二十章 助太刀
「伏せろ阿呆!」
突然飛んできた怒鳴り声。反射的に膝を屈める。
ガンッ!「ゲエッ!!」
“銀鈴”を見事な跳び蹴りで吹き飛ばし、後方の家の住人は心底苛々と舌打つ。
「貴様等!私の家の庭で勝手に屯するな!!」くるっ。「お前もだ小晶!突然いなくなったと思えば、また乱痴気騒ぎを起こしおって!!」
キィ。「何、さっきから五月蝿いけど―――あ、シャーゼお帰り。今日は早かったね。ん?小晶さん達はともかく、この人達は何?」
「アムリ!早く鍵を掛けろ!」肉親の危機に珍しく焦り声を出す。「今取り込み中だ!私がいいと言うまで、絶対家から出るなよ!!」
「え?わっ!?」
湿布薬入りのラッピング袋(良かった、捨てずにいてくれたんだ)を押し付けられ、「いいな!?」目を白黒させる姉に念を押した。
「これが例のお礼?何か変な臭いするけど」
「五月蝿い、緊急事態だぞ!部外者は大人しく閉じ篭っていろ!!」
暢気に覗き込みかけた肉親を怒鳴りつける。
「あ、うん。分かった」バタン、ガチャ。バタン!「ねえ」
「何だ!?」不機嫌さ最高潮で返す。
「あのさ、政府館に電話しておこうか?家の前をコスプレ集団が占拠してるって、どう考えても緊急事態だよねこれ?」
「コスプレ、あいつ等が?女医さん凄い頭の出来だな」
わざと実弟の数十センチ横で燐さんが嘲る(勿論口は借りていないけれど)。
「ああ、頼む。エルシェンカか詩野、若しくは白鳩調査団にだぞ」
「うん。あんまり無茶したら駄目だよ。怪我したばかりだし」バタ、バタン!「それとシャーゼ。ちゃんと小晶さんを守るのよ?」
「う、五月蝿い!!さっさと連絡しろ!!!」
弟の赤面を見つつ、取り敢えずこれは部屋まで運んでおくね、アムリさんは今度こそ自宅へ閉じ篭ってくれた。敵の狙いはあくまで私だ。これでひとまず危険は無いだろう。
「小晶さん、もしかしてこの人が」
「ええ……」
父の仇を討つため政府員となった、ハイネ君の天敵。
「―――似ています」
「何をヒソヒソ話しているお前等!まずは状況を説明しろ!」
「俺ヲ元ニ戻ゼ!!」
「外野は黙ってろ!!」
ガンッ!手加減無しの蹴りが男性のお腹に突き刺さる。衝撃にブチブチッ!服の上の蔦数本が千切れた。暗器も付いていないのに凄い威力だ、と感心した数秒後。
ポロッ。傷口から白い物が零れ落ち、ころころ……私達の足元へ転がってきた。
「何だ、このニンニクは?」
「鈴蘭だから球根、でしょうか?」
「返ゼ!ゾレバ俺ノ」
直径五センチ程しかない小さな命の源から、凝縮された悲哀を強く感じ取る。間違い無い。これが、
「フン。そう言う事か」
私の変化でいち早く勘付いた第七対策委員は、踵で勢い良く丸い球根を踏み付けた。
グシャッ!!「ギャアアアッッッッ!!!」
崩れ落ち悶絶する男性に、彼は冷笑を浮かべる。
「痛いか、植物人間の分際で。人の庭で暴れ回った罰だ」
グリグリグリ……塊が擦り潰されるに従って、“銀鈴”と男性の肉体が急速に茶色く枯れていく。眼球が失われて暗い眼窩が現れたかと思うと、その空間すら顔全体が萎れて消滅する。
「これで終わりだ」
グシャッ。爪先に力が籠もり、遂に仮初めの命は完全なペーストと化した。
「アアアァァァァァ……!!」パサッ、パサッ……。
崩壊した遺体は、しかし人の形を欠片も残してはいなかった。どう見てもただの枯れ草の山……。
「酷い……」
「嘆くのは後です!ジョウンさん、早く殲滅しましょう!!」
「!?私は父ではない!!」
「あ……す、済みません」
「まぁいい。遅れるなよ小僧!」
そう言って腰の剣を抜き左へ。ハイネ君は三節棍を掲げて右を。足手纏いの私(と空の重箱)を守る陣形だ。
「小晶さん、僕達から絶対に離れないで下さい」
「はい」
流石に二度目の不注意は赦されない。大きく頷いて気を引き締めた。
「殺ジダナ!」「殺人犯バ死刑ダ!」「ゴイヅラモ殺ゼ!!」




