『劇薬』
グレイたちと別れたカノンは荷物をまとめると露店をやっているであろうリンダさんのところへと来ていた。
「こんばんは、リンダさん」
「あら、こんばんは。今日は何かを売ってくれるのかな?それともお話でもしにきてくれたのかな?」
「リンダさんは聞きましたか?レイド戦はギルド合同じゃなく、ギルド単体で挑むって話」
カノンがそう言うとリンダさんは茶化すように言った。
「耳が早いね。その通りらしいよ……私はシオンちゃんのとこのギルドについてあの場所を攻略してみるつもり」
「それにしてもリンダさんって四強なんて呼ばれてるくらいすごい人だったんですね」
そんなことはないよとリンダさんは楽しそうに笑った。
「カノンちゃんはどこかのギルドと一緒にボス戦に参加するの?シノンちゃんのとこもギルドだけど」
「うちみたいな弱小ギルドは単体での攻略なんて無理ですよ。それにうちはリーダーである『あたし』が生産職ですし」
「中々様になってきたね、その話し方」
「茶化さないでください。そのお話をしにきたのと、あとはこれを買い取ってくれますか?」
カノンは大量回復薬をカウンターの上に置いた。
「随分と大量にあるね、今品薄で大変だっていうのに。回復薬が82個ね……17220ガルム、それとこれは?」
カノンが用意したのは試作品で作っていた回復薬・改だ。カノンはそれも20個ほどカウンターに載せていた。
「いい香りがするね……これもポーションの類なんだ……」
リンダさんは鑑定しながらそういうと
「一つあたり400ガルムでどう?」
「8000ガルムで買い取ってくれるんですか」
「回復量がもう少し高いならかなりいい値段と取引させてもらうわ、それとこれはカノンちゃんの店で扱うつもりなの?」
カノンはそのつもりですと短く告げる。
「そっか。シオンちゃんにも教えておくよ……話は変わるけどカノンちゃんはインナーどうしてるの?」
「付けてませんよ」
「『女の子』がそれじゃ、ダメでしょ。知り合いに頼んでかなり品質のいいインナー作ってもらうからよかったら」
「じゃあ、次の取引でお願いします。良ければ、うちの店で回復薬を買っててくれるありがたいです」
カノンは楽しそうにそういうとまだやることがあるので、そう言い残しリンダさんの店を後にした。
◇◇◇◇
自身の店に戻ったカノンは回復薬の在庫を確認する。今回のボス戦で使う分の回復薬を奥の棚にしまうと前に貰った素材を使い、新しい回復薬を作ることに専念する。そのためか新しいスキルを習得することが出来た。
<スキル>
【薬師】
あらゆる薬を扱うことに精通した職業系スキル。【薬師】が作る薬は普通よりも効果が高い。
習得条件は以外にも簡単でレシピにない回復薬を作ることだった。つまり【料理】と併用して作り上げた回復薬・改のおかげだろうとカノンは推測していた。
「新しいスキルも入手できたし、新しい機材も入手できたし、いいことだらけだね」
そしてカノンは自分専用に例のダメージポーションを作ることにした。回復アイテムではなく、ほぼ投擲や毒として使われているそれを。
材料自体はそんなにレア度の高いものじゃなかったため手持ちの物でなんとかなりそうだ。
つい先ほど入手したばかりの『死骸』をこの場に具現化させるとそこから肝のような部分を取り出す。
<アイテム>
『グリーンキャタピラーの肝』
薬として使われることが多く、その見た目のためかあまり入手しようとする人間は少ない。
この肝と毒草を調合し、さらに回復薬と調合する。レシピ通りならこれで、『劇薬』になるはず。
完成したアイテムは『劇薬』ではなく、『劇薬・改』という表記になっていた。おそらく『死骸』から採取した肝を使用したためだろう。
カノンはうれしい誤算だと呟いた。




