試作品と提案
「回復薬を作ってもらっているとこ悪いが、どうしても攻略に人手が欲しくてな」
「『あたし』に参加しろってこと?別に構わないけど……『あたし』に戦闘させないでね。戦闘できる生産職を目指しているつもりではあるけれど、まだその域に達してないからね」
カノンは試作品が入った箱を奥の棚から取り出し、グレイたちの前へと持ってくる。
「サモナーとしての腕も買っているつもりだ。それにお前の戦っている姿を見たって団員もここにいるし」
グレイはルビアに視線を向けながらそう言った。
「わたしも貴女の戦う姿を僭越ながら拝見させていただきました。かなり戦闘慣れしているご様子でしたが?それに団長の御友人ということはそれなりの武を持っていると判断しますが」
「『あたし』はかなり買いかぶりを受けているみたいだね。あたしはただの薬売りだよ……それ以下でもそれ以上でもない」
「なら、貴女の部下であるレッドプレイヤーを貸して頂きたいのですが」
カノンのギルドに所属しているレッドプレイヤーと言えば一人しか心当たりがない。
「時雨ならたぶんどこかで酒を買っていると思うよ。本人に直接聞いてみたらいいと思うよ。『あたし』としては許可だしておくから」
カノンがそんなことを言っているととなりで悲鳴にも似た声が店内に響き渡る。
「な、か、カノン。これどうやって作ったんだ?めちゃくちゃ美味いぞ」
試作品の回復薬を飲みながらグレイはそう言った。
「本当ですね。驚きです」
「美味しいです。カノンさんすごいです。」
「ふむ、これは美味。中々いい仕事なさりますね、薬師殿」
『西方の聖騎士団』の方々からの評価も上々でカノンは内心喜んでいたが、それよりも、とカノンは先ほどの話題に話を戻した。
「レイド戦っていつやるの。それとほかの生産に携わっている人間ってどれくらいくるの?」
「四強全員とそれなりに名の知れた第一陣連中だな。それに今回は初のレイド戦ってこともあって生産トップの連中からの恩恵をほぼ無償で受けれるおまけつき」
そこでカノンは疑問を持つ。四強と呼ばれる生産職トップの人たちが現場でいる中、その上トップの戦闘ギルドが集まって尚、攻略することが出来ていない現状に。
ただ単に練度の問題ならそれは大した問題ではない。けれどそれ以上に何かあるのだとすれば、ただレイドパーティーを組むだけでは意味がない。
シオンも言っていたが、レイドパーティーを組んでいるときはあまり派手にオリジナルスキルを使用したくない。つまり本来出せる実力を全開で出せているわけではないということだ。
そこでカノンは考える。
「因みにさ。ギルドごとに攻略って話だとうまくいかないの?別に全てのギルドが集まってやろうとしなくてもいいんじゃないかなって」
「そうだな、実はその案がこの前でたばかりでさ、それで回復スキルを持った【治癒術師】がいないうちのギルドでは大量の回復薬が必要になるってことでお前のとこに相談に来たわけ」
「なるほど。グレイのギルドだけってなら戦闘で参加してもいいよ。とはいえほとんど後衛になるとは思うけど」
「本当か!」
「なら三日後に……それくらいなら回復薬もそれなりに揃えられると思うし」
グレイは何か考えるような仕草をすると
「因みにこの試作品と同じポーションってまだ作れるのか?」
「ん?ま、材料さえあれば」
「やったです。これであの苦いものを飲まなくても済みますです。カノンさんはやっぱり頼りになるです」
この小柄な少女は小動物のように跳ねまわりながら嬉しさをアピールしていた。
「カノンはこれからどうするんだ?」
カノンはリンダさんのところで回復薬でも売り捌くよと笑いながら言った。
もちろん、必要な分は残しておくつもりだ。