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いっしょに暮らそっ! (転)

作者: 月野真昼

 今俺は病気にかかっている、いわゆる恋の病というやつだ。意中の相手はバカ兄貴の親友にして俺の同居人。しかし、彼女は兄貴の事を好きなのだ。けれども兄貴に女である事を隠して、兄貴と接しているため思いを告げることが出来ずにいる・・・・・・。

 

 昨日の昼、俺は男らしさをアピールするために意中の相手、つまりは翼さんを昼食に誘った。しかし結局は、翼さんが家のバカ兄貴を好きだと言う事を、確認する事にしかならなかったのだ。

「ジーザス!!」

 俺、二宮虎次は叫んだ。もちろん心の中で。大学に入るまでの18年間、俺は真面目に生きてきた。あんなバカ兄貴に負けていいはずが無い。絶対に翼さんを振り向かせてやるんだと、心に誓った。

 けれども、翼さんの兄貴を見つめる目や表情、仕草なんかを思い出すたびに兄貴に劣っている様な錯覚に陥る。そして、俺をあざ笑うかのような兄貴の顔が浮かぶ。

「わははははははははははは」

 ちくしょう、耳障りな笑い声まで聞こえてくる。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 なんて事だ、直ぐ隣で笑っている様なリアルさだぜ・・・・・・。

「ぎゃははは、ごほっごほ、うぇ」

 幻覚の兄貴は笑いすぎて、俺に唾を飛ばしながらむせっている。

 

「本物かよ!!」

「どうした、我が弟よ。まるで俺の幻覚を見ていたみたいな顔をして」

 気がつくと、気味の悪い笑みを浮べている兄貴が目の前に居た。

「どうした、考え事でもしてたのか?悩むのは体に良くないぞ、さぁお兄さんに話してみなさい」

 兄貴は仁王立ちをして胸を大きく反らしている。

「いくら兄弟だからって、人の家に勝手に上がるなよな。チャイムくらい鳴らせよ!」

 俺はアパートを追い出され、翼さんの家に居候させてもらっている事も忘れて怒鳴った。

「ごめん、実は虎次君の歓迎会をしようと思って竜一も呼んじゃった」

と、そこへ翼さんが現れる。

「人数が多いほうが楽しいかと思ったんだけど・・・・・・、駄目だったかな?」

 翼さんが拝む様にして俺を見つめてくる。

「いえ、そんなとんでもない!」

 俺は慌てて返事をした。翼さんが呼んだなら仕方が無い・・・・・・。まだ不満は富士山の頂の如く高く積み上げられていたが、ぐっと我慢した。

「それじゃあ、急いで夕飯の支度するからテレビでも見ててね」

 そう言うと、買い物袋を持ってキッチンへと消えていく翼さん。慌てて追いかける俺。

 翼さんの背中を追いかけながらチラリと兄貴を見やる。海岸で日光浴でもしているトドの様に、ゴロンと床に転がってテレビにかじりついていた。我ながら、こんな怠け者が恋敵だと思うと、情けなくてしょうがなくなってきた。


 キッチンでは翼さんが、器用に包丁をさばいている。

「虎次君、主役は君なんだから、リビングで待っててよ」

 経験則からか、兄貴には間違われなかった。

「翼さん、君は無しでお願いしますよぉ。俺ももう子供じゃ無いんですから」

 翼さんとの距離を縮めたい。俺はそんな思いから呼び捨てで呼ぶようにお願いしていた。

「それじゃあ、俺のことも翼さんじゃなくて、翼ってよんでよ。と、ら、じ、く、ん」

 翼さんは手を止めて振り向き、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「――いやぁ、呼び捨てには出来ないですよぉ」

 翼さんの改心の笑顔に眩暈を覚えたが、ギリギリの所で踏みとどまる。

「じゃあ、虎次君は虎次君のままだねぇ」

 軽く微笑むと翼さんはまた料理に向き直る。

 俺はというと、お皿や材料を出したり、洗い物をしたりと獅子奮迅の活躍を見せた、ハズ・・・・・・。



「「「カンパーイ!!!」」」

「これからも、よろしくな我が弟よ!」

「虎次君、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてね」

「はい!翼さんありがとうございます。兄貴とは、縁を切りたいくらいだよ・・・・・・」


 兄貴は、人が一生懸命作った料理だというのに、何の遠慮も無く胃袋へと料理を収めていった。

「んー、やっぱり翼が作った料理は最高だなぁ。いつ食べても美味しいよ」

「ありがとう、竜一。そう言ってもらえると作ったかいがあるかな」

 俺はコイツが食べ物と名のつくものを残したところを見たことが無かったが、あえて言うとはしなかった。恋する乙女モードの翼さんに水を差しても俺が悪者になるだけだしな。

「こら、バカ兄貴。俺の分まで食べるんじゃない」

「お前の物は俺のもの、俺のものは俺のもの。だろ!」

「だろ!じゃないよ。お前は、ジャイOンか!」

 翼さんは翼さんで、俺と兄貴のてんやわんやの大騒ぎを見て笑いっぱなし。俺達三人はそれぞれ三者三様に楽しんでいた。


 時間がたち、アルコールが進んでほろ酔いになった翼さんが、思いがけない一言を発した。

「家に虎次君が来てくれて、本当に良かったなぁ。今まで以上に楽しいよ」

 俺はその言葉に込められている意味の全部を知る事は出来ないが、まんざら悪い気分ではなかった。けれども、翼さんの秘密を知っている俺としては、翼さんを好きな俺としては、無条件で喜ぶ事は出来なかった。

「良かったなぁ、虎次。俺もお前のような良き弟を持てて幸せだぞぅ」

 天性の詐欺師のような男がよく言うよ。兄貴はもっともらしくうなずいて見せるが、俺は心の中で毒づいていた。

「それじゃあもっと楽しくなるように今度の日曜日、皆で遊園地に行かないか?もちろん言いだしっぺの俺のオゴリだ」


「「えー!!」」

 驚きのあまり俺と翼さんは顔を見合わせた。人にたかることしか頭に無いような、ぐうたらの兄貴が気前よくお金を出すなんて考えられない・・・・・・。これはきっと何かある、そう俺の本能は告げていた。けれども翼さんと一緒に遊園地へ行けるという誘惑には勝てずに承諾した。翼さんも怪しさを感じつつ、しかし断わる理由は無いようで一緒に遊園地に行く事になった。



 そして、日曜日の朝に不安は現実のものになった。翼さんと俺とで遊園地に着いた時、先にきているはずの兄貴が居なかったのである。携帯もつながらず、兄貴と連絡すら取れなくなった。

 開演直前の遊園地の前で、俺と翼さん暫く途方にくれていた。


 つたない文章で本当に申し訳ないです。次は春野天使さんです。どうかよろしくお願いします。

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