オープン②
「紫苑……なのか?」
「それ以外誰がいるっていうの?せっかく助けてあげたのに。それに気付いた?あたしさ、さっきおねぇって言ったの。実はあれ二つの意味で言ってるんだよ。お姉ちゃんって意味とこのオカマ変態野郎ってね。さっき絡んできた人たちには姉妹の意味で聞こえただろうけど、あたし的には後者なんだよね」
カノンを助けたのは実の妹である、紫苑。アバターを見てみると黒髪のショート。瞳も黒く、顔立ちは少し幼さはあるものの、整っており美少女の部類に入るだろう。衣服はブレザーのようなものを着ている。冒険者というよりは学生と言った方いいと思える。
「……いい武器持ってるじゃん。でも、【スキル】はいまいちだね。もしかして本当の意味での製作って知らないでしょ。始めてやる人は結構を当て嵌まるんだよ」
紫苑は何故かカノンの持っている【スキル】を知る術を持っている。
「それは、何かの【スキル】なのか?」
「素に戻ってるよ。お姉ちゃん。あははは、これいいかも。お姉ちゃん、響きいいし。それにあたし前からお姉ちゃんが欲しかったんだよ」
「……話が逸れる」
「そんなことより、お姉ちゃん。何か用事があったからあの場所にいたんでしょ」
紫苑にそう言われ、本来の目的を思い出す。
「もしかして、リンダっちに会いに行くところだった?」
「リンダさんを知ってるの?」
「知ってるよ。だってβ版のときはかなり名の知れた生産職の人だったし。それによく素材の調達とか頼まれてたし。あたしさ、ちょうどリンダっちのところに行く予定だったんだよね。お姉ちゃんも一緒に行く?」
紫苑の提案は願ってもみないことでカノンは即答する。
「頼む」
「やだ」
「えっ」
「今は姉なんでしょ。男みたいな口調はだめだよ……その方が面白いし」
最後の方が小声過ぎて聞こえなかったがカノンは本能的にそれが自分にとって最悪で妹にとって最高だと理解していた。
けれど、どちらかが折れるしか選択の余地はない。
そして、妹が折れることは決してない。
つまり、自分から折れるしかないのだ。
「……ねぇ、お願い♪」
ああ、自分の中で確実に何かが減っているような気がした。
「……(♪って、あはははは。だめ堪えないと。キモイ、笑える)。仕方ないな、お姉ちゃんの頼みだし」
そう言って、紫苑はカノンの手を掴むと先ほどと同じように「転」と唱えた。
すると場所が一転し、最初にいた裏路地に戻る。
「【スキル】なの?」
「そうだよ、これは【転】っていうスキル。あたしが自身で作り上げたスキル。効果も教えてあげるよ」
<スキル>
オリジナルスキル
【転】
製作者 シオン・ガード。
ステータス補正AGI50 武器制限。
自身のレベルを一つ下げることで任意の場所へ移動することが出来る。ただし使用後一分間は攻撃アクションを行うことが出来ない。
「これがこのゲームの醍醐味ってやつだよ、お姉ちゃん。そもそも本当にハンデ負いたいなら自分で作成した【スキル】だけを使いなよ」
「……移動するためだけにレベルを下げるのか」
「レベルなんてこのゲームには何の意味もない。……あるといえばあるけど。何も疑問に思わないのかな、初日にしてはレベルが上がるのが速いとかさ」
シオンに言われるまで何の疑問抱くことはなかったが、確かにさくさく進んでいることは自覚していた。
「このゲームはレベルを上げることよりもいかに他人には出来ないような【スキル】を作り出し、自分だけのプレイスタイルを獲得するかに重きを置いたゲームなんだよ。既存の【スキル】に頼っているようではまだまだだね」
「ユニークスキルとは?」
「えーと。既存ではあるけど既存ではないだっけ……そのあたりはリンダっちの方が詳しいから」
そう言ってシオンは壁に向かって歩き出した。普通ならここで壁にぶつかるという事象が起きるはずなのに、シオンは難なく壁をすり抜けた。
カノンもそれに従い、壁に向かって歩き出すと突然ウインドが出現し入場しますか、しませんかという表示が出た。
その表示に従い、入場しますに指で触れると突然目の前にドアが召喚される。シオンの様子を見ていたがドアなんてものは現れておらず壁をすり抜けたように見えた。つまりこれはこの質問に答えた人間にしか見ることの出来ないドアなんだと思う。
勢いで作品を書くことを反省。
物事よく考えないとだめですね。