初、共同作業・前編
薬作りに精を出し始めて気が付くと約束の日になっていた。カノンが店で持っていくアイテムの整理をしているとグレイが尋ねて来た。
「おはようって……随分散らかしてるな。何だこれ?」
「おはよう。ちょっと散らかってるけどあんまり気にしないでね。あとその辺にあるものさ、結構危ないもの多いから」
グレイはそういうことは先に言えと言いながらも、同じようなアイテムを棚に並べていく。
「他のギルドメンバーは?」
グレイがそう尋ねるとカノンは荷物の整理を止め、入口近くにあるホワイトボードを指差した。
「ミュウは外出中、時雨はダンジョンに籠って出てきてない。というかそもそもソロの集まりみたいなものだしね、うちのギルドは」
「今回はお前だけが参加なのか、別にこっちとしてはどうでもいいけど」
「有難いでしょ、ギルマス自ら参加するんだから。それとこれ」
カノンは必要でしょと用意していた回復薬を渡す。
「完全にパーティー組まないとアイテム譲渡が出来ないとか……面倒なシステムだよな。それに消耗品に限るし」
「『あたし』としては素材譲渡も出来るからありがたい話だけど」
「パーティー結成から24時間以内に何かのクエストに挑まないといけないってルールもあるんだろ」
「それはそうでしょ、じゃなきゃ……一時的にアイテム譲渡目的でのパーティーが結成されやすくなるし。ま、クエストが何でもいいって時点であまり意味をなしていないけどね」
本来、アイテム譲渡を禁止しているこのゲームの救済処置なのかパーティー間でのアイテム譲渡は可能となっている。ギルドメンバーならアイテム譲渡制限は解除される。
「今度素材はちゃんと買い取るから買い物もして行ってよ」
「分かってるって。それにしてもお前の他に【料理】なんてスキル取ってるやつ知らないぞ」
「え?グレイのギルドの近くにある宿屋の店主(NPC)も【料理】持ちだよ。というか【料理】持ち専用クエストとかあるし」
「そう言えば気になってたんだけど、お前の先住民に対する制限ってどんな感じなんだ?」
カノンにはある程度のNPCとの会話制限がある。
「そうだね、簡単に言ってしまえば商人。その辺歩いている程度の人になら会話は出来るよ。あとはクエストに関連するような人物にも会話は出来る。ただね、商人はダメなんだよ、素材アイテム、消費アイテム、武器アイテム、防具アイテム、アクセサリー関係こんな感じにアイテムを扱う人メインで会話は成立しない。ただ宿や教会といった施設は一部使う事が出来る。使えない施設もあるんだけどね。アイテム関係はリンダさんもいるし、『あたし』自身も商売してるから特に不自由ってことはないんだけどね」
「なるほどな。話は戻るが、【料理】スキルを持った人間って他に誰か知らない?もちろん冒険者」
カノンは心当たりがないと首を横に振った。あらかた荷物をまとめ終えたカノンが外に出るとグレイのギルドメンバーが勢ぞろいしていた。知らないメンバーも多く、その上二十人近くはいたことに内心驚いた。
「グレイのギルドって意外と大きなギルドなんだね」
「お前みたいに少数精鋭ってわけじゃないからな、それに聖騎士団って名乗っている以上はそれなりに人数がいるでしょ、普通」
「普通なんだ……ま、気楽に行きますか」
◇◇◇◇ ガルミラン渓谷 最深部
「……ボスの部屋の扉ってこんなにでかいもんなの?」
カノンは大人数で来たためかそれ程苦戦を強いられることもなく、ボスの部屋の前まで来ることが出来た。
「この前は派手にやられたからな」
「……ヘイト値管理よろしく」
カノンのメインスキルはこんな感じに設定してある。
<スキル>
職業
【剣士】レベル4
補助スキル
【見切り】レベル6 【思考加速】レベル5 【剣術Ⅰ】レベル9
【テイマー】レベル3
「前衛やる気満々じゃねぇか。どこか後衛だ」
「ん?そんなことないよー『あたし』後衛だよー」
グレイがカノンを見るとカノンの背中には『蛇殺し』が装備されていた。
「そう言えば、お前の使い魔ってまたスライムなのか?」
「またって何?文句あるの?死ぬの?でも残念ながら今回ラムはお休みだよ」
カノンは静かに右手を掲げた。
『お呼びか?マスター』
そこに現れたのは歴戦の猛者を連想させるような剣を持った骸骨の戦士だった。




