約束。
───イベント開始から四日目の午後───
カノンは相変わらず一人行動をしていた。何故一人で行動をしていたのかと問われると答えられるほどの正当な理由はない。
「マッピングもある程度進んだし、レアなアイテムを探しつつ『宝』を持っている冒険者を探そう」
手持ちのアイテム残量の確認と地図を見ながらカノンはそう呟く。『この世界に不必要なものはない』とどこぞの誰かが公言したようにこの世界にはどんなものにでも名前があり、レア度がある。それ故たとえ目の前に落ちている小石であろうと手に持ちアイテムとして所有することが出来る。
アイテムを大量に消費しなくてはならないという手前、このシステムは正直なところかなり助かっていると言っても過言ではない。
何度もいうようだが、カノンが何かしらのアイテムを手に入れる手段にNPCから買うという選択肢はない。NPCから買い物が出来るということはこのゲームにおいて、かなりの優位性がある。
NPCはどこにでもいる。それは行商人のようなもので例え商売人魂なのかダンジョンのなかだろうが、魔物の巣窟だろうが、セーフティエリアを見つけてはそこに立っている。
このことが当たり前になり過ぎて、普通の冒険者であれば何とも思うことはないだろう。思っても「こいつら頑張るな」くらいなものだ。
だが、カノンからして見ればダンジョンでアイテムが切れてしまっても補充することが出来ない。武器には耐久度が備わっておりもしダンジョン内で武器が壊れてしまっても補充することが出来ない。
これは不利なことではないのか。
故にカノンは自身が生産職となることでそれをカバーする。生産職になるんだったら冒険とかよくねとか思う人がいてもそこはカノンが男の子であるからで通す。
中々に分かってもらえないが。
「……流石にこのイベント中はいないか」
仕事が生きがいの彼らもどうやら休暇を頂いているようだ。そうでもしないとストライキが起きそうで怖いものだ。
◇◇◇◇ ところ変わって。
「ユニーク狩りは愉しいな」
一人の少年が自身の目の前にうつ伏せで倒れている冒険者を剣で突き刺しながらそう言った。
顔色変えずにそう言う少年を木の陰から見ていた現在蹂躙されている冒険者の仲間であろう男は恐怖した。
PK。
男の脳内にはそこの用語が何度も何度も繰り返されていた。
「アイツはまずい。逆に俺らが殺される」
「逃げるぞ」
男は自分の仲間にそう告げるとその場から立ち去ろうとする。
「……おい、待てよ」
が、いつの間に間合いを詰められていたのか件の少年は彼らの前に立っている。
「人を狙っておいてそれか?てめぇらは大したことがないな。てめぇらが他の冒険者を殺して手に入れた『それ』を置いていくなら見逃してもいいぜ。だが、言葉には気を付けろ。うっかり俺はてめぇらを殺してしまうかもしれないからな」
「バースの旦那……ここはアイツの言う通りに」
「そうだ……ここで殺されるより」
バースと呼ばれた男は手に入れた『宝』を袋から取り出すと、少年に渡す。すると、少年はバースの隣にいたバンダナを付けた男を無慈悲に斬り捨てる。
「全部、だ」
HPバーを全て削り取られた男は無残に消えていく。
「……頼む、これだけは」
「はははは。これじゃあまるで俺が悪役みたいじゃないか。そうだ……。お前らの仲間と同じユニークキャラを見つけてこい。そうすれば、『それ』は奪わないし、これ以上殺すことはしない」
「ほ、ほんとだな」
「ああ、約束しよう」
そう言った少年の口元が少しだけ緩んだのを気付く者はいなかった。
はい。読んで頂きありがとうございます。
今回は新キャラ登場ということで仲間を増やすか、敵を増やすか。正直迷ったところなのですが、今回はこういう形を取らせて頂きました。
さて、この謎の少年。これからメインの座を狙って頑張ります。
以上!
次回『脅威』