三度、出会う。
街道を探索していて気付いたことは、この世界の原住民にあまり遭遇しないことだ。もちろん街の中を歩いているときはそれなりにすれ違ったが、外に出てみれば出会うことは皆無に等しい確率で出会っていない。
代わりに出会ったのはカノンが溺愛しているブルースライムだった。
「……もしテイムの条件があれだったら……」
これは現実である。それがカノンの行動を縛り付けていた。もしこれが現実であれば……。
けれど、基本カノンはバカである。それが命が掛かっていようともカノンの本質が変わることはなかった。
『ぷるん、ぷるぷる』
目の前にいるブルースライムはその柔らかそうな身体をくねらせながら、こちらをじっと見ている。見ているという表現は聊か違うような気もする。ブルースライムには眼がないのだ。
おまけに口もなければ、耳も鼻もない。手もなければ足もない。どこが頭でどこが胴体なのか分からない。そんな液体状であり固体状のその生物は警戒しているのかそれともただ震えているのか分からない動作をしながらおそらくこちらを見ている。
こちらの気配に気付いている。
「……俺は……」
武器もなければ、しっかりとした防具があるわけでもない。そうなれば行動は一つだった。
持ち上げる。
触る。
そして抱き抱えるのトリプルコンボだった。もちろん相手が魔物であるため起こり得る現象はただ一つのはずだった。
これが本来であればダメージを受ける行為に繋がり死ぬはずだったのだが、カノンは体感的にダメージを受けているようには感じなかった。
スライムの攻撃方法は自身の身体を使った体当たりともう一つは吸収がある。抱き抱えられているため、体当たりは使えず吸収を当然のように行ったのだが、それがスライムにとって誤りであり、カノンが知らなかった事実だ。
カノンの種族『咎人』は罪深き種族であり、精霊や神様だのそういうものからは一切祝福されないことで、回復薬などは全て受け付けない。
要するに回復薬を使ってしまえば、ダメージを受ける。解毒薬を使えば毒状態になる。
カノンは体力は一般的に行ってしまえば毒なのだ。身体が毒で出来ているためにそれを治療しようとするアイテムは全てカノンにとって毒となる。
では、こういうのはどうだろうか。
毒である身体を持つカノンの体力を奪おうとするスライムのスキル【吸収】。カノンがスライムをよく見ると徐々に体力が減っているスライムがいた。
すでに弱り切ったスライムはこちらを見ている。
「……もしかして苦しかった?」
完全に違うことを考えているカノンであったが、身体の奥から何か熱いものがこみあげてくるのが分かった。
それが何なのか直感で理解することが出来た。
───スキルを習得しました。
───【テイマー】を解放します。
「……前と条件が変わった?でも……それよりも」
目の前にいるスライムに向かってカノンは話しかける。
「一緒に来てくれる?俺はさ、弱いからさ……手伝ってくれるとうれしいんだよ」
『ぷるぷる、ぷる?』
「そう簡単に言葉は分からないか。でもなんとなくだけど」
───スライムが貴方に従います。
───名前を付けてあげてください。
脳内に直接響く声が何なのか分からないことが多いけど、カノンはスライムを抱き抱えて短く
『ラム』
そう呟いた。
◇◇◇◇ 数時間後。
やはりゲームだった頃と同様に魔物たちとの触れ合ってみて分かったことなのだが、ステータスが存在する。
この世界で生きるものには全てステータスがあるのかもしれない。
カノンがここ数時間で手に入れた情報だった。
<ステータス>
名前 ラム
種族 ブルースライム
レベル 2
既存技能
【吸収】レベル1 【物攻半減】レベル1
細かいステータスまで表示されるわけではないが、必要な情報を手に入れることが出来た。自分の使い魔が何が出来るのかしっかりと把握しておくことが、召喚師の役目でもある。
頼もしい?仲間が出来たのでカノンは近くに転がっている石や木の枝を集めながら森に向かうことにした。
