『筆頭カノンVS狂犬オリオス』
神経系を破壊されている以上、この戦闘が終わるまでは治る可能性はかなり低い。それも利き腕である右腕が使えないのでは何をするのにもかなりの支障が出る。
「さっきの札みたいなのは使わないのか?」
オリオスは錬成方陣の描かれたあれを使わないのかと尋ねる。
「あれは簡単に使えるものじゃないからね。それにまだ貴方みたいな強敵とやり合うにはレベルが低すぎるし、第一あれはまだ実戦向きじゃない」
カノンは久しぶりに装備した【雀蜂・崩】の感触を確かめるように拳を開いたり閉じたりしている。
「序列三位ってことは、かなり大きいギルドなのかな?」
大剣から放たれる斬撃を回避しながらカノンは言う。
「六十人くらいの小さなギルドさ」
「……かなり大きいんじゃないかな」
小声で【セカンドラスト】を発動させ、印を付ける場所を見定める。【セカンドラスト】発動時、多少発動のためのモーションがある。その際、両手を一度胸のあたりで合わせるのだが、今は片手しか使うことが出来ない。これを省略しても【セカンドラスト】の発動自体は可能だろうが、威力は若干落ちてしまうだろう。
威力というよりは二度目の攻撃までの印の維持時間が狭まると言った方がいいかもしれない。
高位威力の【スキル】ほど、発動の際には独特の動作が必要となる。もちろんこれは発動のための条件の一つだが、別に必須というわけではない。
【スキル】本来の威力で技を使いたいのならこれは行うべき行為。【錬金術師】でその行為にあたるものは供物を捧げることだ。ただあれはオリジナルスキルのためか必須になってしまっているが。
「何を呆けている!」
スタミナというシステムがあるわけではないが、動き続けているとそれなりに疲労感というものが蓄積されていく。これはゲームでも同じことで、あまり大きく回避行動を取ると、その分息切れしてしまったりする。
だからカノンはオリオスの攻撃行動を見極め、最低限の回避でスタミナの消費を減らす。
そして好機を待つ。
「まずは一撃」
振り下ろされた大剣の風圧で髪を乱しながらも懐に入り込むと、腹部に左手を突きつける。
掌底破。
カノンがよく好んで使う技。この技も本来両手で使う技で、その分威力は半減している。それでもカノンの目的はとりあえず一撃の入れることにあった。
「……何だ?これは」
「……」
ダメージ自体はそれ程なかったようでオリオスは平気な様子で立っているが、カノンは冷や汗をかいていた。
「……何かしらの【スキル】というわけか。それもメンドイ発動条件」
オリオスの言っていることは当たっているためにカノンは何も言わずに、次の一撃を当てることに集中している。
「スキル発動」
オリオスは何かの【スキル】を発動させるのと同時に笑みを浮かべた。
「なるほどな。これがお前の使った【スキル】の正体か。【セカンドラスト】……また随分と物騒なものを使ったじゃねえか」
「なっ!どうして」
「言わない方が面白いだろ」
カノンは苦虫を噛み潰したような顔でオリオスを睨んだ。
「だが、敢えて教えてやるよ。これは俺の持つ【看破】って【スキル】の効果だしな。ただこれは既に発動している【スキル】に対してのみ効果を発動する」
「それで見破ったってこと?」
「それと悠長に質問している余裕はないぜ!」
カノンの上空から何十本もの矢が雨の如く降り注ぐ。カノンのは【スキル】に気を取られて回避するのが僅かに遅れた。