狂犬は意外といい奴?
敗北。
カノンの頭の中にはその二文字が大きな重みを持った。今まで負けたことは何度かある。だが、それは経験になってカノンを次のステージへと昇らせていた。
しかし、この敗北は違う。
別に慢心していたわけではない。
絶対に勝てると思っていたわけではない。
だが、現実はどうだ。目の前に立つ男は圧倒的なスキル使いで、デメリットを自身のメリットの変える。偶然ではないだろう。既存スキルは数多く存在し、冒険者を助ける【スキル】は多い。このゲームにおいて既存スキルはあくまで補助に過ぎない。
スキル製作制度。
自身で独特のスキルを開発してそれを高めていくことに特化したゲームだ。オリジナルスキルは確かに強力だが、使い手が弱いのでは話にならない。
「レベルはそんなに重要視されていないと思っているだろう」
「……妹が言っていたな」
「スキルには各レベルがあり、それぞれ限界値が決まっている。冒険者自体のレベルは上限がなく、無限に上昇する。この意味が分かるか?」
「鍛えれば鍛えるほどステータスが上がる」
「どんなにいいスキルを持っていたところでそのレベルが低いのでは話にならない。戦闘系に特化している俺なんかは猶更だ。いくらステータス補正で能力が上がるとはいえ、それも元のステータスが弱いのでは意味がない。よく言うだろ『レベルを上げて物理で殴れ!』って。それにRPGの基本はレベルを上げるところから始まるだろ」
「……そういう考え方もあるのか」
「うちのボスは全く違う考え方だけどな。『レベルなんて簡単にあがるもの。だったらそれを犠牲にスキルを強くすればいい』ってことをいつも豪語している」
「それって」
「宝はお前にやる。俺達は別にトップを目指しているわけじゃないしな。ある程度集まればそれでいい」
オリオスは自身の演説に満足したのかこの場を去ろうとする。
「貴方のボスの名は?」
「殲滅のシオン。βからの付き合いだが、アイツはとんでもなく強いぞ。それでいて非情な部分もある。まったく恐ろしい奴だよ」
まさかと思っていた名が出て僅かに動揺を示すが、オリオスはそれに気付くことはなかった。
「また死合をする機会があったらその時は楽しみにしている。それまで強くなっておけよ。カノン」
カノンはオリオスの【スキル】の効果が消え、【自動回復】である程度HPを回復すると動けるようになった。致命傷を避けていたせいなのか、蓄積ダメージが思った以上に大きく、立ち直るのに時間が掛かった。
自由が戻るとゆっくりとその重くなった身体を起こし、立ち上がる。
「……あー。負けた」
立ち上がり、大きくため息をする。
「悔しいな。負けるって」
そう言いながらもゆっくりと宝箱まで近づくと鍵を壊し開ける。
すると。
「きゃあああああああああああああ」
悲鳴が森いっぱいに響いたのだった。