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和風異世界物語~綴り歌~  作者: ここば


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煙の向こう、久遠ならざる声

篝火の煙が、夜気の中へゆらゆらと溶けていった。

幽淵の兵たちは退却の号を上げ、闇の向こうへと散っていく。

焦げた木の匂いと、戦いの余韻だけが里の空気に残った。


荒れた地面に落ちた刀を拾い上げながら、陽路は息を吐いた。

折れた刀身の先端が、土に突き刺さったまま鈍く光っている。


「……ふぅ、なんとか持ちこたえたな。」

奏多が苦笑交じりに言う。

陽路は頷きながら、その手から折れた刃を抜き取った。


「今回は妙だった。数も力も、今までの比じゃなかった。あいつら……しっかり統率が取れてた。」

「俺も感じた。攻めの間が妙に噛み合ってた。あれは偶然じゃねぇ。」


二人の会話に、駆けつけてきた煌志たち三人が合流する。

彼らの衣には土と血の跡が残り、額に光る汗が篝火の灯りを反射していた。


「無事か?」

煌志が短く問うと、奏多が頷いた。

「なんとか堪えました。しかし、陽路の刀がやられました。打ち直しの必要がありそうです。」

「そうか……後で詳しく見よう。」


煌志は周囲を確認し、倒れた兵たちが運ばれていくのを見届けてから、静かに言った。

「……封じた言霊を見せてくれ。」


悠理が頷き、腰から詞鏡を取り出す。遥花も鉄扇を閉じ、袖の中から同じく詞鏡を取り出す。

「これが今回封じた詞鏡です。」


煌志は札を一枚ずつ確かめるように見つめた。

そこに宿る気配は、どれも微妙に異質だった。

また、表記も久遠の文字には見えない。

遥花が小さく眉を寄せた。

「何か……違いますね。」


「ああ。久遠の里で封じられた言霊とは違う。」

悠理が呟くと、煌志が短く頷いた。


「煌志、華灯の里で封じたこれも見てくれ。」

悠理は懐からもう一枚の札を取り出した。


煌志はそれを手に取り、低く言葉を落とす。

「確かに……久遠のものではないな。」


言葉の意味を、全員がすぐに理解した。

今までの襲撃と言霊の暴走――それらが偶発ではないこと。

何者かが意図的に、久遠の外から言霊を持ち込み、暴走させている。


「やっぱりそうか……。だが、なんのために?」

陽路の問いに、誰もすぐには答えられなかった。


沈黙の中、夜風が篝火を揺らす。

火の粉が舞い上がり、消えていくたびに、緊張が一層際立った。


「目的はまだ見えない。だが、放ってはおけん。」

煌志が静かに言う。

「このことはすぐに天響へ報せる。使い魔を飛ばせば明朝には届くだろう。」


悠理が頷く。

「それと……悠真の里の伊吹にも知らせよう。あいつなら、言霊の性質から何か掴めるかもしれない。」

「賛成だ。伊吹は外の言霊もよく観察していた。知恵を借りる価値はある。」


全員の意見がまとまり、念の為、それぞれが分担して詞鏡を懐に収めた。

そして深く息を吐くと、ようやくわずかに緊張を解いた。


「……とりあえず、今夜はここまでだ。兵の確認が済み次第、各自休め。」


その言葉に皆が頷き、戻る準備をする中、奏多から預かった折れた刀を見つめて煌志がぽつりと呟いた。

「……陽路。この刀、もう駄目みたいだ。」


陽路が目をやると、刀身の根元まで深く亀裂が走っている。

「確かに……完全に逝ってますね。」


「せっかくだ。いっそ一から作り直すのはどうだ?」

 煌志の何気ない提案に、陽路が目を瞬いた。


「新しく、ですか……?」

「お前の戦い方なら、刀も少し形を変えた方がいい。蒼篠の里なら、古式の鍛法を今も受け継いでる。頼めば、良いものが手に入るはずだ。」


悠理もその案に頷く。


陽路は折れた刀を見つめ、静かに呟いた。

「……分かりました。今の私にふさわしい刀を作ってもらいます。」


こうして、新たな刀を手にするために次なる行き先は、蒼篠の里と決まった。


夜はなお深く、しかし空の向こうにはわずかな黎明の兆しが見え始めていた。


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