デメリット
グレイと別れたカノンはクリスタルのある大講堂を出て、町へ駆け出す。そこはゲームの中だということを忘れてしまいそうなくらい空が高かった。
町も細部まで作り込まれており正直感動で言葉が出なかった。
ただこうして町を見ているのも悪くはなかったが、どうせこの世界に来たのなら戦闘せずには居られなかった。
ショップでマップを買おうとしたがあることを思い出す。
「……買い物……できない」
仕方ないので何も買わずに町を出ることにした。町から出るとβ時代を体験していそうな戦い慣れた集団が北へ向かっていたので、カノンはそれとは逆に南に向かうことにした。
大講堂を出て町の出口へ向かうまでいろんなものがあり目移りしてしまいそうだったがそんな欲望を我慢して南へ向かって歩く。
「嬢ちゃんどこへ行くんだい?」
不意にそんな言葉を掛けられた。その声の主に視線を向けるとどうやら下心があって声を掛けてきたというわけではないみたいだ。
「……わかんない」
「迷子か?」
そんな心配をされるのは心外だったが、カノンはこの男がプレイヤーでないことを知っていた。
「“あたし”なら大丈夫だよ、たぶんね」
「嬢ちゃんがそういうなら大丈夫なんだろうが……何かあればいうんだよ」
うん。いいおやじさんだ。
町の入口でNPCのおじさんに別れを告げるとそのまま当初の目的通り、南へ向かうことにした。
目的に到着するまで特にモンスターに出会うこともなくただ平和な草原をてくてくと歩いている。体が幼児体型とまではいかないがそれでも比較的それに近い身体ではどうも時間が掛かってしまう。
移動速度を上昇させる【スキル】もあるのだろうが生憎今それを入手していない。走ったところでスピードは幼児のそれだ。
幼児とは言っているが見た目としては中学生くらい。それでも低身長に変わりはない。
てくてく歩く。
暇だったので自分の装備を見る。
<装備>
ボロいワンピース
町娘がよく着ているワンピース。防御力には期待できない。
DEF1
錆びれた短剣
その辺に落ちている短剣。錆びれているため攻撃力と切れ味には期待できない。
STR1
せめてワンピースであって欲しかった。せめて短剣であってほしかった。
そんな少し残念な気持ちになりながら先ほどよりも重い足取りで草原をてくてくと歩く。
徒歩による移動で三分ほど経っただろうか。草原に終わりを迎える。
草原がある場所から森のようになっていた。律儀に森の入口に<始まりの森>なんて表記までされていた。
「……<始まりの森>ね。どんなモンスターがいるかな……可愛いといいな」
森の入口でそんなことを言っていても何も始まらないのでまずは一歩。カノンという人間の小さな足は森の入口に吸い込まれるようにして入る。
これは大きな一歩だ。
歩幅は小さいが。
森の中に入るとそこは見晴の悪い森だった。
まだゲーム時間で朝だというのに、これはどういうことだろうか。とても暗い。お化けや幽霊が出そうな雰囲気がある。お化けと幽霊は一緒か。
とりあえず採取をしながらてくてく歩いていると茂みから緑色の液体なのか個体なのか疑問を持ちたくなるような生物が現れた。
EXP(経験値)としても対してうまみのないそれはただ狩られるだけの存在。
とても儚い存在。
「……スライムだ。実際に見ると可愛い」
もし仮にこの場に隣人がいたとするとその光景をなんと言っただろうか。このカノンという人間はモンスターを見て可愛いと称する。
近付いてきたスライムを撫でてみる。
「ぽよぽよしてる」
「……」
スライムって可愛いよね。
そう思うのは私だけでしょうか?