ボス撃破
カノンが独自のエクスプロージョンを発動させ、取り巻きのモンスターたちを一掃すると、一度後方へ下がりアイテムの在庫を確認する。
今回この技に使ったアイテムは小石が230個ほど。持っている小石を全て擲って使った技だけあって攻撃力はそれなりにある。
同じ技を鉄鉱石や他の鉱石、レア度の高いアイテムを使うとさらに攻撃力が高まるのだが、そんな無駄な行為は出来ない。
必要とあれば使うことがあるかもしれないが、簡単に手に入る小石を使った方が燃費面を考えるといいのかもしれない。
カノンはアイテムウインドを閉じながらそんなことを考えていた。
「……範囲的にこの技は問題ばっかなんだよね。範囲内にいる対象全てに攻撃だから……でも、どうしてだろうね」
虚空にカノンは尋ねる。
『我に攻撃が当たらなかったことに、か?』
「そうなんだよね、範囲内全てが対象ということは発動者以外は攻撃対象になるということ。……ん?」
『そういうことだ……我は、マスターの一部。つまりは発動者として対象からは除外されている。理解出来たか?』
カノンの後ろにはいつの間にかカノン同様に取り巻きたちを討伐し、カノンのそばに戻ってきていた。
『それよりも援護しなくてもよいのか、マスターよ』
「あれなら大丈夫でしょ」
そう言ったカノンは不吉な光を見た。
◇◇◇◇
「カノンたちがやってくれた!あとはこいつを片付けるだけだ!!」
『西方の聖騎士団』は士気が上がっていた。もちろんその原因として考えられるのはカノンの攻撃を目にしたからだろう。
あの攻撃がどういうものなのか理解していない彼らはもう一度あの技を使ってボスを倒すことが出来ると考えていた。
「カノンさっきの技もう一度使ってくれ!」
「無理だよ」
「な、なんだとおおおおおお」
「いや、無理だから」
カノンは【剣士】の防御術・剣士の心得を使い治癒能力と物理防御力を高める。
「あれを使うには最低でも同一のアイテムを100個以上持ってないと出来ないし」
ただし、瞬間生成を使うことは出来る。瞬間生成から繋げ技である武装宝物庫を使うには先ほどもカノンが言ったようにアイテムを大量に消費する。
「意地を見せてよ」
カノンの言葉にグレイたちは鼓舞する。
「やってやるよ、オリジナルスキル・【絶対防御】発動」
グレイはボスから一定距離を取ると、オリジナルスキルを発動させる。グレイの【絶対防御】の効力は味方全体の物理防御、魔法防御を高める防御系のスキルだ。オリジナルスキルにしては代償が軽く、自身のヘイト値が一気に上昇するだけで済む。
その上グレイの防御力はこの中どころか、ゲーム内でも群を抜いている。そのグレイが壁役を引き受けたこのパーティーは強かった。
「こっちを向け!!牛野郎!!」
【挑発】を使ったグレイのヘイト値はさらに上がる。
「団長が引き付けているんだ!!こっちだって」
誰かがそう叫んだ。
「残りHPバー一本だ!!」
「パターン変わるぞ!」
ミノタウロスの背中から5、6メートルはあるであろう大鎌が出現し、それを一気に振り抜く。
「……くっ!!」
グレイや他の前衛陣は後方まで飛ばされ、何人かはそのままリタイアした。
「前回とさらにパターンが違うぞ」
60秒経ったカノン待機状態から回復すると、『蛇殺し』を装備する。
「さて、行くよ。カタフラクト」
『承知』
「一気に片付ける」
カノンは脚に力を入れると地面が割れんばかりの勢いで強く蹴った。ミノタウロスが大鎌を再度振り抜くのを視認したカノンは【見切り】を使って最小限で回避すると腕に力を込める。
「【剣術Ⅰ】・≪一閃≫」
任意でスキルを発動し、動作をシステムがアシストする。
大鎌を狙ったカノンの攻撃は見事に決まり、大鎌を弾き飛ばした。
「あとは任せるよ」
ラストアタックで得られるボーナスには興味がなく、カノンはそのまま後ろに下がりながら、この後の行方を観察することにした。
◇◇◇◇ 第二の街 フェルス
大鎌を弾き飛ばした後のミノタウロスの攻撃は単調なもので呆気なく苦戦することもなく、無事にクリアすることが出来た。
ミノタウロスの後ろにあった巨大な門はミノタウロスが消失したことで開き、その向こう側へ行くと、カノンはあるものを目にした。
カノンが目にしたものは『クリア碑』と呼ばれる石碑でここを突破してきた者たちの名前が記されている。
そしてそれを見ていたカノンはある名前を見て驚いた。
単独クリア 時雨 夜叉丸。
クリアタイム 0時間40分。
初回クリアボーナス獲得。
「……は?」
カノンはすぐに念話で夜叉丸に呼びかける。
(先にクリアしてたんなら教えてくれてもよかったじゃん)
(何だ、今クリアしたのはギルマスだったのか。それに俺は言ったはずだがな、酒を買ってくるって。てっきり酒はこの町以降からじゃないと出現しないものだからあれだけ言えば伝わると思ったんだがな)
それを聞いたカノンは項垂れた。そう言えばそうだった、と。
「カノン、俺達はこれからこの街に拠点を作るつもりだが、お前はどうする?」
「『あたし』はまだやり残したことがあるからあの街に戻ることにするよ。また何か機会があったらよろしく」
「そうだな」
そう言ってグレイたちと別れたカノンは町の中心部にあるクリスタルを使用して第一の街に戻った。




