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二十四章 再会と別れ



「ハイネ!」「レヴィアタ君!」


 一人は六十代で高級なグレースーツを着た白髪のお爺さん。何処となく旅人に似ている。ファーストネームで呼んだから、多分彼が生き別れの父親だろう。

 もう一人は余程急いで駆け付けたのか、よれよれの白衣を着た五十代の胡麻塩頭の男性。首元には長さ約五センチの砂時計が二つ付いたペンダント。古い物らしく、右側は金属製の外郭が錆びかけていた。

 二人は躊躇い無くハイネ君の目の前に屈み込む。

「父さん……それにルマンディ・ジュニア……は失礼ですね、流石に」

「いや。この年になっても、まだ私は父に追い付けない。他人が何と言おうとジュニアのままさ」

「ハイネ、今まで何処にいたんだ!?連絡の一つも寄越さず」

 二十五年分老いた父の姿に、年月から取り残された彼は少なからず衝撃を受けたようだ。それでもぎこちない笑みを浮かべ、肉親を安心させようとする。

「随分凄いスーツを着るようになったんですね、父さん。無事重役になれたんですか?」

「ああ。今は専務だ」

「今日は二人共シャバムに?」

「そんな訳無いだろう。久し振りに博士と食事していた所に連絡があって、慌てて宇宙船を飛ばしてきた」

「船、買ったんですか?」

「専務就任祝いに会長から一台譲られてな。中々外出に便利だぞ」

「へえ、良かったですね。頑張りが報われて」

 時の止まった息子の言葉に、老人は年甲斐も無く涙を零した。

「済まん……儂は仕事にかまけて、母親のいないお前をずっと一人にしてしまった……今ならあんな馬鹿な真似、絶対に」

「父さんに主夫は似合わないですよ」クスッ。「もう卵焼きは黒焦げにしなくなりましたか?そうだ、重役ならお手伝いさんを雇っているかな」

「ま、まぁな」

 不器用な親子の会話は、それでも何処か微笑ましい。記憶喪失の私と違い、離れていても共通の思い出を持っているから。

(かあさま……)

