所持すること。
「『あたし』はそろそろ行くよ、友達を待たせているしそれに行かないといけない場所もあるから」
何かあれば言いなよとカノンはガイアに言うとガイアは頷いた。その後ガイアと別れたカノンは知った道ということもあってか難なく、始まりの町に到着していた。
「町に着いたけど、お前はどこにいる?」
『お、カノンか。こっちから出迎えに行くよ。俺の方でお前の場所はトレース出来てるから』
そう言ったグレイは念話を切り、そこから間もなくしてカノンのいる場所へとやってきた。
「相変わらず何とも言えない女っぷりだな。ま、発育が悪いが」
「バカにしてんの?それとも死ぬの?別に『あたし』としてはどちらでもいいんだけど?リアルで同じことを言ったら確実に殺すけどね」
「おお、怖いね。それよりも大分、第二陣の連中も来ているな……あのぎこちない動きとか見てみろって。それにかなり挙動不審なやつもおおい。っと、話は変わるがお前のスキルってどうなってんの?」
カノンは自分のステータスをグレイに見せるとグレイはため息を漏らした。
「やっぱ、お前もスキルなしか。オリジナルスキルは本人以外には見えない仕様になっているみたいだしな。スキルなしってことは既存のスキルを何一つ持っていないことを意味している」
「ここに来る途中で生産職の青年にあったけど、今回から道具が必要になるっぽいね」
「道具?お前は今まで生産するときどうやってたんだ?」
「そんなの決まってんじゃん。スキルでぽん!だよ」
それを聞いたグレイは呆れた顔をした。
「今までも道具が必要だ。どこまで常識破りなことしてんだお前は」
「知らなかった。残念なことに【錬金術師】もレベルがダウンしてたけどね。だから生産するにもまた一から」
「どの口が言う。一から物事を始めることが好きなお前が、誰よりもこの状況を楽しんでいると思うぜ。少しフィールドに行かないか?」
グレイの提案にカノンは賛成する。そしてグレイの提案でフィールドへ駆け出した二人は始まりの町の北門を出て、すぐにゴブリンなる亜人間もといモンスターと初遭遇。
「メンテナンスアップデートされてから実を言うとまだモンスターと遭遇してなかったんだよね」
カノンの言葉にグレイは驚く。
「は?それマジで。流石に俺でももう何体かモンスターと遭遇してるぞ。その割にはまだ【スキル】を獲得してないんだけどな」
「【スキルメイカー】を入手しないと【スキル】を作ることも出来ないだろうし。『あたし』としては当分【スキル】を作る予定はないけどね。それに既存スキルって意外と面白いものもあるし、既存スキルだけでも相当な数あるし、今はとりあえず」
カノンは腰に下げている剣に手を掛けると鞘の中に収められた刃が鈍く煌めく。
「恨みはないが」
自分に向かって棍棒を振り回しているゴブリンの懐へもぐり込んだカノンは持っている剣を下段から上段へと一気に振り抜く。それでもゴブリンは倒れることなく反撃してこようとするが、カノンは冷静に振り抜いた剣から手を離すと攻撃手段を拳へと切り替え攻撃。
先程よりも鈍い音が響き渡ると、ガラスが割れるかのごとくゴブリンは光の粒子になって消えた。
それを隣で見ていたグレイは拍手する。
「お見事」
「これくらいなら昔にやってた格ゲーのおかげで何とかなるけどね。それよりも【スキル】による援助なしに魔物及び冒険者を倒すと例の【スキル】手に入るのかな?」
「それは無理だ。あのイベント以来効力もよく分からないあの【スキル】を手に入れようとした奴らが大量に現れたとかで、それにあの【スキル】は元々隠し【スキル】の一つだったらしいし。今回のメンテナスであの【スキル】は無くなったしな」
「そっか。それは残念……元々その【スキル】を手に入れるつもりは毛頭なかったし、あの【スキル】を破るのが楽しみだったのに」
カノンはドロップ品を確認しながらそう言った。
「壊れかけの棍棒って。それに獣の皮か」
「獣の皮ってのは防具生産とかに使えるぜ。と言ってもそこまでいい防具は作れないけど、序盤の防御力をカバーするには意外といいと俺は思うけど」
カノンはあまり興味なさそうに頷いた。壊れかけの棍棒と獣の皮をアイテムボックスに仕舞い、あることに気付く。
「重量ってあるんだね、アイテムに」
