調合!!
<始まりの町>の南西に位置する商業エリア。冒険者たちが各々の店を持ち、そして切り盛りする。そんな活気あふれるエリアだ。
そんなエリアに薄汚れたワンピースをその無垢な身体に纏った少女がやって来ていた。目的の店を探すのだが、露天商に声を掛けられ中々に進むことが出来ない。
別にそんなの無視してもいいのだろうが、人のつながりというのはどんなところで役に立つか分からないものである。
「……ふぅ」
やっと露天商の群れから解放された少女が、ため息をつく。
「浮かない顔をしているね」
「……分かります?それも誰のせいなのか」
少女に声を掛けてきたのは露出度の高い服を着こなし、それでいて優しそうなオーラを放つ女性だ。
「ごめんね。もしかして地図分かりづらかった?マップも一新されてるから前までお店あった場所とは違う場所にお店構えてるし。それよりもカノンちゃんは何かお求めなのかな?」
たぶん自分の服装を見て、彼女はそう思ったのだろうと少女は苦笑するとお店に案内してもらえますかと笑顔で言った。
南西エリアの入り組んで分かりづらい道を進むとそこには<アトリエール・リンダ>と書かれた看板のお店があった。
二階建てのそれは中に入ると一階部分がお店になっているようで、棚には綺麗に商品が種類ごとに纏められていた。
「あははは……。分かります?」
カノンが買い求めに来たのは装備だ。今の装備では正直何をするにしても心もとないことに変わりはない。
「インナーなら前回の時に作った余りがあるからそれ買う?あとは希望があれば聞くわ。因みに所持金っていくらぐらい?」
「今は100Gです」
「なら、ギルドカード貸しなさい」
自分のギルドカードをリンダに渡すとカノンはそれをどうするのか見る。するとカウンターに置いてある水晶にそれを翳すと一瞬だけ発光現象が起きる。
「登録したからこれでカード払いが出来るはず」
「ギルドの銀行にあるお金を使えるってことですか。便利になりましたね」
カノンはそれに関心を持つ。
カノンはカードで二万ガルムほど払い、インナーを購入する。上下セットになっていて、伸縮自在の生地を使っている。最初は小さいじゃないのかと思いもしたが、自分の身体にピッタリとフィットするので驚いた。
「装備の方はオーダーメイドで作りたいから、何かモンスターの素材があれば買うけど?」
「使えそうなのがないからいいです。それにしても武器がそれだけだと辛いでしょ。耐久度的に武器は消耗品扱いだし」
武器は壊れる。耐久度が零になっても使い続けると数時間前の戦いのように武器が壊れてしまう。
耐久度が零になった武器に関しては一度仕舞い、後で研いでやると耐久度が回復する。もちろん戦闘中に研ぐことで回復することも出来るがそんなことをする人間はまずいない。
カノンは棚に飾られている武器の中から自分の身長を超えるほどの大剣を手に取り、重量を確かめる。
「結構重いな……攻撃力が足りない?」
「カノンにはレイピアの方が似合うと思うけど」
「でっかい剣を振り回した方がかっこいいと思うけど……。とりあえずこれと、その量産型っぽい剣を買います」
「ありがとう」
大剣は六万ガルム。量産型の剣は二本、二万ガルムだ。
<アイテム>
蛇殺し(25) 攻撃力+120
回避力-10
量産型の軍用剣(7) 攻撃力+30
インナー 防御力+5
魔法防御力+2
カノンは手持ちのアイテムを確認する。
<アイテム>
・石ころ(1) ×20個
・木の枝(1) ×14個
・壊れかけの棍棒(2) ×01個
・獣の皮(1) ×01個
・水(1) ×30個
・名称不明・草(1) ×30個
・名称不明・石(1) ×05個
・蝙蝠の血(1) ×07個
・大骨(2) ×34個
・名称不明・液体(1) ×02個
・蛇殺し(25) ×01個
・量産型の軍用剣(7) ×02個
現在の最大重量は40。
「……持てない」
「どうしたの?」
「アイテムが多過ぎて今買ったアイテムが持てないんです」
「それなら装備すればいいよ。それはあくまでアイテムボックス内になるアイテムの重量だから装備すれば重量計算されないし」
リンダにそう言われたカノンは一番重量の容量を喰っている蛇殺しを装備すると一気に空きが25も増えた。
「なるほど」
残りの容量が21と表示されている。
「それに自分の視界の右上あたりを見て何か気付かない?」
「……何かメーターがあります」
「それは空腹度らしいよ。その数値が零になるとステータスの半減が確認されてるから気を付けた方がいいし、それに【料理】を持ってないと調理したものとか高確率で悲惨なことになるらしいから」
「……気を付けます」
どうやらこれからは【料理】を入手することが最優先らしい。因みにリンダさんは【料理】を入手していないそうだ。
「装備できるスキルに制限があるし、【料理】を装備してほかのスキルが使えなくなるのはちょっと」
キャパシティをそんなことで使うのはどうやら嫌ならしい。けれどカノンはどうやら違ったようだ。
「【料理】か……こっちの世界でも出来るのはありがたいな」
そんなことを小声でぼそぼそと言っていた。
「カノンはこれからどうするの?」
「そうですね、ギルドに行って適当に依頼をこなしながらって感じですね」
「そっか。何かあればうちに来なさい。お姉さんが力になってあげるから」
「ありがとうございます」
カノンは笑顔でそう返した。
◇◇◇◇
ギルドにやって来たカノンはクエストボードと呼ばれる依頼が掲載されている掲示板を見ていた。
今のカノンが受けられる依頼はこんな感じだった。
<クエスト>
・薬草の採取 難易度F
・スケルトンに困っています 難易度D
・ジャイアントスパイダーの糸を入手して 難易度D
「別にわざわざこんなところに来なくても依頼は受けられるんだけど」
カノンはステータスウインドを開き、そこから依頼を選択するとずらりと受けられる依頼の一覧が出てきた。
それだけでも千種類を軽く超えている。
「……ギルドの方が報酬がいいからね」
カノンはそんなことを言いながら薬草の採取の依頼を受ける。
その足で<始まりの森>までやって来たカノンはとりあえず、辺りにある薬草っぽいものやキノコを採取していく。
<アイテム>
【ホワイトマシュマロ】
どこにでもある茸。シチューなどの料理に使われるのが一般的。
【薬草】
HPを25回復する。
「薬草はこれで良しと」
薬草を30本ほど集めたカノンは満足し、クエストウインドを開く。そこに表示された依頼達成と書かれた報告書を読み上げると少しだが、自身に経験値が入ったのが確認され薬草が10本ほど消えていた。
アイテム贈呈という項目をチェックするとカノンは欲しかった調合用の機材を入手する。
「これで調合が出来る」
カノンはさっそく調合用の機材を取り出すと、今手に入れたばかりの薬草と薬草を調合してみた。
<アイテム>
【薬草+1】
HP27回復。
ちょっとだけ性能が上がった。どうやら薬草と薬草を調合しても少しだけ強化されるだけで回復薬になるわけではないことが分かった。
「……当面の目標は回復薬を作ることかな」
物は試しと薬草と水を調合してみるが、【薬草水】なんて代物が出来た。回復量は薬草よりも多いが、回復薬とまではいかない。しかも草の匂いがきつく正直飲めたものではない。
「ま、なるようになるかな」
カノンは黙々と調合をしていった。