 危険な“炎の魔女”でさえなかったら、会ってもっと話したいのに……。

「レヴィアタさん。話は後で」

「そうだな。ハイネ、博士の研究所まで行くぞ。立てるか?」

 瞬間、青年は顔面蒼白になった。

「?どうした?」何も知らないお父さんは、肉親の変貌に眉間を寄せる。

 背後の私と視線を合わせたハイネ君は突然、差し出された皺だらけの手を振り払って立ち上がった。


「来て下さい、“黒の燐光”!」言うなり私の手を取る。


「待ちなさいハイネ!何処へ行くつもりだ!?」

「全くだ青少年。親御さん達の好意を無視するつもりか?」

「―――先生とティーを助けるには止むを得ません」首を横に振る。「二人に比べれば僕のウイルスなんて些細な問題です」

「!!?先生、ってまさか、キューちゃんか!?」

 老博士が愛称らしき名前を出すと、ハイネ君は黙って目を伏せた。

「行きましょう。僕がティーに手を上げられない以上、あなたの力がどうしても必要です」

「ま、待ってくれ!またキューちゃんが危険に晒されているのか!?一体誰が、何のために」

 返答の代わりにブンッ!三節棍を老人達へ向けて振り下ろす。

「どうやら答えるつもりは無いようですね。どうなさいますか、エル様?」美希さんが困惑気味に婚約者へ尋ねた。「彼はともかく、誠さんは」

「ハイネ。そのミッション、聖族政府に依頼する気は無いのかい?」

「―――ええ。ティーは僕の友達なんです。幾らエルシェンカさんでも、その頼みは聞けません」

 棍を上段に構え、臨戦体勢を取る。

「先生の命が掛かっているんです。邪魔するなら誰であろうと容赦しません」

「訳さえ話してくれたら、キュクロス・レイテッドの安全については保証する。それでもか?」

「―――これ以上、先生を異常な事件に巻き込みたくないんです。おかしいでしょうか、僕?」

「全然。二十五年前とちっとも変わってないね、君は」

 人差し指を立てる友人。

「一つだけ聞かせてくれ。あの時、半ば騙して協力させたジョウンを恨んでいるかい?」

「いいえ。むしろ感謝しています、今も勿論」

 迷い無く言い切る。

「そう言うと思ったよ、優等生君。ただ―――」

「!?ハイネ君!」

 貧血で反応が遅れた!一瞬にして私達を取り囲むように林から姿を現した、拳銃武装の政府員達。その数、約三十人。

「―――ズルいですね、大人は」

 不利な状況を冷静に確認し、ハイネ君が唇を舐めながら言った。

「発作も治まったし、撃たせるつもりは無いよ。抵抗しなければの話だけど」

 私は二人の前に立ち、繋いでいない腕を広げる。

「エル!お願い、行かせてあげて!ジプリールの事だもの、きっと今頃ティーさんは彼等よりもっと酷い目に遭っている筈だよ!」

 そこここに積まれた枯れ草の山を示しつつ説得する。

「あいつが絡んでいるなら、尚更二人でなんて行かせられないね。しかも一人は何時また暴走してもおかしくない病人だ」

「でも!」

「兄上も危険だと思うだろ?……兄上?」

「さっきから気絶してるよ。あ、大丈夫だよ兄様。ちゃんと息はしてるから」傍で介抱する弟が言った。「行っちゃうの?」

「ごめん。なるべく早く戻るから、ウィルの看病頼める?」

「OKもNOも無いじゃん。僕は不死族だから、兄様の命令には逆らえないよ」

「え?あ、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃ……」

 クスクス。

「分かってるよ。行ってらっしゃい。燐お兄さん、兄様をちゃんと守ってよね」

「自分の身体なんだぞ。たりめーだ」

「そっちの蒼いお兄さんもね」

「ええ……心配は要りません。必ず小晶さんは無事にお返しします」

 は?もしかして、ハイネ君……。

「こらオリオール。幾ら君が許可を出しても行かせやしないよ」

 友人が手を上げると、銃口が一斉に隣人へ向けられた。

「エルシェンカ様、何を!?」

 繰り広げられる急展開に、腰を抜かしたままのお父さんが叫ぶ。

「こうでもしないと彼は止められない。博士、麻酔薬の準備は?」

「出来ています。だけど、眠らせる前にキューちゃんの事を聞き出さないと」

「ああ、分かっている。流石に拘束されれば喋らざるを得ない、だろうハイネ?どうやら時間的に切迫しているようだしね」

「ええ―――だから邪魔をしないで下さいと言っているんです」

 冷静な彼もいい加減我慢の限界のようだ。発作のせいで神経が興奮しやすくなっているらしい。

 棍を水平にし、私の首元へ当てる。

「済みません、少しだけ我慢して下さい」

「はい」

 私を盾に対峙する彼に、慣れない真似は止めておきなよ、エルは呆れた風に頭を振った。

「僕等は君の味方だと言っているだろう。なのに事情を話せないぐらい信用出来ないのかい?」

「いいえ。でも説明するだけの時間も無いんです!行かせて下さい!」

「エル様、ここまで必死な彼を止めるのは」

「美希」横の秘書を見ないまま命を下す。「多少人質に当たっても構わない。総員直ちに捕縛」


 ガンッ!!「ったっ!」「きゃっ!エル様!?」


 一体何が起こったの?突然友人が前のめりに倒れ、美希さんが屈み込んで後頭部に手を当てる。


「何をボサッとしている!?早く行け!」

「フィクスさん!?」


 エル達の背後の林から出て来たシャーゼさんの手には、除草剤のホースではなく何故か拳銃があった。但し政府員の人達のより幾分大きめで、質感も違う。

「おいそれ、ジョウンが持っていたのを見た事あるぞ……」エルが後頭部を擦りながら上体を起こす。「確か玩具の空気銃だな。何処から引っ張り出してきた?」

「フン、さあな。さっきアムリの奴に手渡されただけで私は知らん」

「そんな物を握って早々人の頭にブッ放つのかい君は?」

 そこでエルは、何故か私に向かって青紫色の方の瞼でウインクした。意味が分からない私に、斑顔の奴、行けって言ってるぞ、こっそり燐さんが教えてくれた。

「とんだ危険人物だな。今月の給料は覚悟しておけよ」

「何を言っている?これは子供の遊び道具だぞ。私は偶々姉から渡され、偶々撃った先に運の悪い貴様がいた、それだけの事だ。大した怪我は無いんだろう、詩野?―――フン、ほら見ろ。咎められる事など何も無い」

「フィクスさん、何故突然あんな挑発的な事を」

 政府員やお父さん達に気付かれないよう素早く林道へ引き返しながら、ハイネ君が首を傾げる。

「知るか。心配してんのか?梃子でも信じなかったあの頑固者を」

「ええ。……やっぱり似ています、ジョウンさんと。困った人を見過ごせない所は瓜二つです」

「どーだかな。―――にしても見事に誰も俺達に気付かねえな。好都合だが却って気味悪いぜ」

 確かにそうだ。弟のオリオールでさえ二人に目線が釘付けで、私の移動に勘付いてもいないよう。そこでハイネ君が、もしかしてあれかもしれません、と囁いた。

「何ですか?」

「以前ジョウンさんが使っていた『注視の魔術』です。効果範囲内の人間は一定時間、魔術の紋様を描かれた対象から目を逸らせなくなる。但し、相反の紋様を描かれた人間を除いて」

「え?そんな紋様何処に、あ!」

 伸びやかな首筋に蒼い幾何学模様を発見すると、小晶さんは右手だと思いますよ、さっき触られた所です。言われて袖を捲ると、本当にあった。何時の間に。

「ジョウンさんは小指の先でササッと描いていたので、慣れれば五秒も掛からないみたいです」

 幾ら意識が向いてなかったとは言え、手元なのに全然気付かなかったなんて。血を失っていたせいでボーッとなったのかな。

「何でもいい。とっとと“死肉喰らい”の所まで行くぞ」

「―――ええ。まずは船着場へ行きましょう。丁度便があるといいですが……」

 歩き出したハイネ君の横顔は悲壮で、これから向かう事件の困難さを如実に表している。それでも……この素直で綺麗な声の青年を、絶対に死なせたくはなかった。




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