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『真夜中の蝶』

作者: 白燕

こんにちは、白燕です。

公式企画…というかイベント初参加です(^^;


まだまだ未熟な物書きですが皆様にちょっとした納涼をお届けできればと思います。



それでは

吹き消された蝋燭に火が灯る。

真夏の熱帯夜、集まった人々の目は輝き、そして前の語り部に送られていた拍手が終わった。


さぁ、語ろう。百鬼集帖の物語を



  公式企画 百鬼集帖 参加作品





    『真夜中の蝶』





 人は皆、いつの時代も恐怖を求めている。それが俺の持論だ。俺はとある町の学校に通う高校生。町自体は特別大きくはないから噂話は案外と早く学生達に伝播する。


 俺が主に取り扱うのは俗に言う『都市伝説』。現代の怪談であり、また現代の妖怪達の伝説である。かつては『口裂け女』を筆頭に無数のデマやアレンジを加えた粗悪な噂が出回った。これらは現代人の恐怖を求めるが故の結果だろう。

現に、今のこの時代に口裂け女の名を聞いたことのない人はどれほどの物か……。想像するのは容易ではない。

だが、今日聞いたのは初めて聞いたものだった。そう、月夜に舞う黒い蝶の話だ。



         △「ねぇ知ってる?『真夜中の蝶』!」

「知らね」

昼間の学校で俺はクラスの噂好きの女子に捕まった。

「真夜中に出る不思議な蝶なんだって!私の友達の友達の友達の妹の友達が見たって!」


 実は都市伝説にはルールがある。まずは1つ目。都市伝説は他人からの情報であること。

そして聞いた人が無限に続けられること。


つまりこの場合、『妹の友人』が会話の鎖を無限に引き延ばす材料であるのだ。


俺は興味を持ち、話を聞いた。


「真夜中にね、こう…ふわふわ~っと浮かぶ蝶らしいの!『アオスジアゲハ』みたいだけど羽の模様が透けてるみたいでサイズは少し大きめ。そして、見ると……」

「見ると?」

「死んじゃうんだってぇぇぇ!」

「そうか。」

俺は予想通りで安心した。

都市伝説ルールその2つ目。具体的、かつ一部は抽象的に。3つ目。目撃者は死亡、または失踪するオチがあること


「見に行く?」

「当たり前だ」


そして4つ目。興味を引き、楽しめるものだということだ………そして、『俺達』は今町外れの山のふもとにやってきていた。

何故俺だけでなくこの女までついてきたのかは聞かないでほしい。全身の打撲が痛む。

「噂だと、丑の刻によく出るんだって」

 隣で地図とコンパスを懐中電灯で照らしながら女が言った。彼女の胸元には一眼レフのカメラとデジタルカメラが揺れていた。(いわ)く片方がダメなときの対策らしい。予め対策を打たれるとはカメラが故障するという不思議現象もさぞ涙目だろう…。


「友達の友達の友達の妹の友達が言うにはこの山の山小屋で出るらしいよ」

「場所までわかってるのかよ」

なんと驚くべき事にこの都市伝説は場所の指定まであった。トイレの花子さんのような事例があるので一切前例がないわけではないが……比較的珍しい話だった。

俺は懐に隠していたナイフを取り出し、そして…

「ほら、先頭行きなさい」

コイツ後で置き去りにしてやる。

山道は草と蔦に覆われており、左右の木々は葛の蔦に絡めとられていた。それはまるで山に入った者を絡めとる亡者の指にも見えて一瞬だけ背中を冷たいものが走った。

「…ふん。っていうか、山小屋はまだかよ」

「たぶん…もうちょい?」

「それ……迷ったフラグか?」

「違うわよ!ほらっ!」

女が指差すと、暗闇に薄ぼんやりと輪郭だけが確認できる建物が見えた。こんな低い位置にあるので山小屋とは言えないかもしれないが少なくともこの町の住人には『山小屋』で通じるので問題はないだろう。

大体の住人は子供時代に探検に来て、帰りに遭難し、泣きながら警察に保護される。という一連のステップを踏んでいるので……俺も数年ぶりにやってきた。最近は学校でも『ここ』に行くことは禁止している。それだからこそ都市伝説の舞台として利用されたのだろう。

詳しい地理は分かり、最近はあまり近寄るものがいない。まさに舞台には最適だろう。


 ザクザクと草を踏み分けて随分と貧相になった道を歩き、山小屋の裏手に出た。この建物は長年の風雨の影響か木造の壁はたわみ、そして苔に侵食されていた。下方など地面がせりあがっているのかと錯覚するほど苔が密集していた。

窓には明かりはなく、四方5m程度の建物を回り込むようにして正面に移動した。やはりこちらも苔と風雨に晒された影響が酷く、ボロボロだった。錆びた取っ手の扉を揺さぶるとガコガコと数回揺らしたら鍵が外れて内側に入ることができた。

