青春Dream
久々の投稿。
ISの方も書かないとな・・・
『今日、夏の高校生野球大会の県内予選決勝が行われました。試合は稀に見る接戦を制し、東海高校が全国大会の出場権を得ました。』
今、夕方のニュースで今日の試合についてやっている。俺は、自分の部屋にあるソファーに腰を下ろしてそれを見ている。あの昼の接戦がこの数分にまとめられるのを見るとどこか悲しくなってくる。
勝負を決めた最後の一球の感触はまだ手に残っている。あの時投げなれる最高の球、そう言える好感触だったが、バットに当たった音を聞いて絶望した。それは練習で何回も聞いたバットの芯がボールを捉える物だったからだ。案の定、球はどんどん小さくなっていきスタンドへと吸い込まれていった。一点差で勝っていた所でのサヨナラツーラン、さすがに打たれたときは目の前が真っ暗になった。
でも、泣いても笑ってもあれが最後の大会である。三年生の俺にとって、後に残っていることは大学受験である。現実と言うのは残酷で、傷ついている時間はないのだ。
「拓也、晩御飯出来たわよ。」
「わかった。今行くよ、母さん」
俺はテレビの電源を切ってリビングへと向かった。
「ねえ、拓也。」
御飯のとき、母さんが話しかけてきた。
「なんだい、母さん。」
「野球はこれからも続けるの?」
いきなり痛い所を突かれる。俺が野球を始めた理由は、父親が高校の頃に甲子園を怪我で出れなかった意思を継いでというのものだ。自分自身野球は嫌いではなかったのだから良かったのだが、大学やプロまで続けるかというと微妙のラインである。
「母さんはね、野球を本気で続けたいというなら応援したいわ。でも、そうじゃないと言うなら出来るだけ安定した仕事についてほしいと思うんだけど。それとも、何かやりたいことがあるの?」
「・・・具体的なものは無いかな」
「だとしたら、今のうちから勉強はちゃんとしなさいよ。後でやりたいことが見つかったとき役に立つからね。」
「・・・わかったよ。」
言われた事を考えながら食べていたので、あまり食事の味は分からなかった。手早く食べてすぐに席を立ち、その日は早く寝た。
次の日になり、いつも通りの道を通って学校へ向かう。いつもなら、この時間一緒に学校へ向かっている翔が見当たらない。翔は高校に入って一番最初に出来た友達である。部活が同じということもあって、今では竹馬の友とも言える親友だ。ちょっとしたことでカッとなってしまうがとても良いやつだ。あいつは高校野球にみんな以上に思い入れがあった。負けた次の日とあっては来ることが出来ないのだろう。俺は心の隅で翔の事を心配しながら校門を潜った。
「おっす、拓也。おっはー」
教室に入ると、友人の一人である久美が話をかけてきた。久美は活発で運動系の女子である。試合の次の日でありながらいつも通りのテンションで話しかけて来る所は、若干の空気の読めなさがにじみ出ている。
「おいおい、何暗い顔してるんだよ。」
久美は俺の肩を組んできながら問いかける。異性でありながら肩を組まれても驚かないのは、こいつの日頃の行動のお陰だろう。誉めてはいない。
「・・・昨日、親に少し痛い所を突かれてな。」
「何だ、てっきり昨日の試合で落ち込んでるんだと思ったが違うのか・・・」
「なぐさめてくれようとしていたのか?」
「いや。」
当然のように否定された。一体何のために話しかけたのだろう。
「私にそんなことが思いつくわけ無いだろう?」
「それは絶対に自信満々に言うことではないぞ。」
朝のHRの時間が迫ってきてみんなが席に着き始めたため、俺らも席についた。
すると、その少し後にドアが開いて翔が入ってきた。てっきり今日は休みだと思っていたのだが大丈夫なのだろうか。
翔は少しを俺の方を見た後、席に着いた。少し見えた目はちょっと充血していた。前の席替えで離れてしまったため、すぐに確認出来ないこの配置が憎かった。
「おはよー、朝のHR始めるよー」
気楽な声と共に入ってきたのは担任である清水先生だ。俺らの学年と一緒にこの高校に来た先生である。まだ新人の部類の先生だが、日頃の取っつきやすさとやるときはやるところが人気の良い先生である。
「今日は少し連絡がありまーす。今からプリントを回すのでそれを見てください。」
一番最後の席の人にプリントを回してから、内容を読む。そこには志望校アンケートと書いてあった。
