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和風異世界物語~綴り歌~  作者: ここば


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彼の行動の理由

しばらくして、横になっていた陽路が小さくうめき声をあげた。

「……っ、ここは……。」

瞼を開けると、隣に座っていた遥花がぱっと表情を明るくする。

「陽路!よかった……目を覚ましたのね。」


その様子に安堵の息をつく悠理と燈子。陽路はまだ体の節々に痛みを覚えていたが、意識ははっきりしていた。


「せっかくだから、この場でお話ししておこうか。」

白い髪を揺らし、燈子が真っ赤な瞳を細めてにっこりと笑う。

「まずは自己紹介だね。私は華灯の里の綴る者、燈子とうこだよ。」


遥花は小さく頷きながらも、どうしても胸に引っかかっている疑問を口にした。

「じゃあ……あの人は誰なの? さっきの……颯牙って呼ばれてた人。」


燈子は肩をすくめるようにして答える。

「彼の名前は颯牙そうが。同じく綴る者だよ。久遠にいる十人の綴る者の中でも、一、二を争う実力者だ。だから、そこにいる悠理と恭弥きょうや、そして颯牙は、久遠の外の国に派遣され、言霊を封じている。」


「一、二を争う実力……」

遥花はさきほどの圧倒的な一撃を思い出し、自然と背筋が震える。陽路も、奥歯をかみしめながら黙って聞いていた。


燈子はそこで一息つき、表情を引き締めた。

「――でも、なんで彼がここにいるのか。それは、颯牙の従者である紫苑に説明してもらおう。」


促され、片腕の袖をきゅっと結んだ紫苑が前に進み出た。声は凛としているが、その奥には悔しさの色がにじんでいた。


「颯牙様と私は、幽淵の地へ言霊を封じるために派遣されました。いくつかは無事に封じられましたが……ある一つ、大きく暴走した言霊の封印に挑んだ際、禍ツ者に遭遇したのです。彼らも、暴走した言霊を狙っていたのでしょう。戦闘となり……」


紫苑はわずかに唇を震わせ、片腕を押さえる。

「不甲斐ない私は、その戦いで腕を切り落とされました。その瞬間、颯牙様は言霊の封印を断念し、私を背負って逃走――久遠に戻られたのです。」


紫苑の言葉を受けて、場に重い沈黙が落ちた。

その中で、悠理が口を開く。低く、しかしよく通る声だった。


「……国境に一番近い篝火の里から、使い獣で報告を受けた天響の里には、ちょうど任務を終えた俺と薫がいた。颯牙は任務の途中で従者が負傷したため、代わりを用意して欲しいとの要請だった。だから、薫を派遣することにしたんだ。」


「薫……?」遥花が首を傾げると、悠理は短くうなずく。

「薫は俺の従者だ。久遠の外での任務経験も豊富だし、何より冷静で信頼できる。颯牙に随伴させても問題はないと判断した。」


そこで、悠理は鋭い眼差しを燈子に向ける。

「それで落ち合う場所に選ばれたのが、篝火と天響の中間にあるこの華灯の里だった。だが――来てみればどうだ。訳の分からぬ求婚などを……」


最後の言葉は、珍しく苛立ちを隠そうともしなかった。

遥花は胸の奥がざわつき、陽路は思わず「……っ」と息を呑む。


静かな間が訪れる。

その空気を破るように、紫苑が口を開いた。


「颯牙様のご両親は、共に綴る者。そして家系も代々綴る者であり、颯牙様に強い詞脈が宿ることを心から願われていました。その願い通り、颯牙様は非常に強大な詞脈をお持ちです。」

紫苑の声音は、凛としていながらもどこか自責の念を含んでいた。


「また、颯牙様のご家系は――より強き詞脈を持った子孫を産み、後世に残すことが久遠の発展につながる、という思想をお持ちです。そのため、綴る者同士の婚姻は当然と考えておられます。……さらに今回の任務で、私の不手際により颯牙様に命の危険を感じる経験をさせてしまいました。そのせいで、"早く子孫を残さねば"という思いが一層強まったのだと思います。そんな中で遥花様と再会されたことが、あのような突飛な求婚に繋がったのではないかと……。」


重く落ちる紫苑の言葉に、一同は沈黙する。

すると、燈子がぽつりと笑みを浮かべながら口を開いた。


「なるほどねー。この国の女性の綴る者は、三人。つまり、彼からしたら私は紛い物だし、結芽は恭弥の許嫁。……だから颯牙が狙う相手は、遥花ってわけか。」


「えっ……結芽に、許嫁……?」

遥花は思わず声を上げた。

その胸に大きな驚きと興味が広がった。


燈子は肩をすくめると、わざと軽い調子で答える。

「そうそう。結芽は恭弥の許嫁なんだよ。まぁ、家同士が決めたことだから本人たちがどう思ってるかは別問題だけどね。」


「……恭弥、って……」

遥花が小さく呟くと、燈子はすぐに補足を続けた。


「恭弥も久遠の外で活動してる綴る者だよ。あの人、見た目は穏やかで物腰も柔らかいけど…ふふ。まあ、外の国の任務経験も豊富で、悠理に劣らない実力を持ってる。」

燈子は指を立てて説明を重ねる。


「で、その恭弥の婚約者が結芽。瑞穂の綴る者で、遥花も知ってるよね。久遠としても、恭弥と結芽が結ばれることで強い詞脈を後世に残せる、って思惑があるんだろうね。」


「……そうだったんだ、全然知らなかった……。」


燈子はにこりと笑みを浮かべ、遥花を覗き込むようにして言った。

「知らないのも無理ないよ。遥花は"記憶を失ってる"んだもん。……でもね、これからは嫌でも耳に入ると思う。だって綴る者は久遠を支える柱。その婚姻一つだって、国全体の未来に繋がるんだから。」


その言葉に遥花は息を呑み、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。



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