随分といい加減な鍵だと思えば引っかけに金属の棒を落とすだけの鍵でそれ自体も錆びて半分くらいまでしか入らない状態だった。

「人の出入りは割と簡単だな。誰か最近来たのかもしれないな」

「ドキドキするわ!」

「話聞けよ。」

「いざ、中へ!」

彼女は一人建物の中に入って行った…。


「うわっ埃くさっ!」

「ちょっと!部屋の中ぐちゃぐちゃじゃないのよー。ちゃんとかたしなさいよ」

「あぁ~もぅ、ムカデがぁぁぁ!」


山小屋の中で派手に騒いだ後

「ただいま。」

彼女は不機嫌そうに山小屋から出てきた。頭には埃が薄く積もり、右手に鎌を装備していた。

「話聞けと……ん?その鎌どうした?」

彼女は笑って、言った。

「なんかスッゴい使いたい…のっ!」

鎌が俺の眼前を切り裂いた。反射的に半歩下がったお陰で直撃は避けたが…切られたような錯覚が不気味に残った。

「おい!ふざけるな!」

「あははっ♪」

第二撃を回避し、俺は女の腕を掴み、昔学校で習った柔道を思い出しながら…投げた。女の体は地面に叩きつけられて鎌が手から離れた。カランカランと小石にぶつかって鎌は(やぶ)の中に消えた。

俺は女の腕を背中に回し、捻りあげた。

「いたたたた!痛いって!やめなさいっ!」

「人を殺そうとして何を……」

その時、森の異変に気付いた。何かがいる。人の視線だ!

「誰だ!」

返事はない。当たり前だ。逆に答えられたら頭がおかしくなりそうになる。

ひらりひらりと森から何かが飛んで来た。真っ黒な紙…いや、蝶が飛んで来た…。

「マジかよ」

蝶は俺の手にとまると羽を擦らせ、しばらくしたら羽を開いたり閉じたりした。この蝶は体色が黒。だが、明かりなしでもその黒がよく分かる。あえていうのなら……闇、か。

「放して…」

下から泣きそうな声が聞こえた。そういえば全力で捻りあげたままだった。だが、また襲われては意味がない。しばらくは身動きせずにいよう



………闇の中の視線はまだ外れていない。何者かは分からないが……おそらく人間ではないだろう。

幽霊か、亡霊か、怨霊か…。額を冷や汗が流れる。

「―――――」

何か囁くような声が聞こえた。

よく聞こえないが、人の声だ。耳を澄ますとほんの僅かに聞き取れた。

「―て――け」

俺の下で女が小さな悲鳴をあげた。

直後、森から銀色の閃光が走り、俺の右肩をかすめた


「なん…だ…」

振り替えると、山小屋に先ほどの鎌が突き刺さっていた。

「ヤバい!逃げるぞ!」

「わ、わかってる!」

俺は女の腕を解き放ち、山小屋の裏手へ逃げた。女も数歩遅れてついてきた。

「ねぇ、逃げられる?」

「『蝶を見たら殺される』。か…ははは、案外リアルだったんだな」

「笑い事じゃないわよ!…って来たぁ!」

進行方向先、前方から何かが飛んで来た!

俺たちは左右に別れて回避すると背後でした金属音に寒気を覚えつつ全力疾走を続けた。

足下の草が絡まって走りにくい。おまけに、道は湿っていて気を抜いたら滑りそうだった。短い坂を駆け上がり、朽ち果てた木を見つけて飛び込んだ!



 ………。



木の内側は空洞で、立ち枯れした木だがまだなんとか壁には使えた。俺達は乱れた息を整えながら向かい合い、これからの相談をする。

「どーすんだよ…。逃げ切れるか?」

「とりあえず、ごめん」

「それは何に対してだ?」

「あの噂でこんな目にあってる、って言うのとさっき鎌できりかかったこと…合わせてごめん」

何故今なのか。そう聞きたかったが

「なんであんなことを…」

口が勝手に呟いていた。


「……信じてもらえないかもしれないけど、頭の中がぼんやりして…体が勝手に動いたの」

彼女は思い出して小さく震えた。確かに勝手に動いたのならばそれは想像を絶する恐怖だろう。

「…まぁいい。まずは山を抜ける。走れるか?」

俺は振り返り、蝶を頭にのせた女を見つめた。いつの間にこの蝶は現れた?!

「走れ!」

俺は女の手を引いて森へ走り出した。ここに来るまでに俺はナイフで道を作ってきていた。足下は獣道のような道だったが走るのには丁度良い硬さだった。

俺は走り、時折滑りそうになりながら山を駆けた。

女が途中で足を滑らせて転んだ。土に汚れた彼女を助け起こすとき、ヒタヒタと足音がした。


俺達は二人とも靴を履いている。足音の理由がわからない。

いや、わかる。あの足音は俺達を追ってきているのだ。山小屋からずっと。ずっとだ。

ヒタヒタという足音が夜の闇に響いて、俺は女が立ち上がりきる前に走っていた!

