたの?それにその装備を見る限りだと教練所に通ってないよね」
「教練所?何かを教えてくれる場所なのか?」
カノンは初めて聞く名前に怪訝そう顔をした。
「簡単なサバイバル法みたいなものだよ。大抵そこで技術を付けてからギルドに入るようになってるんだよ。そこに行けば半額でギルドに所属出来るようになるし、ある程度は一人でもなんとかなる技術を身に着けることも出来るから」
そこに通うのにもお金がかかるけどねと、シェーレは付け足した。
「どちらにしてもお金は大事と……」
「そういえば、カノンはどこの出身なの?」
「出身か……忘れたよ」
出身がどこかなんて説明してもシェーレには分かるわけがない。カノンは説明するのが面倒で誤魔化すことにした。
「そんなことよりも、どうすればこの素材を換金することが出来る?」
シェーレはここで新たな情報を教えてくれた。
「ギルドカードを持ってないと換金することは出来ないよ。モンスターの素材をお店とかに売るだけなら通常の傭兵のギルドカードだけでいいんだけど、もし商売をしようとすれば、商業用のギルドカードも必要になってくるよ。ギルドカードって結構重要な役割を持ってるから失くさないようにしないといけないし」
小さく咳払い。
「それとだよ、例えば森の中で死んでいるギルドに所属している人を見つけたとするよ。当然ギルドに名前を置いているからカードを所有している。そのカードをギルドに届けると一応手当みたいなのが出るから積極的に拾ってあげるといい。それが自分の利益のためにもなるし、登録していたご家族への連絡もできるようになるし」
「なるほど。気になっていたんだが、シェーレはギルドで働いてもう長いのか?」
「四年くらいかな。教練所に通ってた期間を合わせるとそれくらい。実際に依頼を受けるようになったのはまだ一年くらいなんだけど。カノンはギルドに入るの?」
「入ろうにも金がないから。それに今の話を聞く限りだと簡単に換金もできないようだし。しばらくはどうやって金を稼ぐか考えるとするよ」
それを聞いたシェーレは少し考えるような素振りをした。
「なんなら口添えしてあげようか?ギルド員からの紹介だと格安で所属できるようになるし、それにもしかすれば無料で登録できるようになるかもしれないよ。ただ、少しの間紹介した人間と一緒にクエストを受け続けないといけないけど。それに依頼の報酬は半額以上ギルドがもらうような形になるような制度もあるけど」
カノンからして見れば願ってもない相談だった。
「じゃあ決まりだね。掛け合ってみるから少し待っててよ」
それを聞いたカノンは近くにあった椅子に腰をかけた。手持ちのアイテムを確認するとカノンには必要ない回復薬を取り出し、それを一滴自分の手の甲に垂らしてみると火傷のように腫れあがった。
「……やっぱこれは使えないか」
「何してるの?って腫れてるじゃん!」
「気にしなくていい。それよりギルドカードは発行してもらえたのか?」
「そのことで呼びにきたんだよ」
シェーレはそう言うとカノンを連れて受付まで行った。
「マヤさん、この人がギルドに入りたいって人です」
マヤと呼ばれた受付嬢は品定めするようにカノンを見ると
「女の子?」
開口一番にそれだった。
「……どこへいってもこの扱いか。俺は男だ」
「あら、ごめんなさい。ちょっとした冗談よ。それよりも君は本当にギルドに所属したいと思っている?」
どういう意味でそういったのか真意は理解できなかったが、カノンはとりあえず頷いた。
「ならう少しだけ試させてもらってもいいかしら。これから少しだけ訓練所を開きますので、そこである人物と戦ってください」
「それが俺の試験ってことか?そこで判断した実力次第で必要経費を判断させていただきます」
マヤがそう言うとシェーレは誰が対戦相手になるのか尋ねた。
「駄目です!!!」
それを聞いたシェーレは敵を威嚇する獣のように吠えた。
「……規定よ、シェーレ。それにこの程度で音を上げるようではギルドでは生き残れない。それにカノン、一つ言っておくけどギルドは団員に対して生死を保証するようなことはないわ」
「それで構わない。どちらにしても死んでいるようなものだ」
マヤは書類をまとめるとそれをカノンに渡した。
「それを持って訓練所に行けば、番人って呼ばれる人がいるはずだからその人にその書類を渡して。そうすれば中にはいることが出来るようになるから」
