十章 白鳩調査団第一回会合
翌朝。
「おはよう三人共」
執務室で先に待っていた三人へ、昼近くだけど私は朝の挨拶をした。
「よう誠、退院おめでと。義父さんもな」
「寝てる間に見舞い来たんだって?ありがと」
歩み寄るケルフにポンポン肩を叩かれ、ウィルは満更でもない表情を浮かべた。その右手には花模様の風呂敷。中身は手作り桜餅の入った重箱だ。
「おはよう。―――あれお姉さん、大丈夫?」
オルテカで会った時より、アイザは明らかに体調を崩していた。ソファに横になった彼女を、夢療法士の卵さんが診察している。
「あぁ……ごめん。ちょっと船酔いしただけだから……」
「そうなの、リーズ?」
にしては症状が重過ぎる気がする。
「酔っているのは確かだけど、正直よく分からないの。誠君、診てくれる?」
「うん」
両手で力の抜けた大きな右手を包み、深呼吸して氣を探る。
(何でだろう……?凄く、弱くなってる……)
なるべく浸透しやすいように氣を練って流し込むも、前より反応が鈍い。一体、原因は何……?
「はぁっ!……ありがと、誠。大分楽になったよ」
それでも友人はどうにか息を吹き返してくれた。上半身を起こし、手を私の頭の上へ。
「本当に?」
撫でられつつも、不安は大きくなるばかりだ。
「うん。吐き気も治まったし、もうすっかり平気」
肩をグルグル回すアイザは、しかしまだ呼吸が不規則。到底万全の体調ではない。
ドアが開き、美希さんが白い紙袋を持って入って来た。
「遅くなって済みません。病院で吐き止めを貰って来ました。アルカツォネにも効いてくれるといいのですが……あ、皆さん。もういらしてたんですね」
「ありがとう詩野さん」
リーズに水入りコップを手渡され、アイザは早速袋の中の錠剤を飲み下した。
「迷惑掛けてごめんね。エルはどうしたんだい?」
「定期会議が終わり次第いらっしゃるそうです。では揃いましたし、そろそろ御案内しますね。会場は政府館の裏です」
私はソファの反対側にあった三段のお弁当箱に手を伸ばし、傾けないよう気を付けながら包みの藍色の風呂敷ごと持ち上げた。
「いいって誠!それアタシの」
「大丈夫、そんなに重くないから。具合が悪いのに作ってきてくれてありがとう」
「あ……ううん。それ、全部四が準備してくれたの。昨日電話があってから、店にも出られないぐらい調子悪くなっちゃって……ね」
「おじさんが?あんまり料理する風には見えないけど」
中身を警戒するオリオールに、友人はクスッと笑った。
「心配しなくていいよ、中身は普通のお握りと卵焼きだから。幾ら料理が下手でも、その二つじゃそうそう不味くはならないでしょ?って言うか四、普通にアタシが風邪引いた時は肉じゃがとか作ってくれるし」
「へー、意外。何でも出来るんだねおじさん」
「まぁ、ね」
家族を褒められ、彼女の頬に熱とは違う赤みが差す。
合計七人の大所帯で階段を降り、玄関から靴に履き替えて政府館の外へ出た。
「わあ……!」
ピンクの花を全身に纏った樹が、整然と左右に数十本立ち並ぶ道。既にそこここではシートを広げ、笑顔でお弁当を食べる老若男女の姿があった。
「おー!こりゃ見事な桜並木だなー!」ケルフが感嘆の声を上げる。
「白鳩調査団の場所はもう少し奥です。行きましょう」
“黒の星”の“闇桜”とは色の違う花弁がはらはら舞う中。二リットルはある大きなコーヒーポット片手に、美希さんが先頭を歩いて案内してくれる。
五分後、幹に『白鳩』と書かれた張り紙の樹へ到着。そこは丁度小高い丘になっていて、眼下の桜道を一望出来る絶好のスポットだった。
「もしかしてここ、一番良い場所ですか?いいんですか、私達が座っても」
バスケットを持ったリーズがそう尋ねるのも無理無いと思う。それぐらい景色は最高だった。
「構いませんよ。エル様が聖王代理権限で確保されたんです。どうぞゆっくり寛いで下さいね」
「じゃあシート敷くぞ。ケルフはそっち。オリオールは向こう引っ張れ」
「ラジャー」「OK」
アイザの荷物を持った私を除く男三人で芝生に白いビニールシートを広げ、四隅に重し代わりの石を設置する。
「よし、これでまず飛ばないだろ。皆、待たせたな。座って荷物降ろしてくれ」
「うん」
私達は靴を脱ぎ、シート中央に料理を置く。七人が腰を下ろしてもまだ充分広く、めいめい自由に脚を伸ばした。
「リーズとケルフは何を作ったの?」
「ふふ、見る?」
パカッ。バスケットの中の白い二段重ねのお弁当箱を取り出し、おかずを一つずつ説明してくれる。
「山菜の串焼き、プチトマト、生ハムのアスパラ巻き。こっちは野菜マリネ、鶏の唐揚、チーズ乗せミニハンバーグが入っているよ。二人で作るの、結構大変だったんだから」
「わあ、美味しそうだね。私達は桜餅を用意してきたんだよ。ウィル」
「ああ」
漆塗りの黒い重箱を開けると、桜の葉っぱ特有の匂いが鼻腔をくすぐった。移動の際に傾いたのか、端の何個かはちょっと潰れている。
「へー、凄く美味しそう」
幾分元気になったアイザが覗き込む。甘いデザートの登場に他の皆も興味津々だ。
「あ、ところで美希さん。昨日のプレゼント、シャーゼさんはもう取りに来ましたか?」
問いに、秘書は首を横へと振った。
「いえ、午前中はいらっしゃいませんでした。一応、何時見かけても渡せるよう持って来てはいますが」
コーヒーポットの隣に置いたピンクのラッピング袋を示す。
「今から私が届けに行ってきましょうか?今日も病院にいるんですか?」
「恐らくは。―――そう、ですね。エル様の会議が終わるまで、後三十分は掛かるでしょうから……分かりました、お願いします」
「何なら誠、ここへ連れて来なよ。あいつ塞いでいるんでしょ?」
「そうだね。シャーゼさん、お兄ちゃんみたいにパッパッと気分転換出来る得な性格じゃないから」
「褒め言葉どうも、マイシスター」
皮肉を言いつつも、ま、もうすぐ詩野さんが頼んだ出前も来るし、料理は充分足りてるみたいだぞ、賛同の意を表した。
「あ、うん。じゃあ誘ってみるね」袋を受け取りつつ頷く。
「キューキンドロボーが乗るとは思えないけどね。お兄さんも行こうよ」
「そうだな」




