ギルド
たかだかインナーを選ぶだけで着せ替え人形のように遊ばれたあの地獄のような日からはや、数日。
結局、インナーが決まることはなく、カノンはいつも通りワンピースの下には何も着ないという選択肢を選んでいた。
運営の計らいなのか、見えそうで見えない絶対領域が発動しているようで、本当に見えてしまうことはない。けれど見えないからと言ってこのままでいるのはどうかと思い、実際に来て見て恥ずかしくないものを選ぶことにした。
今だ、それには出会っていないのだが。
リンダが用意していたインナーはどれもマニアック過ぎて、どうしても自分からそれを着るという行動を起こすことは出来ずにいた。
「……流石にこのままは……」
「どうした、カノン」
始まりの町の中心地にある噴水公園にあるベンチに腰を掛け、ため息を漏らしていると、見慣れた巨漢が親しげに話しかけてきた。
「別にどうもしてないんだけど、変態君」
「ふっ。変態と称するか。悪いが俺は変人だ」
「……どう違うの、それ」
話しかけて来た巨漢はグレイだった。前に会ったときと装備が違っており、いい装備が売りに出されていたか、オーダーメイドで発注したものなのかという疑問はあったが、グレイのネームの隣に称号のようなものが一番に気になった。
「ああ、これか?これはギルドに登録するとこうして加入しているギルドの名前がネームの横に付くんだよ」
グレイはカノンの視線に気付いたのかそう答えた。
「別に聞いてないし」
「お、お前ツンデレだったのか!」
「……ツン……なんだって?」
「ツンデレ。普段は素気ない態度を取り、人を突き放すようなことをしているが本当は素直になれないだけの不器用な娘のことをそういうんだよ。ときたま、デレるのが最高にいいんじゃいか!」
どうでもいいことを熱弁するグレイは放置することにし、リンダに連絡を取ることにした。この前リンダに念話というシステムについて教えてもらい連絡手段を手に入れたのだ。
「あっ。リンダさんですか?」
コール音の後に少し眠そうな声のリンダが出た。
「どしたの?」
「特に用というわけではないんですけど、ギルドでどうやったら作れるか知ってますか?」
リンダは資料を添付するねとだけいうと念話を終了させた。
念話が終了すると同時にURLのついたメールが送られてきて、その資料に目を通す。ただその資料を見て思ったことがギルド登録するのにもNPCの仲介が必要になるということだ。
仮にそれが商売をしているNPCと認識された場合、カノンは登録を行うことが出来ない。登録自体に仲介料みたいなものが発生しなければ、商売としては認識されない。
「……意外と難題だ」
「ん?ギルドを作ろうとしているのか?」
正気に戻ったグレイがカノンに尋ねる。
「そうだね、もしギルド戦的なイベントが出たときに参加出来ないと困るから」
「それなら問題ないぜ、確かにそういうイベントもあるが、それは運営がしっかり考えて誰でも参加できるように臨時ギルドみたいやつで参加できる」
「ってことは正規のギルドでなくても大丈夫ってこと?」
「その通りだな。けれどギルド単位で貰える特別報酬とかは手に入らないけどな。それでも個人に来る報酬も捨てたものじゃない」
グレイが言うには、ギルド単位で参加するイベントが発生した場合、ソロで楽しんでいるプレイヤーが参加できない。それを考慮し仮のギルドとして参加することでイベント内でもソロ行動が出来るというシステムらしい。
ただ、ギルド全体の成績が出ないためにギルドに贈られる報酬とかはないとのことだ。
「今回はとりあえずそれで参加しようかな」
「何だ、俺のギルド【西方の聖騎士団】に所属するつもりはないのか?」
「……グレイが考えたのか?」
「カッコいいだろ。始まりの町から西に行けば結構大きな教会都市があるんだよ、そこに本拠地を構えてる」
聖騎士団と言われるとグレイの装備にも納得がいく。白をベースとした甲冑は纏い、そのシンボルとして十字架が刻まれている。けれどビーストなのに騎士というのは少し笑えてくる。
「オレは“あたし”なりのやり方でやるよ、団長さん」