「それも新しい仕様らしい、確か攻撃力に依存するはずだ」
カノンはヘルプからアイテムボックスの詳細を見る。
<アイテムボックス>
攻撃力×5が最大重量。それ以上持つことは出来ません。
つまり攻撃力にアホみたいにステータスを割り振っているやつがいたら持ち物持ち放題だ。それはそれで面白い気がするが残念なことにやろうとは思わない。
因みに現在のアイテムボックスの中身はこうなっている。
・石ころ(1) ×7個
・木の枝(1) ×10個
・壊れかけの棍棒(2) ×1個
・獣の皮(1) ×1個
「攻撃力5に対して変じゃない?」
同じリストグレイに渡すとグレイはそんなことかと笑い飛ばした。
「同一のアイテムはいくら重複してようが重量は元の数値だけなんだ。そこんところそれでいいのかと思うところはあるが、同一アイテムは制限なしにいくらでも持てるらしい……が」
そこまで言いかけてグレイは誰かから念話が来たらしく会話を中断する。
「ギルドの仲間?」
「悪いな。また今度何かあれば手伝うからさ」
そう言い残してグレイはどこかへ行ってしまいカノンはいつものように一人になってしまった。
カノンもアイテムボックスにあと重量5分は入るがこれ以上荷物を持つことが出来なくなると困るので一旦町の中へ戻ることにした。
因みにボロすぎる剣は見た目の割に重量が10、薄汚れたワンピースが何故か重量5もあるという基準がいまいち理解出来ない仕様だったためカノンはそのまま放置することした。
◇◇◇◇
町に戻ってきたカノンは始まりの町の南西にある露店通りにやってきていた。
「あっ。カノンちゃん」
するとカノンは不意に声を掛けられる。
「?……リンダさんじゃないですか。今日は露店ですか?」
「まあね。新しく入って来た子たちにはいきなり店にこいなんてことが出来るわけないじゃん。それに店を持っている今でもたまに露店することにはしているんだ」
「そうだったんですか」
「今日はどうする?何か買っていく?」
カノンは首を振る。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど。お店ってそのままなんですか?」
「そのまんまだよ。一応はアイテムの分類に入るみたいだから引き継げるみたいだね。今手元にないアイテムとかギルドに行けば預かっているみたいだから」
新しく追加された重量制度のためか持っていたアイテムをそのまま引き継ぐとどうしてもオーバーしてしまうため、ギルドが一時的に保管しているらしい。所持金も同様のようだ。
「ギルドに行ってみます」
「そうするといいよ。それとホームは結構安く買えるようになってるから、見てみるといいよ」
「分かりました」
カノンはリンダさんと別れると、一人ギルド本部へ行くことにした。途中でNPCの営業店があったのだが、はやりアイテムを購入するどころか話掛けることも出来なかった。
それはさておきギルド本部へ来たカノンは受付窓口を探すと、そこへ行きリンダさんに言われたことを確かめてみる。
「アイテムボックスを参照されますか?」
受付のお姉さんがそう言うとリストを出してくれた。
「おっ。ほんとにある」
アップデートする前に集めていたアイテムたちがしっかりと保存されていた。そして所持金の方は
<所持金>
370万ガルム。
「結構な量のお金があるな。前回は使う機会がほとんどなかったし。今回はどうしようかな」
今のところお金には困っていないためカノンは1万ガルムだけ引き出すと、ギルドを後にした。
「……ミュウとか、元気かな?」
つい最近まで一緒だったギルドのメンバーのことを思い出しながら、ホームを購入しようか迷うカノンだった。
それにしても重量制度だと持てる荷物が少な過ぎて最初はかなり苦労する。
自分だったらとりあえず回復系のアイテムを大量に入れておくと思いますが、これも多数の意見があって面白いものだと思います。
次回 【スキル】入手
所持金を少しだけ下ろしたカノンはいつものように少しだけ様変わりした<始まりの森>に行く。
昼に出現するモンスターと打って変わって夜にしか存在しないモンスターとの戦闘。昼よりも強いモンスターが多く、カノンは苦戦する。
そこで初めて……。
次回お楽しみに。