ギルド創設
『まかせて』
そう言ったラムは身体を限界まで膨張させ、カノンの前に立つ。まぁ、それが立っているかどうか判断しずらいところではあるが、今はいいとしよう。
『全力防御!!』
ラムが盾代わりをしてくれている間にカノンは随時、回復薬をラムに投与する。文字通りの投与だ。
HPが10しかないラムではすぐに体力切れを起こしてしまう。それを補うために大量に生産した回復薬を使用。
ラム自身にも持たせてあるのでラムが自分で使用することが可能。その上【物理耐性】を持っているラムは物理攻撃による体力の減りは少ない。
その上スキルというのは使用するごとに経験値が加算され、熟練度としてレベルが上がる。
それを知ってか知らずかラムは物理攻撃に対し必ず防御を行う。ダンジョンを制覇する頃には面白いことになっていそうだとカノンは内心愉しんでいた。
これはゲーム。
愉しまなければ損だ。
カノンはステップで【スケルトン・メイジ】のところまで移動するともう一度大剣を収め、先程投擲に使った軍用剣を【スケルトン・メイジ】から引き抜く。引き抜いたそれをカノンは一本を投げ槍のように投擲し、もう一本で地面に倒れている【スケルトン・メイジ】にトドメを刺した。
このゲームには不思議なことに行動制限というものが存在しない。多次元的な動きが可能である。
現実では筋力や体型、その人個人の限界行動量がその人個人の動きを作り出すが、この世界ではステータスという補助的なシステムがその人の限界行動量を飛躍的に伸ばすことが出来る。
つまり常識を越えた動きが出来る。それは行動においてのみではなく、思考においても同じだ。人間の演算処理能力にはある程度限界が存在する。けれどこの世界ならその限界を何段階も上げることが可能である。
実際、今のカノンがそんな感じだった。一体倒すごとに思考が加速しより最適且つ、最短で攻撃を行う。どうすればより効率的に効果的に敵を倒すことが出来るのか頭で思考するよりカノンのそれはもはや反射だった。
何事にも適正を持った人間というのは存在する。カノンが持ったのはこの世界における適正。常識外れな演算能力とそれを実行できる思考反射。
本気で戦闘職を目指すのであればカノンは間違いなくトッププレイヤーと呼ばれる人間になっていただろう。
けれどカノンの選んだ道は『”ある程度”戦闘の出来る生産職』傍から見たら十分に凄すぎるスペックを持つのだが、カノンは気付く様子はなかった。
30分ほど掛け、肩で息をしながらもなんとかモンスターハウスを切り抜けることが出来たカノンは自分のステータスを確認していた。
<ステータス>
名前 カノン
種族 咎人
レベル6
HP295/295
MP170/170
攻撃力29
防御力11
魔法攻撃力16
魔法防御力17
回避力33
速度41
技術力50
幸運13
所持金 3万6千ガルム
固有スキル
【罪の剣Ⅰ】レベル2
オリジナルスキル
【錬金術師】レベル4
既存スキル
【見切り】レベル3 【拳強化】レベル4 【索敵】レベル4
【採取】レベル8 【剣術Ⅰ】レベル2 【見習い鑑定】レベル1
【投擲】レベル2 【思考加速】レベル1 【調合】レベル5
【テイマー】レベル1
既存職業系スキル
【剣士】レベル1 【拳闘士】レベル2
『充実してるのら!』
名前 ラム
種族 スライム科ブルースライム
レベル4
HP160/160
MP100/100
保有既存スキル
【物理耐性】レベル6 【火耐性】レベル2 【分裂】レベル1
【膨張】レベル2 【HPドレイン】レベル1
進化まで16レベル。
「進化するの?」
『するなのら!!』
互いのスキルを見る限り今回の戦闘でかなり成長したようだ。毎度のことにようにモンスターハウスに飛び込むのはごめんだが、これだけ成長できたのならとりあえず第一層をクリアする目処は立ったような気がした。
