宝の持ち腐れ。
イベントが開始されてから約5時間くらい経過しただろうか?
カノンは疲れた表情で水辺のあるエリアまで来ていた。
「もう。虫なんて見たくない」
先ほどからそればかり。たまには違うことを言うのかと思いきやため息をつく。カノンは本当に虫が嫌いのようだ。
「虫ってどうして気持ち悪いんだろう」
「確かに気持ち悪いものっちょ。ミュウもあれは苦手なんだっちょ」
カノンの独り言は誰かに聞かれていたようで、振り向くとそこには人懐っこそうな女性冒険者が水筒を片手に立っていた。
「宝探し?」
「それもあるっちょ。けど、ミュウは君に用事があるっちょ。同じユニーク使い」
どうやら自称ミュウと名乗る女性冒険者はイベントそっちのけでカノンに用があるのだという。
「”あたし”以外のユニークか。なら初めまして、”あたし”はカノン」
「ミュウっちょ。ユニーク、【言語使い】っちょ。別名言霊使いというっちょ」
「へえ。やっぱりデメリットってあるの?」
「それを教えてやるほど優しくないっちょ。でも教えてあげるっちょ」
するとミュウは一呼吸おき、【スキル】を使用する。
「【言語使用】、索敵開始!」
そう唱えるとミュウを中心に同心円状にセンサーのようなものが放たれる。まるで池に小石を投げ入れたような。
「周囲には何もいないっちょ」
「【索敵】と同じ効果?」
「ほぼ何でもできるっちょ。ただステータスや状態にかかわるようなことはできないようになってるっちょよ」
そんな万能なスキルがあっていいはずがない。それこそバランスが崩壊してしまうような。
「デメリットは?」
「ミュウとチームを組まないっちょ?」
「チーム?」
「ギルドと言い換えた方がいいっちょ」
デメリットを教えてもらうはずが……、それでも何ともメリットのない話というか信用のない話だ。
「ギルド立ち上げを手伝って欲しいっちょ」
「……”あたし”の種族【咎人】のデメリットでギルドを立ち上げることは出来ない」
「所属する分には問題ないっちょ?手続きはこっちでやるし」
「そうだね。所属する分には問題ない。どうせ”あたし”はフリーだし」
願ってもないというか正直なところ有難い。カノンは有名ギルドよりも誰も知らないようなギルドに入りたいと思っていたからだ。カノンが作るという選択肢も本来ならあったのだが、デメリットの一つでNPCからの買い物は出来ないとある。
先日試したのだが、これは雑貨屋以外にも適用されるようで都市間を移動するような馬車も使用できなければ、宿に泊まることも出来ない。
もし関税があるような町があるとすれば入ることが出来ないのではないと思ってしまう。
「それとデメリットは【スキル】使用後は5分間のインターバルが発生するっちょ」
「つまり連続使用が出来ない」
「MPの消費も大きいのもあるっちょ。使える言霊は一時間に5つっちょ。まだ大きなデメリットがあるっちょ」
大量の金貨が入った袋をカノンの前に積み上げると
「これミュウは使えないっちょ」
「……えええええええええ」
こうしてNPCから買い物出来ない少女?と買い物自体出来ない少女が出会った瞬間だった。