妹と書いて支配者と読ませたい。
いろいろと壮大な一日を過ごすと、カノンはログアウトをし現実の日常に帰還。いくらゲームが好きとはいえ本業は学生。
学生の本分は遊ぶこと!ではなく学ぶことだ。よって寝る前に少しだけ勉強しておくことにした。
「……ったく、面倒だ」
愚痴を溢しながらも、ノートは数式やら文章やらで次々に埋まっていく。要点を分かりやすくまとめたノートは綺麗だというが、奏音のノートはまさにそれだった。
「相変わらず、性別に似合わずノートと字綺麗だよね。おにぃ」
「性別に似合わずは余計だ!それにいつからいた」
奏音が勉強に集中していて気付かなかったが、振り返るとコーヒーの入ったコップが乗っているトレイを片手に髪の毛をタオルで拭いている妹がいた。
「……神出鬼没過ぎるだろ」
「それが“あたし”の売りなんだよ、おにぃ」
「そうですか。ところでそれはオレのか?」
奏音はコーヒーを指してそう言った。
「違うよ、あたしの」
「……じゃあ何し来た」
「勉学の邪魔、かな?」
「もういいから帰れよ」
するとその言葉がツボに入ったのか妹はトレイを机に置き、ひたすら笑うのを我慢していた。
「おにぃ、それ本気で言ってる?帰れって。あははははは、ごめん。もう無理」
我慢が限界だったのか腹を抱えて笑い出した。
「……オレはそんなに可笑しいことを言ったか?」
「だってここ家だもん、帰れないよ。あははははは」
妹のツボはいまいちよくわからない。
「それとこれが本題だよ、おにぃ」
「ん?」
「あたし一日遅れだけど、明日からログインするからよろしくね。あーでもでも、操作とかの心配しなくても大丈夫だから。だってテスターだったし。おにぃよりも強いかもね」
衝撃的な事実をいきなり言われ頭が真っ白になるが、何かおかしい。
「……テスターだったの?」
「そうだけど、どうかしたの?あたしってさ、よく応募したら当たる質なんだよね。そういえばなんだけど、正規版から種族追加になってるでしょ。友達言ってたんだけど、正直ふつうの種族でどこまで強くなるかってのがRPGの基本でしょ。追加する必要あったのかなって思うわけで……どうしたの?おにぃ」
「……う、うん。そ、そうだね」
「あれぇあれぇ。もしかしてそれ選んでる?何でもデメリットあるらしいじゃん。でもさ、おにぃのことだから「ハンデがあった方が面白い」とか思ってるでしょ。分かってないね。ハンデは対等より下を意味するなんだよ。つまり特殊な種族の時点で対等じゃないわけ。それも無数にある特殊な種族から選ばれるんだよ。ランダムっていうと聞こえはいいけど、自分だけ特別ですって優越感に浸れるって知ってた?」
妹はいつもこうだ。ゲームのことになるとものすごく饒舌で少しばかり見下したように話す。別に妹が嫌いなわけではないのだ。ただ慣れないだけ。
ゲーム内でネカマをやっていることを知ったら妹は何と言うだろうか。きっとまた饒舌的に簡潔的に説明的に話すのだろう。
それはそれでいいのだが、勉学を邪魔されたうえにまさか説教されるとは思ってもいなかったらしく、目が点になっていた。
「……うん。なんかごめん」
「ごめんで済んだらGMなんていらないんだよ、おにぃ」
「確かにそうだね」
「というわけで明日からよろしくね、おにぃ(・・・)」
最後は含みのある笑みを浮かべると妹はトレイを持って部屋から出ていった。
「……結局何をしにきたんだ、オレへの説教か?」
妹の目的を理解することなく奏音はそのままベッドで眠りについた。
「それにしても……どうやったら女になるのかな?でもこの画像はおにぃだよね。……このスクショ結構可愛いな、プリントアウトしようっと」
奏音が隣にある自室へ夢の中で旅たっている頃、悪巧みをする悪代官のような笑顔でプリンターにスイッチを入れる妹だった。
妹がプリントアウトした画像は死戻りしたカノンのあられもない姿のものでタイトルは「教会の痴女」と書かれていた。