ポーション不足。
夜叉丸は酒が切れたと言い残すとギルド兼カノンの店舗から出て行った。カノンは夜叉丸が出て行ったことに目もくれずに今自分がやるべきことを模索する。
グレイにも宣言したことではあるが、カノンの生産スキルは正直なところ乏しいものがある。
「生産系、か。この際生産に使えそうなスキルは虱潰しに調べてみよう」
カノンは例のヘルプ機能で簡単に入手できそうな生産系スキルを探す。それなりに習得条件も難しくなく、簡単に手に入りそうなものをいくつかピックアップするとカノンは行動に移すことにした。
「攻略が進んでくれないことには次の町にはいけないし、だからと言って自身で攻略に参戦しような気もない『あたし』は一体どうしたらいいのでしょうか。その答えは単純でどうしようもないものだけれど、そうして”あたし”は自分のしたいようにこの世界を楽しむだけってね。これについてどう思う?」
「俺は別にどうでもいいと思うよ。カノン。それよりも相談なんだが、まあ、提案と言ってもいい」
「どうしたのさ?」
「お前も知っていると思うが、今回復アイテムが不足して攻略に支障をきたしているんだ。アイテムってのは無限に存在するわけじゃないからな。使えば減る。それはNPCの店でも変わらない」
いつの間にか店に入ってきていたグレイは真剣な顔で続きを言う。
「攻略組が回復系のアイテムを独占していると言ってもいいくらいこの前大きな買い物があった。そのせいで今の市場は回復アイテムがかなり不足している。それに材料があっても回復アイテムを作るためのスキルを持っている奴が少ない現状だ」
「要約すると作ってほしいということなのかな?」
「ま、そういうことになる。素材アイテムはこちらで提供するし、俺の方からお願いしている以上はお前のプレイの邪魔になるようなことは避けたい」
カノンは特に考えるような素振りもなくすぐにその提案を承諾した。
「別にいいよ。それにグレイの方でアイテムを揃えてくれるなら、それと次いでに『あたし』もレイド戦に参戦させてくれるとありがたいかな。と言っても戦わないけどね、メインは生産職だし」
「了解だ。今あるアイテムはこれで全部だ」
そう言ってグレイはアイテムを実体化させる。実体化させることでアイテムボックスの重量の空きが減るのはこの世界にいる人間なら誰でも知っていることだ。
「結構容量取ってたからな。それに知っているか?同一のアイテムは百個過ぎると空きスペースをもう一つ使うこと」
「無限に持てるんじゃないの?」
「俺もそう思ってたんだけど、このアイテムを持ってくる際に薬草が百を超えた時点で空き容量を喰い始めてな。要するに同一アイテムは百を超えると重量が二倍になるということだな。たぶんだが、更に百を超えると三倍なる」
なるほどとカノンは頷いた。
これは新しい発見だと少しばかりグレイの体験した事象を面白くも思えた。けれど、重量が一の物に関して言えば十倍になろうとそれこそ百倍になろうと大した問題には思えないのだが、ここのところは一体どういう事だろう。レア度によって重量が上がっていることは知っているが、そもそもそんなレア度の高い同一のアイテムが沢山存在するのかと言われると正直なところ疑問が残る。
攻撃力が高まればそれだけ持てるアイテム数は上がる。
「ま、レベルを上げて行けばそれだけ下位のアイテムを大量に持てるのは生産職というよりも『あたし』の戦闘スタイルにはかなり優位に働いてくれる」
そういうと笑いながら
「とりあえず了承したよ。出来るだけ生産に専念したいと思っていたし、それに少しは町にいることが多くなるだろ?だったら欲しいアイテムが結構あるから取引しよう」
カノンは今グレイの持っている素材アイテムを貯金していた金で適正金額で取引を行う。
「……これで、もう貯金が完全になくなった」
「大丈夫だ、お前の作った回復アイテムはこっちで買うからな。それに今はかなり高騰していることだし、元は取れると思うぞ」
「ところでリンダさんのところには行かなかったの?」
「あの人は回復系アイテムを作ってないんだよ。それにあの人のメインは付与系アイテムだし」
「付与系アイテム?」
「ああ、カノンはもしかして付与系アイテムを知らないのか?付与系って言っても二種類あるからな。一つは断続的付与。これは一時的に攻撃力や防御力を上げることの出来るアイテム。もう一つが永続的付与。これは武器なんかに付与効果を付けることの出来るスキルなんだ」
カノンは面白そうに頷いた。
「いつもいろんなアイテムを売ってるから何でも扱ってるもんだと思ってたよ」
「それ以外とアクセサリーを作ったりもしてることで知られてるよ。四強の一人だからな、一応は」
「四強?」
「これも知らないのか?お前も生産職目指してるならトップくらいはしっておけ」
グレイの話では、生産職には四強と呼ばれる何かに特化した生産職がいるらしい。皮装備を扱うクーフェ。付与術を得意とする付与術者兼細工師のリンダ、あらゆる武器を製作する鍛冶師オーフェン。とりあえず爆発が大好きな爆弾士のボム。
よく分からんのが一人いるがそれについてはあまり気にしないことにした。
因みに戦闘ギルドの四強と言えば、序列一位、『漆黒の刃』、序列二位、血縁であるシオンがリーダーをしている『紅蓮の騎兵』、序列三位、『西方の聖騎士団』。これはあの変態グレイがリーダーをしているギルドだ。そして序列四位、『魔導旅団』。『魔導旅団』に関するデータはあまりないことで知られている。
「ギルドって言ってもたくさんあるもんだね。それはそうと今度さ、鍛冶とか、細工とか、まあ、生産で使うような初心者向けのキットを一緒に持ってきてもらえると非常にありがたい」
「了解だ。お前は先住民(NPC)からの買い物が出来ないんだったな」
「そうそう、だからよろしく。これは正当な取引だよ」
カノンは作業に取り掛かるためにグレイを追い出すとメインの【スキル】を変更する。
現在の装備はこんな感じになっている。
【調合】レベル6 【見習い鑑定】レベル2 【思考加速】レベル5
【テイマー】レベル3
レベルが10に達したことで装備出来る枠が一つ増えた。これはとてもありがたい。
控えには大量の戦闘系のスキルたちが待機している状態ではあるが、今回は出番はないだろう。
ギルド本部に預けていた金も全て使い果たしたため、新しい部屋を自身のギルドに増築することは出来ない。増築には最低でも10万ガルムは必要になるが、手持ちには2万ほど。
「どうしたものか……悩んでもいてもしかたない」
カノンは薬草を何枚か取ると、それを【スキル】を使って調合していく。この調合作業をしていて気付いたことなのだが、スキルを使わずに自身でその作業を行うとより高い効果が期待できる上に入手できる経験値もおいしい。
カノンはどうせ時間ならあると手作業で調合することにした。