序章 幼天使の夢
口を開けても息が吸えない……苦しい……。
「ぁ……さん……!」
ベッドサイドの小瓶、その中身の白い錠剤を取ろうと身を起こす。
ドスンッ!
「がぁ……っ……!」
激苦。心臓、肺……内臓全てが潰れそうだ。
フローリングの床に這い蹲りながら、何とか手を伸ばして足掻く。意識は酷く朦朧とし、短い間隔で気絶と覚醒を繰り返した。
「ん、ぁ……?」
口腔内に流れ込む冷たさと、咽喉奥を固形物が通過する一瞬の不快感。
黒髪の幼児は大きな目を一杯に開き、不安そうに俺を見ていた。小さな手に対し、大き過ぎるガラスコップを握り締めて。
再び出会った子供は、矢張り誠そっくりだった。だが……何故だろう?現実と同じ澄み切った黒曜の瞳を覗いていると、精神の底の方で厭な感触の何かが蠢く。忌むべき存在である筈がないのに。
この夢は何だ?単なる俺の願望?それとも……“魔女”の呼んでいた、『ウィルネスト』としての記憶なのか?
「どうして……?」
小首を傾げられた。質問の意味が解らないようだ。
「どうして『また』来たんだ?もう夜中の二時だぞ。母親が心配しているだろう?」
夢の俺はいやにつっけんどんな口調で言う。命の危機を助けられて嬉しいくせに、全く。素直じゃないな、自分で言うのも何だが。
寝そべったまま、コップを持つ両手に自分のを重ねる。
「今日も薬が効いて寝るまでいるつもりか?ほら、下行って片付けてこよう。絵本読んでやるから」
「……!」
提案に、小天使は満面の笑みで喜んだ。