森の入口には<始まりの森>と書かれていたが、この世界の人からすれば何のことやらって感じだなと思いつつ、昼間なのに薄暗い森の中へと入っていった。
自分の特性に気付きつつあるカノンは毒系統の魔物が出てきても平気なのではと考える。
試すのが怖くて試せないのもまた事実ではあるが、今はそれでいいのかもしれない。
カノンはテイムしたばかりのラムを頭に乗せながら、ゆっくりと散策するのだった。
◇◇◇◇ <始まりの街> シオンサイド
あたしには一人兄がいる。あたしの兄はひどく母似で女性に見間違う程、女性的だ。あたしは兄が好きだった。いつも優しく、どんな時でも自分という人格を曲げることのない兄が好きだった。
けれど、ある日兄は変わってしまった。
兄は自分を捨てた。これは言葉の綾であり自分なんてものを捨てられるはずもない。なら。
元々兄は誰かのためにしか生きられないようなそんな自己犠牲精神の塊のような人だった。
それは兄の長所であり、同時に兄の短所でもあった。
その性格が起因しある事件が起きた。
それはいじめだ。
学校へ行けば、職場へ行けば、多少なり存在するそれがあたしの大好きな兄を変えてしまった。
もちろん兄が虐められていたというわけではない。兄は虐められていたクラスメイトを助け、そして標的が替わっただけの話。
虐められている人がいたから、困っている人がいたから。ただそれだけの理由で、兄は貶められた。
けれど表面的なものは変わることはなかった。いつも通りの兄だった。兄を知らない人からすれば何も変わっていないように見える。
兄は変わってしまった。あたしが兄に対する接し方を変えたのもこのころの話。
兄はゲームが好きだった。家にいるときは今まで以上にゲームにのめり込むことが多くなった。あたしが声を掛けても反応してくれないほどに。
だからあたしは考えた。兄と同じゲームで誰よりも強くなれば、もう一度兄はあたしを見てくれのではないかと。
だから兄がやるであろうゲームをβ版からやり込み、いつしか最強とまで呼ばれるようになっていた。
でも、あたしは弱いままだった。兄を馬鹿にするような態度を取り続けてもあたしは弱いままだった。
この世界に来てあたしは兄を見つけた。兄はいつも変わらぬ表情でよくわからないデスゲーム宣告を聞いていたが、あたしは怖かった。
死ぬこともそうだが、兄が死んでしまうのではないかとあたしはそう思った。兄は弱いから、あたしも弱いけど兄は弱いから。
だから兄を見つけたあたしは泣いてしまった。
兄を見つけて抱き付いて泣いてしまった。
でも、いつまで泣いていられるわけじゃない。あたしは兄を救いたい。兄の一番で在りたいから。兄のために強くなろうと決めた。
涙を振り払ってこういうんだ。
「もう、あたしは行くよ。早く元の世界に戻りたいしね」
笑顔であたしはこういった。
<ステータス>
名前 シオン
種族 ヒューマン
レベル0
HP50/50
MP30/30
攻撃力3
防御力2
魔法攻撃力2
魔法防御力2
回避力2
速度2
技術力3
幸運3
所持金0ガルム
貯金0ガルム
固有技能
なし
独自技能
【転】レベル1
【純血の紅蓮衝】レベル1
【絶対領域】
既存技能
なし
職業技能
なし
<装備>
武器 なし
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。
<ステータス>
名前 カノン
種族 咎人
レベル 0
HP70/70
MP20/20
攻撃力2
防御力1
魔法攻撃力1
魔法防御力1
回避力5
速度5
技術力3
幸運1
所持金0ガルム
貯金0ガルム
固有技能
【罪の剣Ⅰ】レベル1
独自技能
【錬金術師】レベル1
既存技能
なし
職業技能
なし
<装備>
武器 なし
盾 なし
頭 なし
胴体 村人の衣服(+1)
腰 中古の腰巻(±0)
脚 壊れかけのサンダル(±0)
羽織 なし
装飾 なし
なし
なし
なし
<称号>
【被験体】
一度だけ体力が1残る。※町に戻ることでリセット。
【異界の放浪者】
異世界からやって来た者。