「見てわかると思いますが大学の志望校アンケートです。第三希望までしっかり書いてくださいね。今度の二者懇談に使うので今週の金曜日までに出してください。連絡はこれで終わり。日直ー」
「気をつけ―礼。」
こうして朝のHRは手元に厄介なものを残して終わった。
「おい、翔。大丈夫なのか?」
HRが終わり、アンケートという悪魔を机の上に置いて急いで翔の席へと駆け寄る。
「大丈夫ってなんだよ。俺なんだから大丈夫に決まってるだろ。」
そう嘯く翔はいつもよりも若干声が弱々しかった。やはり昨日の今日ではショックは消えていないのだろう。
「おい、そんな無理しないで・・・」
「そんなことよりもよ、拓也は志望校どうするんだ?」
喋っている俺の声に割り込んで質問してきたのは、先程のアンケートについてだった。少し驚きながらもそれを声に出さないように話す。
「別に、まだ決めてないけど・・・お前はどうなんだよ。」
「俺は東明大にしようと思ってる。」
その言葉にはとても強い意思が感じられた。東明大とは県外の大学でなかなかの野球の名門校である。近くで野球をやると言ったらそこになるだろう。
つまり、翔は野球を大学までも続けると言うことだ。
「なあ、行きたいところが決まってないならさ、東明大でまた野球やらないか?」
「・・・」
俺は翔の誘いにすぐに答えられず、予礼が鳴ったのでそれを理由に誤魔化してそこを去った。
翔はしっかり前を向いてやりたいことを頑張ろうとしている。それに比べて俺は何かに本気で打ち込んだということない。一体何の差なのだろうと考えていたら、答えは出ないまま時間割りは消費されていった。
放課後になり、翔と一緒に帰ると進路の話になりそうな気がしたので、本屋に寄ると言って先に帰って貰った。少し遠回りとなる帰り道の途中、そういえば今日出張に行っていた父が帰ってくる日だということを思い出した。父は試合に結果は知っているが話すのはあの試合以来初めてである。なんと言われるのだろうと思いながら少し重くなった足取りを進めた。
家に着いた時にはもう父の車は車庫に収まっていた。
「ただいまー。」
「おう、帰ったか。」
無精髭を少し生やした父はリビングでノンアルコールのビールを飲んでいた。
「ほら、バックとか置いてこい。その後話をしよう。」
「分かった。」
普段着に着替えて、父と正面になるように座る。先程は一本だった空き缶は二つに増えていた。
「惜しかったなー最後の一球。まあお前はちゃんと投げれてたよ。」
「甲子園行けなくてゴメン・・・」
「やっぱり気にしてたか・・・」
頭を掻きながら話す父の顔は少し申し訳ない顔をしていた。
「確かにお前には俺の夢を押し付けちまったからな、謝るのはこっちだよ。俺の都合で振り回してすまなかったな。」
父の口から出た言葉は予想外で驚いてしまった。父がこんなこと言うのは初めての事だからだ。
「いきなりどうしたの、父さん。」
「何だかな、今になってお前を縛ってたんじゃないかと感じてな。だからこそお前、大学は好きなところにいって楽しんでくれ。サポートは精一杯するつもりだ。何かしたいことは決まってるのか?」
またこの質問か、と心の中で思いながら「ないよ」と言った。
「そうか、しょうがないな。最近まで野球やってたんだからな。じゃあ見つかり次第言ってくれよ。」
父の言葉はサポートしてくれる安心よりもプレッシャーの方が大きかった。
進路の話をしてから何だか翔と話すのが億劫になってしまっていた。学校に行く時間も前よりも速くし、休み時間も他のやつと話していた。そして、進路アンケートの提出を明日に控えた日の昼休み、俺は屋上で母親が作ってくれた弁当を食べていた。
「お、いたいた。隣良いよな?」
そう言って座ったのは久美だった。
「どうしたんだ、久美。お前が教室以外で昼飯なんて珍しい。」
「いやいや、親友が悩んでいるようだったから放っておけなくね。」
ほらあたし姉御肌だから、と言う久美の優しさは何だかむずかゆかった。少し恥ずかしがっている久美の顔もひとつの原因だろう。
「・・・じゃあ、ひとつ質問良いか?」
「おう、何でもどんとこい!」
「お前は高校卒業してからどうするんだ?」
久美は決して良い成績ではない。言うなら中の下か下の上だろう。勉強でいくと言う感じもしないしやはりスポーツでいくのだろうか。
