懐かしの森
カノンはグレイからの念話を一度遮断すると、マップを参照し今現在自分がどこにいるのかを確認する。
「廃棄された村……廃村ってやつか。それにしてもちらほらとNPCがいるってことは廃村になりかけている村ってことなのかな?」
その情報はどちらかというとどうでもいい情報だった。カノンにはNPCに好んで声を掛けるほど暇ではなかったし、それに特に意味のある行為だとも思えなかった。
村を散策すること十五分。
村を一周することが出来た。村の状態を見てもそこらへんにいる人たちを見ても廃れているという回答しか出なかった。
もう一度ステータスを確認するとカノンが前に作った【錬金術師】の存在を確認することが出来た。
「【錬金術師】の能力を使えば、アイテムにはあまり困らないような気もするけど。どうしたものか」
その他のスキルを確認するが運営の言っていた通りスキルというスキルは固有スキルを除けばこれしかなかった。
現状を打破するための考えなんて思いつくはずもなく、貧相な装備ではあるけれど、とりあえず村の外へ出てみることにした。
「お主。外へいくか?」
村の入口に立っていた村民に声を掛けられる。
「外へ行かないと始まらないし」
「物好きがいたもんだ……。昔は他の町や村ともそれなりの交流があったんだが、今ではこの通りだ」
「ひどい荒れようですもんね」
死に戻りしたときに訪れる教会のような場所も見たのだが、かなりひどかった。唯一ベッドが綺麗だったのが何よりの救いだがそれ以外は本当に。
「お前みたいなお嬢ちゃんが……人生捨てに行くようなもんだよ」
本当にこの村人Aは進行方向への妨害しかしてこない。
「気にしないで。誰かに心配されるほど弱くはないつもりだから」
「そのレベルで何を言う。最低でも30くらいにはならないと外に出ても死ぬだけだぞ」
村人Aは可笑しなことを言う。最初のスタート地点がそんな高レベルな場所からスタートするはずがないのだ。
「気にしないでとは言ったものの」
村人Aと別れたカノンは現在近くの森の中に来ていた。フィールドの名称は迷いの森。その名の通り現在迷っている最中だ。
「……さて、マップに付いてるコンパス機能も死んでいることだし本格的に迷ったな。体感時間で15から20分と言ったところだろうけど」
20分近く歩いているのにも関わらず何度も同じ場所を回っているような気がしていた。
「とりあえず、どうしようもないということが分かった」
それにしてもモンスターに遭遇しないものだとカノンは不思議に思った。どうせなら30レベルじゃないと対応できないモンスターというのは実際に見ておきたかったのだが。
無い物ねだりをしても仕方ないことだとカノンはもう一度マップを見直す。ここまで通ったルートはしっかりとマッピングされている。
あくまでここまで通ったルートは、だ。
踏破率を見てみるとまだ3パーセントにも満たないことに驚いた。
「流石に名ばかりの場所ではないということか」
それにこれ以上むやみに歩いても疲れるだけだと……精神的に。カノンは一度歩くのを止め近くにあった少し開けた場所で休憩するこにした。
所持アイテムの中に何か使えそうなものがないかと確認してみるが、今の現状を打破してくれるようなアイテムをカノンは生憎と持っていなかった。
『カノン?そっちはどんな状況?』
こんな時に空気を読まずに無線してくる男。
「ん?迷ってるよ、盛大に」
『迷う?お前ってば方向音痴だっけ?』
「違う、迷いの森ってフィールドのせいだと思うけど。βのときってそんなフィールドあった?」
『なかったぞ、もしかしてお前、また例の種族にしただろ』
「うん、咎人」
グレイはそのせいだと断言した。
『俺も種族を前回同様にビーストにしたら、始まりの町じゃなくて獣の里って場所にいたから。たぶんな』
「つまり、これが咎人たちの集まる場所ってことになるのかな?それだと、随分寂しい場所だな」
『どういう種族設定なのか俺には分からないけど。それよりも町の中か、その他の場所に転移クリスタルはないか?』
グレイは転移クリスタルさえ見つけることが出来れば一度言ったことのある場所なら何度でも行けるようになると言った。
「移動が便利になるってこと?あ、そう言えばそれっぽいのを森の入口で見た」
カノンは森の中で迷子になる前それらしきものを確かに見ていた。グレイが言うには転移クリスタルとはひとつの形状ではないらしい。だから見た目が違う可能性だってある。
急いで森の入口まで向かう。戻ることはすんなり出来るくせに進むことが出来ない謎の森。カノンは始まりの町へ向かうために足を早めた。
「これか?」
カノンが森の入口まで戻ってくるとそこには寂れた石碑のようなものがあった。最初は何かの墓なのかと思ったがカノンがそこを調べてみると
『転移しますか?』
転移クリスタルであることを証明するようにアナウンスが脳内で響き渡る。カノンがその問いに対して肯定するとカノンの身体は光に包まれ、ほんの一瞬だけ視界が消えると次には見知った場所に立っていた。
「森?でも、ここは……」
急いでマップデータを参照するとそこには始まりの森と書かれていた。
<マップデータ>
始まりの森
冒険者たちが集まる始まりの町の南に位置する森。リンゴが実ることで有名。
踏破率1%
「なるほど、今回からマップデータと踏破率っても追加されているのね。やりがいが増えていいじゃん」
慣れ親しんだ森を散策次いでにこのあたりのモンスターを探すことにした。モンスターを探している間、ただ探しているだけでは勿体無いと近くに落ちているものをとりあえず拾っていく。
「木の枝、石ころ……こんなのばっか。モンスターも中々見つかんないし」
カノンは文句を言いながらアイテムボックスから石ころを取り出し、適当に投げる。モンスターに当たればいいなと思いながら。
「いてぇ……」
鈍い音と共に人の声が聞こえた。その声がした方向へ向かってみると青年が頭を押させて座り込んでいた。
「……大丈夫?」
「問題ない、と言いたいところだけど痛いな。ゲームだと思ってそこはあまり感じないものだと思ったんだけど。って誰?」
「『あたし』はカノン」
「自分はガイアだ。見たところ剣を使うのか?」
ガイアはカノンが腰に下げている剣を見てそう言った。
「ん、……どうだろ。あんまり使う予定はないし」
カノンはガイアの足元にある機材に目を向ける?それは【調合】を行うための初心者セットだった。
「君って生産職を目指しているの?」
「ま、そんなところ。それに友達がこのゲームをやって自分は後からの人間だからせめてそいつの役に立つことをしたいなって思ったからだし」
「へぇ」
「それにな、生産って結構楽しいぜ」
「それは知っている」
カノン自体も異質ではあるけれど、生産職なのだから。
「この辺で作業するよりだったら、もう少し奥へ行ったところにあるセーフティエリアで作業した方がいいよ。そこだと景色も綺麗だし、あまり人もこないところだから、『あたし』は行くけどね」
「第一陣ってやつか」
「今だとあんまり関係ないと思うけど。おかげでこっちはまたニューゲームみたいなものだし」
何故か謝ろうとしているガイアを止めると
「気にすることないと思うよ。おかげで中々便利になったところもあるし、一からのスタートって燃えるとこあるし」
カノンはそう言って盛大に本当に楽しそうに笑った。
生産って楽しい。
生産系って作業ぽくて地味なところではあるけれど、かなり重要なポジだと思いますけどみなさんはどうでしょう。