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◯◯にいます

作者: 震えザール
掲載日:2026/02/19

最近知り合った工学部のやつに昼飯を食わないかと誘われた。

食堂で知り合ったそいつは主に情報系を扱っているらしく、専門外の私の研究を非常に楽しそうに聞いてくれた。私にとってもプログラミングなどを教えてくれる彼の話はとても興味深かった。


待ち合わせ場所の研究室に着くと、私がスイッチをつけずとも電気が点いた。人感センサーなどを採用しているのだろうか?

中にやつの姿は見当たらず、机の脇に荷物が置いてあるだけだった。離席中のようだ。仕方がないので荷物のある席の隣に座る。

ふと彼の席にあるデスクトップパソコンを見ると、真っ白な画面には残していったと思われる書き置きが表示されている。


『西キャンパス5号館5-203教室にいます』


トイレかなにかだと思っていたが、まだ来るには時間がかかりそうだ。指導教授の講義の手伝いでもしているのだろう。長くなりそうだしSNSでも見て待つか。


私が着いてから10分ほどが経った頃、研究室のドアが開き、彼と教授が入ってきた。


「おお、もう来てたのか。じゃあ教授、僕はご飯食べてきます」


そう言うと、自分の席に座る。


「5号館まで教授の手伝いでもしてきたのか?」


「まあそんな感じ。なんで僕が5号館にいるって分かったの?」


「パソコンに書き置きがあったじゃないか」


私がパソコンを指差すとエラーなのか画面には既に何も表示されておらず、真っ白なだけだった。彼はパソコンを見て思い出したかのように言う。


「ああ、そういえばそうだったね。まあ手伝いってほどじゃないんだけどちょっと行ってきたんだ」


研究室所属なんてそんなものかと納得し、二人で学食へ昼飯を食べに向かった。


ーーーーー


数日後、私は約束だったデータ解析ツールの使い方を聞くために研究室へと向かった。やつからは購買に行っていて遅れると聞いていたため、暇つぶしに読みかけの本を持つ。


研究室に着くと、前と同じ場所に彼の荷物が置いてあり、机の上には書き置きがまた残されている。


『西キャンパス2号館2-301教室にいます』


購買とは別の場所が書かれていた。私は少し戸惑ったが、何かの用事のついでで購買に寄ったのだろうと深く考えずに隣の席に着いて本を開く。


2ページほど読み進めた頃、彼が研究室に戻ってくる。手にはチョコレートなどいくつか甘いお菓子を持っていた。その中の一つを渡してきながら彼は言う。


「待たせたね。それ食べていいよ。準備するからもう少し本読んでて」


そう言って席に着くと、パソコンを操作し始める。私は荷物からメモとペンを取り出し、準備ができた彼からツールの使い方を学んだ。


ーーーーー


やつとは何度か飯や交流を重ねたが、研究室へ行くとやつはしばしば不在で、机には毎回書き置きが残されていた。記入場所から戻ることもあれば、別の場所に行っていたと思われる時もあった。概ね昼前には書き置き通りの場所に行っているらしい。教授の講義がその時間帯にあるのだろう。


ーーーーー

初めて出会ってから半年以上が経過した。またも昼飯に呼び出され、研究室へと向かう。


研究室に入ると電気が消えている。こんなことは初めてだ。もちろんやつは見当たらない。

暗闇の中、いつもの席のパソコンだけが白く光っている。書き置きがまた残されているのだろうと画面を覗くと、そこには短い文字があった。


『ここにいます』


その文字を見て私は研究室内を探すが、どこにもやつはいない。奥の教員室を覗くが部屋が暗いせいかうまく見つけられなかった。とにかく電気を点けようと思ったが、いつも勝手に点くためスイッチの位置が分からない。


電気のスイッチを探していると、後ろでパソコンのファンが回り始める音がした。振り返ると、机の上にある全てのパソコンが起動し始めていた。

電源のついたパソコンの画面は白く、一様に同じ文字を浮かばせている。


『ここにもいます』


その光景に私は身動きが取れなくなってしまった。何が起きているんだ?ここには一体なに(・・)がいるんだ?

