次の目的地②
夕暮れの稽古場、遥花・陽路・楓・伊吹の四人は、囲炉裏を囲むように腰を下ろしていた。
次に向かうべき里の相談が始まる。
「次は……位置的には蒼篠の里か、真澄の里、あとは華灯の里かな?」と陽路。
伊吹は頬杖をつき、目を細める。
「俺は華灯推しだな。あそこは陽気な連中ばかりで、観光気分も味わえる。楽しいぞ?」
「伊吹様はいつも遊ぶことしか考えてません!」楓が即座にツッコミを入れる。
「でも、確かに華灯の里はよい選択かもしれません。遥花様は鉄扇を扱うので舞を学ぶのが一番だと思います。」と楓も頷く。
すると、伊吹が片肘をついて口を開いた。
「ふむ。舞はただの芸ではない。戦いの中で呼吸を整え、詞脈を調える技でもある。鉄扇と組み合わせれば、攻めにも守りにもなるだろうな。」
遥花は目を瞬かせた。
「……舞に、そんな意味が?」
「あるさ。華灯の綴る者なら、きっと喜んで教えてくれるだろう。」
陽路が尋ねる。
「華灯の綴る者様は、気さくなお方なのですか?」
伊吹は面白そうに笑った。
「華灯の綴る者の家は、元々は旅芸人の一座だったんだ。笛や太鼓、舞や語りで日銭を稼ぎながらあちこちを渡り歩いてな。父も母も、兄も姉も弟も妹も……全員が芸の道を生きている。まあ、今は華灯の里に腰を落ち着けているようだが、血がそうさせるのか、すぐにどこかへ出かけていく。」
「旅芸人の家系から、綴る者が?」
遥花が首を傾げる。
「そう。代々はただの芸人だったんだが、気が向くと従者や語る者も引き受け、綴る者や祀る者、祈る者と接する機会が多くてな。ある代で突如、強い詞脈を持つ子供が生まれた。その子だけが綴る者としての道を歩むことになったわけだ。」
「その人はどんな方なの?」
続けて遥花が尋ねる。
伊吹は肩をすくめ、薄く笑った。
「本人は……まあ、あっけらかんとしてて、つかみどころがない性格だな。大勢の前で舞うのも封じを行うのも、同じ調子で軽々とやってのける。底が知れんというやつだ。」
「従者は?」
「面白いぞ。家族がその時々で入れ替わり立ち替わり務めているんだ。兄が従者をする時もあれば、姉が剣を持つ時もある。弟や妹が後ろを守ることもあったな。血のつながりで成り立つ従者というのは珍しいだろう?」
遥花は目を丸くして、ふわりと笑った。
「なんだか賑やかそうで、楽しそう。」
伊吹は頷き、少し悪戯っぽい目で二人を見た。
「だろう? 華灯の里は他のどの里よりも華やかで、人の心を掴む術に長けている。……お前の鉄扇も、そこで本領を発揮するだろうな。」
全員がうなずき、翌日の出発を決めようとしたそのとき――。
「まあまあ、焦るなって。あと一週間はここにいな。」
伊吹がにやりと笑う。
「え? どうして?」遥花は首を傾げる。
「損はさせないさ。」それ以上は語らず、けたけた笑うだけだった。




