終われない。
対峙しただけで分かる。
威圧感。
「……対人戦ってこれが初めてなんだけどってのはあまりいいわけにならないかな」
カノンは小さくそんなことを口走りながらも短剣に紙を巻き付けていく。短剣を強く握ると、相手の突きを躱し、懐に入ると短剣で切り付けようとするが相手は長槍から片手だけ離すとその手で拳を作り、それをカノンの懐にヒットさせる。
「バカか。伊達に長槍使ってるわけじゃねぇんだよ」
拳がかなり重く、カノンは吹き飛ばされ後方にあった木に背中を大きく打ち付ける。
「……発動」
カノンは吹き飛ばされながらも詠唱する。
カノンの詠唱と同時にカノンを殴った相手の足元で爆発が起きる。
「ぐはっ!!」
相手のHPバーに目を向けるとHPのほとんどが先ほどの爆発で刈り取られていた。
「何をしたあああああああああ!」
「……ただ、失敗しただけ。それにこれは奥の手だし」
カノンは削られたHPを【自動回復】の効果で回復する。HPがあまり多くないのためなのかそれ程時間を掛けずにHPが満タンになった。
「これでトドメ」
カノンは恒例の如く小石を取り出し、投擲の構えに入る。
「ふざけるなあああああああああああ」
投擲の構え、より早く『漆黒の刃』の構成員が長槍を手に取り突進してくる。何かしらの【スキル】を使用しているのか、スピードが上昇しているように見える。
けれどカノンは慌てることなく、地面に紙を四枚ほど落とす。
「喰らいやがれえええええええええええ!!」
「暑苦しい……発動」
突進してくる直線上に設置した四枚の紙が淡く光ると巨大な岩が出現し、攻撃を遮る。その代りにカノンは大量のアイテムを消費した。
「【スキル】張替。【錬金術師】から【暗殺者】に変更」
巨大な岩が破壊されるとその場一体が砂煙に覆われる。これもカノンの作戦のうちであり、カノンのは【暗殺者】の能力を使用する。
「【這いよる死】発動」
【這いよる死】は暗殺者の能力の一つで、相手のHPが残り10%以下の場合のみ発動可能で間合いに関係なく、HPを全て刈り取る。しかし、相手から視認されていないことが条件。
砂煙に覆われたため視界不良となり対戦相手はカノンを視界から外す。それを好機とみてカノンはスキルを発動させる。
「……な、何だと」
「ごめんね」
カノンは一瞬で間合いを詰めると手刀で対戦相手の首元を切り裂く。
「悪いとは思うけど、同情はしないよ。これも必要なことだしね」
カノンは倒れた対戦相手を見ながらそう呟くと、苦しそうに膝をつく。
「MPを使い過ぎた……」
鞄に手を入れ何かを探す。
「……使いたくはなかったけど」
カノンが取り出したのは自身で製作した回復薬もどきだった。というより、回復薬を作ろうとして失敗した挙句に出来た出来損ないのMP回復薬だった。
それを使いたくなかった理由とはそれがあまりにも不味いためである。たぶん人間の飲物ではないとさえ思っている。
「邪魔者もいなくなったことだし、ちびちび飲みますか」
そう言ってビンのキャップを外し、口を付けようとするとその様子を誰かに見られているような気がした。
「誰!」
だが、声が森の中に反響するだけでそれ以外に音は聞こえなかった。
「気のせいなのかな?」
「気のせいじゃねぇぜ、女アアアアアァ」
カノンは咄嗟に片腕を捨てて、防御の構えを取る。