今回の戦闘の報酬としてはかなり骸骨系のアイテムが多い。
<アイテム>
・謎の骨(1) ×25個
・謎の頭蓋骨(1) ×22個
・ショートソード(2) ×06個
・大骨(1) ×19個
・骸骨剣士の心臓(4) ×03個
・骸骨の腕(2) ×01個
・魔導師の杖(2) ×02個
・骸骨弓(3) ×02個
そしてモンスターハウスを切り抜けたことで発生した宝箱を開けると、【身代わり人形】というアイテムが手に入った効力としては一度だけ死亡を無効にすることが出来るというもの。しかも死に戻りすることで効力は復活するレアアイテムだ。
「かなりの収穫があったし今日はこれくらいで切り上げよう」
カノンはアイテムが大量になったアイテムボックスを眺めながらそう言った。
◇◇◇◇
ログアウトしたカノンもとい奏音は夕食の準備をしていた。
「お兄ちゃんはフロアボス倒しに行くの?」
「あ~あいつに誘われてたやつか。いんや俺はまだ行かないよ……生産してる方が楽しいから」
「ふーん。それはそうとゲーム内ではお姉ちゃんって呼ぶから覚悟しておいてね」
「大丈夫。俺はそういうプレーで行くって覚悟決めたから。それよりももし店でも立ち上げることになったときにちゃんと立ち寄れよ」
「ま、兄妹だし立ち寄ってあげるよ。あたしって優しい」
その言葉に奏音は苦笑する。
「自分で自分のことを優しいという人間に関して優しい人間はいないと思うけどね」
「ネカマさんには言われたくないな。言い忘れてたけど結構攻略苦労してんだー」
紫苑はタブレットで現在の状況をカノンに見せる。攻略組はフロアボスの部屋を発見し戦闘ししたもののβ版とだいぶ仕様が変わっていたのか苦戦したようだ。それにレイドパーティーとはいえ何人かは生産の人間もいる。つまり実質的な戦力はあまりないと言える。
「流石に大勢の前で【オリジナルスキル】を使用するわけにはいかないからね……ったく面倒だよ。あたしたちのギルドだけなら単独クリアできるってのに」
「なら何故そうしない」
「理由は簡単。うちのギルドはあたしがギルドマスターやってるけど、基本方針は多数決で決めてる。その結果」
紫苑はタブレットを見て兄である奏音に尋ねる。
「そういえば、どうしてまだギルドの立ち上げ申請してないの?お兄ちゃんギルマスなんでしょ」
「ギルド申請?」
「今回の仕様から立ち上げ申請は簡単に出来るようになってるんだよ。施設を入手するためにはお金が必要だけど、立ち上げ自体は簡単に出来るから」
奏音は夕食を食べながらシオンの話を聞いていた。夕食の後片付けが終わると奏音は自分の部屋へ行き、ゲームを……あの世界への入口を繋げる。
「ダイブ」
起動言語と共に一時的に意識が遮断される。
次に意識を覚醒させたのは<始まりの町>のポータルゲートの前だった。一度ログアウトして再度ログインすると必ずこの場所からのスタートになる。唯一例外としてはギルドの施設を持っていればそこからのスタートになるのだが、生憎とカノンはまだ持っていない。
「メニュー、メニューと。あった」
メニュー画面からギルド創設という項目があることに気が付いた。カノンはそれを押す。
<ギルド>
名前 異端審問会
構成メンバー
・ミュウ
・夜叉丸
ギルドオリジナルスキル
未定
ギルドランクG
「とりあえず二人には申請だしておくか」
ギルドを立ち上げたカノンは町から出ると、ダンジョンへ向かう。踏破率が20%を超え、それなりにも慣れてきた。
一番の目的は数日後に控えたフロアボス攻略なのだが、そのためにはどうしてもレベルが必要になる。
カノンは目的のためにスキルの熟練度とレベリングに勤しむことにした。
修正しました。