心臓は恐怖と不安でしめつけられたように鳴動していて足元はおぼつかない。頭に浮かぶのはただ一言。逃げろ。

俺は女が叫ぶのを聞いて地面に伏せた


頭上を何かがかすめた。


「いっ…たぁ…」

女が肩を押さえていた。彼女の腕から鮮血が流れていてとても見てはいられなかった

「ボサッとしてるな!」

「待って!……何か、来るよ!」

 俺が前を見ると、闇が嵐のように吹き荒れた。いや、闇よりも暗い羽に青白い模様。あの蝶だった。『見たら死ぬ』蝶が何百羽と群れて俺達を包み込んだ

「くそっ…」

蝶の体当たりは意外にも強烈で前に一歩として進むことができなかった……そして

「あっ……」

女と俺の手が離れ……………そし……て………………………



俺は、翌朝山に入った老人に発見された。山の木に背中を預け、黒い蝶を撫でていた……らしい。


 俺には、蝶に巻かれた後の記憶がない。だが、女の姿はそれ以降見ることはなかった。

あの夜、あの時を境に彼女は行方不明になってしまった。俺が連れて行ったから…彼女は消えた。町の老人達は「天狗に拐われた」と言い、学生には「真夜中の蝶を見ると天狗に拐われる」という噂話が追加された。週刊紙はいい加減な噂話を大きく掲げ、大昔の異常な事件を組み合わせてまた新たな噂を量産していた。


「『異常者の奇行?!平和な町の神隠し!』…か」馬鹿馬鹿しい。



なぁ、そうだろう?



俺の背後に立つ気配…それは間違いなく彼女の気配だった。どうやら俺はあの夜におかしくなったらしい

「―――いで」

四六時中頭の中でアイツの声が響くんだ

「おいて――いで」

あぁうるさい。わかったよ、わかった

「置いてかないで―」





その夜、俺はもう一度山へ向かった―――


山は深く、暗かった。俺は懐中電灯のわずかな明かりで前を照らしつつ獣道を歩いた。不思議なことに足が勝手に動いて迷うことも立ち止まることもなく俺は山小屋にたどり着いた。

ひらりひらりと一匹の蝶がやってきて肩に止まって羽を休めるようにおとなしくなった。俺は山小屋の戸を乱暴に揺さぶってこじ開けた。中に入る。



山小屋の内部は物置だった。埃臭く、乱雑な物置の中には鎌や鋏、桑や草刈り機といった農作業用の道具が押し込まれていて、そのうちの一本の鎌に俺は引き寄せられた。 そう、昨夜何度も飛んできた鎌がここにあったのだ。

俺はその鎌に手を伸ばし………


「―――。――」



俺は動きを止めた。


(誰だ?誰がこんな場所に…)


振り返ると、少女がいた。ただ、この世界の住人ではなさそうだったが。


「―――――、―――」


「何だよ、何か言いたいのか?」


「――、―――。――」


「聴こえねぇよ」


俺は鎌を握り、半円を描くように少女に振り降ろした。


「――。」


その鎌を見ることもせずに少女は受け止めた。そして、黒い嵐が小屋の中に飛び込んできた。


「せっかく、見逃してあげたのに」


「あなたが、私の邪魔をする。だから」


「いいよね。」


俺の肩の蝶が闇に向かって羽を広げた…。いや、闇ではない。闇よりも黒い、見たら死ぬ呪いの蝶。


『真夜中の蝶』……翌日。



とあるテレビ番組より



「本日未明、『山小屋』と呼ばれる小屋の中で男女の遺体が発見されました。」


「男性が女性の手を握るように倒れており、病院で死亡が確認されました。」


「それでは現場より中継です―――」


世界とは複数が折り重なっている。誰もが知る世界、そして誰も知らない世界。そして、誰もが知っていて知らない世界。

日常生活と非日常の中間に都市伝説は蔓延する。時には日常を蝕み、時には非日常を露見させる。


人は好奇心で生きている。だからこそ時に興味本位で首を突っ込む。それが手遅れになる前に引き返すことも大切だよ?


でないと………。

いかがでしたでしょうか。

楽しんで戴けたら幸い、怖がって戴けたら本望です(笑)



さてさて、今回の物語の中心は『都市伝説』。口裂け女とか、コックリさんとかああいった物から着想しましたが…案外難しかったです。だいたい予定通り進むと言う『白燕的には大事件』をやり、若干驚きました。はい。


ちなみに舞台は『だいろくかいい!』と同じく『桃花市』ですが、あくまでイメージなので具体的な地名や建物はあまり使用しませんでした。

でもそれである程度のリアルひな形は作れたと思います。



そして今回は人名が一切ありません

「べ、別に手を抜いた訳じゃないんだからねっ!」



こほん。

それではまたいつかお会いしましょう

(=△=)ノシ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改行がうまくできていること [気になる点] http://www.raitonoveru.jp/ ↑を参考に [一言] 改行後の字下げ  改行したら次の行は、一文字空白を入れて書き始めまし…
[一言] 小説を拝見させて頂きました。 「好奇心は猫をも殺す」ですね、分かります。 質問、何故山小屋の中に農具が有るのだろう?
[一言] 作者さんは、作品を発表する前に、まず小説の書き方を調べてはどうでしょうか?
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