「あたし?あたしは就職するつもりだよ。」
「え。お前大学いかないのか?今の時代、大学出じゃないと就職も大変だぞ。」
「大丈夫だよ。あたしがなりたいのは大工だからな。」
驚きすぎて声が出なかった。予想の斜め上以上を行く答えに唖然とするしかなかった。
「おいおい、そんなに驚くことないだろう。あたしだって傷つくんだぞ。」
「でも・・・何で大工になろうと思ったんだ?」
「あーそれはな、前の連休の時にうちの家増築したの覚えてるか?その時に近くで大工の仕事ってのを初めて直で見たんだよな。そしたら大工の仕事の凄さに気がついてさ。意外と細かい知恵とか技術が必要でありながら、豪快なトンカチの動きとかさ、気が付いたら見入ってたんだよ。そしたらあたしもやりたいって思えてさ、それで高校出たら弟子入りすることにしたんだよ。女子だからって諦める気はないぜ。」
「・・・」
自分の夢について語っている久美は物凄く大きく見え、何だかとても遠くにいってしまった気がした。
結局久美の話を聞いても自分の夢は見つけることはできなかった。むしろ近くにいた二人に急に引き離された感覚に囚われていた。進路アンケートには自分の学力とほぼ同じ学校を第一希望にし、東明大は一番最後に申し訳なさげに書いといた。
そして今日は二者懇談の最終日、俺は二者懇談を控えていた。そろそろかなと思ったら丁度前の人が終わったので教室に入る。
「よろしくお願いします。」
「お、次は拓也だな。まあ座れ。」
清水先生は俺のアンケートを読んで、少し考えている。そして先生が口を開いて出した言葉は
「お前、本当にこの学校に行きたいの?」
だった。驚きはどうやら顔に出てたようで先生はやっぱりか、と納得していた。
「実は久美と翔からお前が悩んでいることは聞いててな。どうせあれだろ、夢追っかけてる二人見てどうすれば良いのか悩んでたんだろ。」
心を読まれているのではないかという位見透かされていて少し背筋が寒くなった。
「お前みたいなやつは結構いてさ、みんな良い仕事に就くことを最終目標にするんだよな。俺は私は安定した職業だから夢を追いかけていったやつより凄いって思うらしいんだよね。」
確かに俺はなりたいものがないから公務員をいつの間にか就くことを考えていた。凄いとまではいかないけれど追い付けるかと思って。
「でも、それは大きな間違いだね。そんなやつに夢追っかけてるやつは越せないよ。仕事ってのはな優劣なんてもんはないんだよ。言うなれば仕事ごとに道があってそこを進んでく感じだな。進路が違うものを比べられるわけないわな。後、仕事にはそれぞれにエキスパートってのがいるもんだ。そのエキスパートってのは『輝いてる』んだよな。それは花屋だろうが八百屋だろうが関係なく、どんな仕事でもな。そんな輝いてる人と普通の政治家、どっちが上かって言ったら輝いてる方だろうよ。仕事の良さはいかにその道を極めるか、それが答えだと私は思ってるんだ。どんなことだって良いんだよ、全部それぞれに良いところがあるんだから。
と、持論を述べてみたけど、何かお前の足しになると良いな。じゃあアンケートはまた回収するからちょっと考えてみな。」
そう言っている清水先生は輝いてるように見えた。
俺の中にすでに迷いはなかった。先程の話で俺にもやりたいことが決まったのだ。
家に帰り、俺は親に伝えた。
「俺、教師目指すよ。」
五年後
一年校舎の廊下、真新しいスーツの男性とラフな格好をした女性が歩いている。
「まさか教え子と一緒に教師やるとは思わなかった。嬉しいこと限りなしだね。」
「あの時の先生の言葉に感動して教師になろうと決めたんですよ。」
「誉めてもなにもでないぞ。さあ、担当の1ー1についたぞ。」
そう言って先に清水先生が中に入る。
「はい、みんな静かに。今日は副担任の人が来ます。入って。」
俺はその呼び掛けに応じ、ドアから教室に入り教壇に立った。
「じゃあ自己紹介を。」
「どうも、桐島拓也です。これから一年間よろしくお願いします。」
どうだったでしょうか。
こういうのは初めてなので良くわかりませんがこんなもんでいいのかな?
少しでも楽しめて頂けたなら幸いです。
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