身じろぎ一つできないでいると、急に明かりがつく。驚いてドアの方を見ると、やつが不思議そうな顔をして立っていた。手にはリモコンを持っている。


「あれ?君いたのか。センサー調子悪いって教授に言わなきゃな」


そう言って室内に入ってきたやつを見て、私は問いただした。


「おい、説明してくれ。あの書き置きはなんなんだ?お前のいる場所を示しているんじゃないのか?それに今…」


私が言いかけると、彼は少し悩んだように額に手を当てたため思わず言葉が止まる。少しの間考え込んでいたようだが、まあいいか、と呟くと教員室の方を指差した。


「事情を話した方が都合いいし、一緒に教授のとこまで来てくれる?」


そう言って歩き始めたやつの後ろを私は黙って着いていく。とりあえずは何が起きているか事情が分かりそうだ。

教員室のドアをノックして中に入ると、本棚に囲まれた部屋の奥で、チェックシャツの男がパソコンを操作している。


「教授、なんか電気のセンサーが調子悪いみたいなんで後で見てください」


「そうか。ん?後ろの女は誰だ?」


「前に言った僕の友達です。動物の行動を研究してるので今やってる研究に繋がるんじゃないかなと。説明してもいいですか?」


「そいつがか。まあ教えてもいいだろう。俺も聞いてみたいことがいくつかあるしな」


教授の言葉を聞いて彼は説明を始める。


「今、教授からの指示で人工知能、AIの開発を行っていてね。テーマは「知識欲によって自ら行動する人工知能」なんだ。今は人間が学習させた内容をもとに色々なことをさせているけど、自分で学んでくれたら学習の手間が一気に省けるんじゃないかと思ったんだ。そいつにはとにかく色々なデータを集めるように指示してこのキャンパスのネットワークにリベレート、つまり放流させたんだよね」


そこまで聞いて私は待ったをかける。


「それは他人のパソコンから情報を抜き取っているってことか?」


「基本的にはそう。でもアクセスできるのは学校共有のパソコンだけ。僕達でもアクセスできるようなパソコンにプライベートなデータを入れるやつはいないし、教授たちのパソコンには入り込まないよう制限をかけてる。でもネットワークにリベレートしたってことがバレたら今みたいに100%良くは思われないだろうね。だからこのことは他の人には内緒にして欲しいんだ」


私の質問にそう返すと説明を続ける。


「特に問題のない情報を集めていると言っても、自由にさせている以上何も起きないように色々な制限を設けているんだ。教授のパソコンにアクセスできないようにするのもそうだし、学外に出ないようにしたりとか、データを勝手に消したり増やしたりもしないようにしてる」


「自己複製の禁止もだ。増殖されたら大変なことになる」


「教授の言うとおりだね。反乱できないようにそうやって制限してるんだ。そして同行を逐一見張るために、僕の席のパソコンに人工知能と紐付けてどのパソコンに入ってるか知らせるアプリを入れたんだ。「10号館3階実験室にいます」とか「隣のパソコンにいます」みたいに表示させたり、USBに入れたら表示しないようにしたりとか。これが君の言ってる書き置きだね」


ようやくあの書き置きの意味が分かった。こいつ行く先ではなく移動しているAIの現在居場所を表示していたのか。


「ここからが本題なんだけど、僕らは定期的に成果を確認するために人工知能を捕まえに行っているんだ。その過程で居場所を通知するようにしたんだけどなかなか難しくてね。最低滞在時間を設けたりとか工夫はしてるんだけど、実験結果に影響が出たりして困ってたんだ。だから君に協力してもらえればなにかヒントになるかもと思って事情を話しているわけさ」


「そういうことだったのか。特に害がないなら協力してもいい」


そう言うと教授が喋りかけてくる。


「なら今から質問に答えてもらうぞ。脇にある椅子を使うといい。机の上にある茶菓子は好きに食べていいぞ」


教授は椅子に座った私を見ると引き出しから何枚ものレポート用紙を取り出し、私への質問が始まった。


ーーーーー


2時間ほどの質問攻めが終わった後、外に出ると陽は沈んでいた。私の知識でどれだけ役に立ったのかわからないが、彼らは知りたいことが知れたようで今から考えを練り直すらしい。

私は大きく伸びをすると、暗くなった大学を一瞥して帰路についた。

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