オープン
妹の襲来を耐え、翌日。
休日ということもあってか朝からゲームをすることにした。今日の目標は新スキルの入手、主に戦闘に関するスキルを入手することが出来ればいいと思っている。レベル上げは特に行う予定はない。
それに妹も今日から参戦すると言っていた。出来れば一番会いたくない相手。
「……ポーション作るって言ってすっかり忘れていたな。別に作れなくてもいいんだけど、苦いものを飲み続けるのは流石に、いくらゲームとはいえ味覚が可笑しくなる」
目標にポーションの改良を入れるがうまく行くような気がしない。
「ダイブ・スタート」
【アルファ・ギア】を被り、起動言語を唱える。
何やらいつもと違う感覚を覚えながら。
意識が覚醒すると始まりの町にある大講堂にいた。大講堂にある巨大なクリスタルで自分の姿を映すと僅かに成長しているようにも見えた。このゲームはキャラの育成も出来るのだろうか?
気になっていた服を見ると破損が修復されており、しっかりと肌が隠れている。破損しても見えそうで見えないギリギリのラインを保っているとはいえ、はやり恥ずかしいものだ。
防具の破損は装飾屋に行けば直してもらえるらしいのだが、生憎カノンには出来ない相談だった。初期装備は一定の時間立つと破損も勝手に直るようで、ありがたいといえばありがたいのだが、はやりインナーは重要だろうと思った。
「リンダさんに相談すれば、何とかなるかも」
もちろん、インナーの件だ。そうと決まればあとは行動するだけで、カノンは昨日リンダに出会った路地裏に向かう。
その途中で何やらヒソヒソ話が聞こえたような気もしたが、それは無視することにする。内容が内容だったのと、関わってしまえば更なる面倒事に巻き込まれそうだったのが一番だ。
昨日リンダが露店を開いていた場所へ来たのだが、そこにリンダの姿はなかった。フレンドリストを見ると、すでにログインはしているようでどこかにいるはずなのは分かるが。
「……電話機能的なのってないのかな?」
道路に座り込み、ウインドを操作していると見知らぬ人が声を掛けてきた。街中で声を掛けてくるということはNPCではない。その可能性も否定は出来ないが、それでも可能性としてはプレイヤーの方が断然高い。
「何してるの?お嬢さん」
「やべぇ、超紳士だよ。ヴレイヴさん」
とてもテンションの高い二人組だというのは理解出来た。だけど、何をしているのか答える義務はあるのだろうか、そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
「……」
「迷子ならこの僕が一緒にいてあげるよ」
それにしてもウインド操作をしながら目の前に立っている存在価値ないモブを相手にするのは正直疲れる。
「……迷子ではないので気にしないでください。それに少し忙しいので」
「おいおい、それはねぇぜ。ヴレイヴさんが話しかけてるんだぜ」
本当にどうでもいい。
「あれぇあれぇ?」
カノンが目の前にいる二人組にうんざりしているとこちらを見て何か言っている少女がいた。見たところヒューマンであることが確認できる。
「ヴレイヴさん!あの娘も上玉ですよ」
「……お前は少し黙ってろ」
「うっす」
どうやらこの二人組の上下関係はしっかりしているようだ。
「おねぇではあ~りませんか。どうしたのですか?こんなところで」
かなりふざけた口調だが、カノンのことを知っているらしい。すでにある一部ではカノンは有名人になっているため、知っていても可笑しくはないのだが。それも悪い方向で。
「……ちょっと」
ふざけた口調の少女はいつの間にかカノンのすぐ隣にいて、カノンに抱き付くと
「転」
そう小さく呟き、二人の姿はそこから消えた。
「っ!これは……」
「ヴ、ヴレイヴさん!」
慌てふためく二人の男の様子を水晶モニターで遠方から見ている少女がいた。消えたはずのカノンは一瞬で違う場所に連れてこられたことに理解が追い付いていなかった。
「何時まで狼狽してんの?おにぃ(・・・)」
カノンをそう呼ぶ人間は一人しかおらず故にこのプレイヤーが誰なのかすぐにわかった。




