初、共同作業・後編
『お呼びか、マスター』
カノンが召喚したのは、骸骨の戦士だった。その骸骨はそこらに徘徊しているようなスケルトンとは違い、どこか威厳のようなものを感じさせた。
「これが『あたし』の新しいお友達」
『異論ありだ、友などではなく、戦友だ』
どこから声を出しているのか分からないような機械的な音声は、そう告げる。グレイたち『西方の聖騎士団』は一瞬、呆気にとられるが、やはりトップのギルドを名乗っているだけはあり、すぐに平常運転に戻った。
「なるほど、これは強そうだ」
「強そうじゃなくて強いから。それに剣術だけなら『あたし』よりも上だし」
カタフラクトの【剣術Ⅰ】はレベル14。トッププレイヤーでもそこまで上げているやつはいないはずだ。そのスキルレベルは伊達ではなく、カノンが【見切り』を使ってギリギリ躱せるくらいには剣速が上がっている。
ギリギリということは多少当たることであり、HPが僅かに削れる。カノンが【見切り】と並行して【思考加速】を使用すれば完全に躱せるが、そのスキルを持っていないとなるとまともにやり合うのは厳しい。
『マスター、謙遜という言葉を知っているか?』
「バカにしているの?そこくらい知ってるよ」
『マスターには謙遜の意思はなし。なるほど……だが、能力を隠すために謙遜しているような奴よりはマシか』
カタフラクトは自分の中で会話を完結させ、それ以上何かを言ってくるようなことはなかったが、相も変わらず上からものを言うものだとカノンは思った。
けれど、それでいい。こいつの実力は本物なのだからとカノンは思う。
◇◇◇◇
ボス部屋の中に入ったカノンは初めてボスの姿を視認した。巨大な鈍器を片手に荒々しい息遣いをした、ミノタウロスとも言えるモンスターの姿を。
HPゲージを見る限りでは、四本と妥当なところなのかもしれない。因みに一本当たりの体力量は2000程。
ダンジョンに出てくるボスモンスターよりは高い体力を有している。
「……独特な雰囲気だね。正直びっくりだよ」
カノンは冷静に武装の確認をする。それと同時に周囲の確認。取り巻きのコボルトソルジャーが四体。HPは900ほど。
「俺らが最初にクリアするぞおおおおお!!!」
グレイがそう叫ぶと他のメンバーもそれに続く。
「カノンは思うままに斬り刻め!防御はこっちに任せろ」
「了解」
カノンは『蛇殺し』を下段に構え、そして大剣を引きずるように走る。石畳の上をカノンが走ると同時に火花が散る。
それにより激しい金属音が鳴り響いた。
攻撃術、残響。
ボスにはもちろん効果がない状態異常を引き起こす攻撃をカノンは行った。
状態異常・麻痺
「そんな技があるなら事前に言え!!」
カノンはグレイの言葉に返答することもなく、カタフラクトに指示を出す。
「右半分をお願い、『あたし』は左を殺る」
『承知』
カノンたちが駆け出すとグレイはため息をしながら、自分のギルドメンバーに突撃命令を出した。目標はもちろん中央にいるボス・ミノタウロスだ。
「まったく、どこが……生産職だ。バリバリの脳筋じゃねぇか、さて俺も魅せるとしますか!!」
グレイは身の丈はあるであろう盾とそれよりも一回り大きい長剣を引き抜いた。
グレイは【身体強化・脚】を使い、石畳を強く蹴り走る。野生の肉食獣のような鋭い瞳を輝かせながら、嬉々として突撃した。
重装備のグレイの速度はそれほど高くはないが、【付与術師】の速度付与により、重装備を感じさせない動きをしていた。
カノンはそれを遠目で見ながら【付与術師】がいたことに驚いた。
「ならこっちも魅せないと」
カノンは【錬金術師】の能力を発動させる。発動条件の一つに錬成方陣を使うとあるが、カノンの掌にそれは描かれていた。
「瞬間生成、武装宝物庫」
カノンの周囲には岩石で出来た大量の剣や槍が浮かんでいた。
「弾けろ!!!」
まるで投擲でもされたかのようにそれらは一斉に敵を殲滅しにかかった。そしてコボルトソルジャーに直撃すると何故か爆発した。
これは後にカノンの口から語られることになるのだが、大量のアイテムを消費し60秒間しか具現化することの出来ない武具を大量に作り出す。そしてそれらを矢の原理で飛ばし、さらに【錬金術師】の能力で【鍛冶】のスキルを使用。【鍛冶】のスキルの中には『強化』と呼ばれる過程がある。『強化』には必ず限界値が存在しそれを超えると武器は崩壊する。
カノンはそれを利用した。
「名付けて、カノン流エクスプロージョンってね」
カノンは満足そうにそういうと遠くで怒鳴り声が聞こえた。
「俺達まで殺す気か!!」
「ん?ごめん」
カノンは屈託のない笑顔でそう答えた。
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