新天地
『カノン、次何する?』
無邪気にぽよんぽよんと跳ねている丸い物体はカノンに質問した。
<ステータス>
名前 ラム
種族 スライム科ブルースライム。
属性 水
レベル 1
HP10/10
MP40/40
保有スキル
【物理耐性】レベル1
【火耐性】レベル1
【分裂】レベル1
「どうしようか。ラムのレベル上げ『あたし』のレベル上げかな?」
『カノン呼び方変わった?』
抱き抱えられたラムはカノンの一人称が変化していることに気付き、それを指摘するとカノンは苦笑した。
『僕、カノン好きだから何でもいいけどね』
この液状なのか固体状なのかいまいち判断しずらい物体は楽しそうにそう言った。
「少しは攻略に携わってみますか。『あたし』のも次の町に行ってみたいし……ラムはどこか行きたい場所でもある?」
『うーん、うーん。ないよ』
カノンはどこかよさげな場所はないかとマップで検索を掛けてみる。
「ダンジョンだって面白そう」
<始まりの町>から北の方角へ進むと第二エリアへ進むためのフィールドとは違いダンジョンと呼ばれる場所がある。ダンジョンは地下100層まで存在する大規模な迷宮で、何でも10層ごとに階層ボスと呼ばれるモンスターがいるらしい。
「ここにしようか」
抱き抱えていたラムはいつの間にか頭の上の乗っており、ぷるぷると震えているこの子なりの了承なのだろうと解釈。
「じゃあ行こうか」
◇◇◇◇
カノンは新しいアイテム採取と自分のレベル上げのためにほとんど未開といってもいい土地であるダンジョンへ来ていた。
未開である理由としてはこの世界の攻略には必要のないものであり、攻略組はここへくることがほとんどないと言ってもいい。
それにここへ来る途中のモンスターがそれなりに癖のあるものが多く、一般の冒険者も好んでこんな場所へくることはない。
要するに未開の土地……フロンティアとも呼ばれるような場所だった。
「……面白そうな場所だね」
『強そうな気配』
ラムはプルプルとその身体を震わせながらそう言った。
カノンは手持ちの【スキル】で一番の攻撃力を誇る、【拳強化】を常時発動状態でセットする。
MPの消費がなく素手での攻撃時に発生する反射ダメージもない。その上素手攻撃時のダメージが多少はあがる。
カノンは笑いながらダンジョンの入口を潜った。
<始まりのダンジョン 第一層>
踏破率 0
「知ってるよ」
カノンはこのダンジョンに関するデータを見るとそんなことを口にした。初めてきた場所なのだから踏破率がないのは当然。
カノンは生粋の戦闘職というわけではない。そのため戦闘力は正直心もとないのも確かだ。その上、回復薬や回復魔法というのはカノンには効かない。むしろ逆効果だ。
データに記されているものを確認していくと、どうやら第一層の適正レベルは4~6くらいだ。
因みに現在は3レベル。やや低いといえる。そこは蛇殺しの攻撃力とラムに頼る他ない。
「そう言えばすっかり忘れてたんだけど、ラムの語尾ってやめたの?」
『なのら?』
「それ」
『そうしてほしいならそうするなのら!』
別に語尾なんてどうでもよかったのだが、ラムが楽しそうだったのでそれを指摘することはなかった。
「さてさて、では攻略スタートと行きますか」
カノンは疾走を始める。ダンジョンの入口では分からなかったがマップを見ていないと方向感覚が完全に奪われる。自分がどっちに向かって走っているのかすら分からなくなる。
どこまでも続く廊下と同じような造りをした扉。
曲がり角に近付く度にカノンは視界の端に表示したマップを頼りに踏破率を伸ばしていく。
次の曲がり角でモンスターに遭遇した。
【スケルトン・メイジ】
レベル5とカノンよりも上だ。けれどカノンは臆することなく剣を抜いた。【スケルトン・メイジ】は遠距離からの攻撃を得意とする魔導師だ。なら魔法による攻撃が行われる前に間合いを詰めればいい。
カノンは地面を強く蹴ると剣を低く構え、【スケルトン・メイジ】の懐まで飛び込む。そこで初めて魔法が完成しカノンを襲うが、発動した魔法が火属性であったことが幸いした。
「ラム!」
『あいなのら!!』
【スケルトン・メイジ】とカノンの間に割って入ったラムは防御に徹し、【スケルトン・メイジ】の放った火球をモロに喰らうが、ラムの持つ【火耐性】が功を奏し、それほどのダメージではなかったようだ。
その間にカノンは下段から一気に上段まで剣を振り抜く。
「お前の攻撃は単調だ」
振り抜いた剣を返しでさら斬撃を加える。現状では高い攻撃力を誇る蛇殺しは二撃で【スケルトン・メイジ】を撃破した。
【見切り】のレベルが一つ上がった以外は特に変わりはない。
「ドロップ品は、と」
<アイテム>
【壊れた杖】 重量2
攻撃力0 魔法攻撃力0
『魔法発動体としての機能を失ってしまった残念な杖』
「残念過ぎて何も言えない」
とりあえず何かに使えるかもしれないと杖を仕舞った。細心の注意を払いながら壁に沿って進んでいく。
近くに宝の反応がある部屋があった。明らかに罠がありそうな造りをしているのだが、カノンはそれに構うことなく宝を開けた。
その瞬間宝箱は消失し、入口も消える。
『モンスターハウスなのら!』
そこには十数体の【スケルトン】たちがわらわらとこちらに敵意を向けていた。モンスターを見ながら冷静に分析する。
【スケルトン】が5、6体
【スケルトン・メイジ】が3体
【スケルトン・ソルジャー】が3、4体
【スケルトン・アーチャー】が2体
「随分と骨だけを集めたものだね。レベルはどれも5、6……結構苦戦するかもね」
カノンはあくまで冷静に状況を見極めながら、残りのHPやMPを確認する。それにラムの状態にも目を向ける。
行ける。
カノンは静かに確信した。カノンは大剣を収めると二本の軍用剣を呼び出す。
「カノン流投擲術!!」
カノンは二本の軍用剣を【スケルトン・メイジ】に向かって投げると、すかさず、大剣へと持ち替える。
アーチャーの攻撃を最小限の動きで躱し、目で追いきれないものに対し【見切り】で躱す。
【スケルトン】の懐まで入り込むと掌を腹部に押し当て、吹き飛ばす。大剣を地面に刺し、それを支点にしての回し蹴りで近くにいた【スケルトン】をも蹴り倒す。そこまでの攻撃力はないため削りきることは出来ないが今は体勢を崩すことさえできればいいとカノンは次の得物に目を向ける。
地面に差していた大剣を引き抜くと近くにいた【スケルトン】に向かって剣術を起動させる。
「パワースラッシュ!!」
その剣術は一撃で【スケルトン】をバラバラの骨へと変化させる。
「MP消費が激しいな」
カノンは燃費の悪い技だと苦虫を噛み潰したような顔する。
パワースラッシュは言うなれば全力の振り抜き行為。その遠心力でカノンは一時的に体勢を崩す。
「ラム!」
今だと言わんばかりに【スケルトン】や【スケルトン・ソルジャー】たちが一斉にカノンに襲い掛かろうとするが、そこへスライムであるラムが割り込んだ。
『まかせて!』