「わかった」
「あと言い忘れていたのだけれど、集めてきた素材の換金もやってあげるから、一文無しだと今日泊まる宿も確保出来ないでしょうし。それと訓練所は明日開くようになってるから、試験をする前にある程度装備も整えておきなさい」
カノンはマヤの忠告通り換金してもらった資金で装備をどうにかするつもりだった。
「今回はシェーレの初回ってことだからシェーレがしっかり面倒みてあげるの、わかってるシェーレ」
「マヤさんは心配し過ぎですよ。僕だってそれくらい」
ならといいわとマヤはカノンに向き直る。
「試験といってもほとんど戦闘がメインになるわ、明日あなたの教官をやることになってる人だけど、性格にちょっと問題があって、脳内が戦闘のことしか考えてない人だけど……ま、死なない程度に頑張ってね」
「……それって俺に死ねって言ってるようなもんじゃ……どっちにしても死んでいるようなもんだから別に問題はない」
カノンはキリングベアの素材を換金してもらうとそれなりの大金になったので、先にギルドの外で待つことにした。
ギルドの外で町の様子を観察していて、この町は人々が生きることに精一杯なのだと感じた。
子供ですらお金を稼ぐことに汗を流し、人々が忙しそうに町を徘徊している。
「この町はこれでも裕福な方なんだよ。ほかの町に比べれば、治安もそれなりにはいいし、でも暗い場所には一人でいかないようにしないといけない。この町に限らず、どんな町でもゴロツキっているから。それに彼らは本当に容赦なく奪うものを奪うから」
そう語るシェーレの手は血が滲むほどに強く握り締められていた。
「何かあったのか?依頼完了の報告だけにしてはずいぶんと時間がかかったようだけど」
「君の手続きをしてたんだよ。君は一応記憶喪失って扱いになってるから。その方が出身を聞かれなくても済むし、あまり立ち入ったことは聞かれないで済むから」
「済まないな、面倒かけて」
シェーレは笑顔で別に気にしてないよと答えるとカノンを武器屋に案内するとカノンの腕を引っ張った。
◇◇◇◇ <始まりの街>ラシュヘイト領・ウィンドル。『武器屋前』
「ここってラシュヘイトの所属になるのか」
カノンは地図を見ながらそう答えた。
「そうだよ。ラシュヘイトの東にあるのがここ叡智の都ウィンドル。昔は叡智の都って呼ばれ方をしてたんだけど、今では森の都の方が正しいかな。ここから少し離れたところに叡智の塔って呼ばれる場所があるんだ。塔って言っても上に伸びているわけじゃなくて、何階層も下に伸びているんだって」
シェーレはどこの屋台で買ってきたのか分からないが、ホットドックのようなものを食べながらそう言った。
「それよりも武器を買おうよ、その装備じゃ流石に試験はきついよ」
それを聞いていたのか気前の良さそうな店主が話しかけてきた。
「なんでい、兄ちゃんは試験を受けるのか?」
「ライクさん失礼なこと言ってますよ、カノンは女の子です」
「……そうかい?筋肉の付き片からして男だと思ったんだがな。がははは悪いな嬢ちゃん」
「店主、俺は男で間違いないぞ」
気前の良さそうな店主もといライクは豪快に笑いながら、どっちでもいいことだと笑い飛ばした。
「俺的には結構気にしてるんだがな……」
「カノンって言ったか?」
「ああ」
「間違ってたら悪いんだが、お前さん咎人だな」
「ああ」
「……なるほど。通りで」
ライクはカノンに装備された木刀を見ながら小さく頷いた。
「お前さんに引き取ってもらいたいものがあるんだが……」
ライクは試すような視線でカノンを見ながらそう言った。そして付け加える。失敗すれば死ぬかもしれないと。
カノンは上等だと返した。
<ステータス>
名前 カノン
種族 咎人
レベル 1
HP80/80
MP40/40
攻撃力5+7
防御力1+1
魔法攻撃力2
魔法防御力1
回避力7
速度7+2
技術力4
幸運1
所持金0ガルム
貯金0ガルム
固有技能
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
【錬金術師】レベル1
既存技能
【テイマー】レベル1
職業技能
なし
<装備>
武器 『カノンの木刀』(+20)
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。