表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

黒い影②

――黒い影が、木々の間を疾風のように駆け抜けた。

刃の煌めきが陽路の頬をかすめる。即座に対応し、火花を散らしながら受け止める。


「くっ……! まさか、こんな場所で仕掛けてくるとは!」

陽路は歯を食いしばりながら、敵の連撃を受け流す。

その背後では、遥花が必死に息を呑んで立ち尽くしていた。


敵は二人。気配を消すように間合いを詰めてくる。

一撃一撃が重く、明らかにただの野盗ではない。


「遥花様!」

陽路の声と同時に、風を切る音――。もう一人の敵が、迂回して遥花へ刃を向けていた。


振り返った瞬間、白刃が迫る。

避けるには遅い――!


だが、その時。

敵の動きが不自然に止まった。背筋を走る寒気のような気配。

やがて二人は互いに視線を交わし、迷うことなく霧のように姿を掻き消した。


残されたのは、張り詰めた空気と、土に散らばった数枚の落葉だけ。


「……逃げた?」

遥花が震える声で問いかける。

陽路は剣を握ったまま、しばらく敵が消えた方角を睨みつけた。


「いや、違う……これは撤退の合図だ。」

剣先を下げ、陽路がつぶやく。

安堵と同時に、守り切れなかったかもしれないという恐怖が胸を締め付けた。


同じ頃、森の奥。

霧の帳の中に戻った部下たちが、膝をつき主に問いかけた。


「影風様、なぜ撤退を?」


影風は背を向けたまま、遠くを見ていた。

その横顔に浮かぶのは、冷徹とも、懐かしさともつかぬ微笑。


「……十分だ。俺の目的は果たされた。」


部下が息を呑む。

「目的、とは……。」


答えは返ってこない。ただ、彼の視線だけが静かに森の奥を貫いていた。


「遥花様――。」

その名を胸の奥で呟き、意味深な笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