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二十一章 奪われた平穏



「くそ……一足遅かったか」

 自宅敷地内。カーネーションの花束が手向けられたジョウン・フィクスの墓前で、弟は青紫の半顔を歪めて呻いた。

「一体何処へ行ったんだ?まだ誠と一緒なら、街を離れてはいない筈だけど」

 プルルル。ズボンのポケットに入れた携帯が鳴り、通話ボタンを押す。

「美希かい?―――何だって!?分かった、僕等もすぐに向かう。二人にはくれぐれも無茶をしないよう言っておいて」ピッ。二人?片方は件の博士として、もう一人は誰だ?

「居場所が分かったの?」

「ああ。二人と、ついでにシャーゼも纏めてフィクス家の前だそうだ」

 立ち止まっているのも惜しいと言わんばかりに、道を知る弟が先頭を歩き始める。

「但し家内にいるアムリからの通報だと、三人は妙な集団に絡まれている真っ最中らしい」

「妙?」

「全員半草半人のコスプレをしているそうだ。差し詰めキャッツならぬプランツだね」

「何処の劇団四季だよ」思わず団体名で突っ込む。「で、一体そいつ等は何者なんだ?」

「僕に訊くなよ。でもまぁ大体予想は付く。一、寄付を貰いに来た劇団員。はい、次オリオール」

「えー僕も言うの!?うーん……あ、分かった!」

 パッと笑顔になり、ふふーん、得意気に鼻を鳴らす。

「二番、植木屋と花屋!きっと訪問販売でザイコイッセーショブンしようと企んでいるんだよ!」

「企むってお前、んな人聞きの悪い言葉何処で……つかお前等、もしそうなら取り囲むべきは家主のアムリだろ?何で通り掛かりの部外者が包囲されなきゃならない?」

「そんなの関係無いよ!あ、そうだ!インターホンを押そうとしたら、偶然もっとお金持ちっぽい兄様達が通り掛かって慌ててターゲットを変えたんだ。間違い無いね!」

「最近の押し売りは通り魔兼業かよ。大体三人共、お世辞にも医者より富豪には見えねえぞ」

 豪華絢爛に着飾った母親と違い、誠の服装は質素そのものだ。武芸者の青年も金には縁遠い雰囲気だし、第七対策委員に至ってはセールスを仕掛けただけで寿命が縮みかねない。俺だったら絶対声を掛けない面子だ。

「むー!じゃあ何だと思うの、お兄さんは?ちゃんと納得の行く仮説があるんだよね?」

「う……そりゃあ勿論、お前等よりはマトモさ」

「へー。それは是非拝聴したいね」

 弟も意地悪にプレッシャーを掛けてくる。仕方ない。慣れないが論理的に推理を組んでみるか。

「まず一体誰に用かって事だ。三人共ってのは考えにくい。共通項は性別ぐらいだしな」

 お。俺にしては中々良い滑り出しだ。 

「取り敢えずハイネの坊主は違うな。シャバムの生きてる知り合いはお前だけなんだろ?」

「多分ね。賢い子だから下手な喧嘩も買わないだろうし」

「じゃあ決まりじゃん」少年がフフン、と鼻を鳴らす。「兄様だってそんな変な格好の人達に絡まれる筋合い無いもん。キューキンドロボーめ、きっと何か余計な事言ったんだよ。兄様達を巻き込むなんて、会ったらギッタンギッタンのベッコベコにしてやる!」

「―――可能性は無くはないが、どうだろうね」

「え?」

 吠えかけた少年へ、エルは冷静な口調で説明する。

「君等が知らないのも無理ないが、あれで職務中のシャーゼは慎重な男だ。第七の疑いがあるならまだしも、単なる一般人に喧嘩を売るとは考えにくい」

「!!?」

 まさか……いや、でも有り得ない話ではない。少なくともシアターカンパニーやフラワーショップ説よりはずっと可能性が、決して認めたくないが、ある。

「兄上、何か閃いたのかい?」

 表情の変化に気付いて尋ねた弟へ、俺はある質問をぶつけた。

 

「エル。“死肉喰らい”の術に植物系はあるのか?」

「!!?しまった、僕とした事が!その可能性を真っ先に考えるべきだったのに!!」


 一番考えたくない事態だ。四天使の奴……瀕死の重傷から回復したばかりの誠を、性懲りも無く亡き者にしようとするとは!

「ちょっと待って、思い出すから―――駄目だ、済まない。正直な所、政府で把握出来ている術は“腐水”と“泥崩”……後は片手で足りる程度なんだ。ジプリールが長く聖王だったからね、情報はほぼ制限されていたと考えていい。しかしバリエーションから推測するにあってもおかしくはない」

「そうか」

 俺達が頷き合うと、間にいたオリオールが拳を握り締めて憤慨する。

「またなの……?だってたった四日前だよ!?兄様が真っ二つにされて、“都”が壊されかけてから……!!何考えてるのあの人!?」

 悔しさに歯を食い縛り、歩を進めつつ地団駄を踏む。

「しかも、皆とのお花見のすぐ後に……酷いよ!僕等に楽しむ権利なんて無いって訳!?」

 兄弟共に彼の激昂を宥めるつもりは無い。俺達も心中は全く同じだ。

(しかし、オリオールがこうしてピョンピョン跳ね回っていられるって事は、少なくともまだ“燐光”は奪われていない筈だ)

 頼む、間に合ってくれ!


「そろそろだよ二人共。オリオール、くれぐれも飛び出して行っちゃ」「きゃっ!!」「兄様!!」


 忠告は見事に無視され、少年は主でもある兄の方へ走り出す。珍しい舌打ちの後、俺の後ろからエルは続いた。




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