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和風異世界物語~綴り歌~  作者: ここば


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33/88

終了後

観客の喝采が鳴りやまぬまま、陽路と楓は武器を収め、深く息をついた。


「……はぁ、すごい動きだったな、楓殿。」

「そっちこそ……一歩も引かないなんて、驚いたわ。」


互いに笑みを交わしつつも、まだ熱が残っているような眼差し。

だが、その余韻を吹き飛ばしたのは、やはり観客の「伊吹様ぁーっ!」の声援だった。


楓がむっとして振り返る。

「もう! 伊吹様のせいで、勝敗がうやむやになったじゃないですか!」


伊吹は涼しい顔で欠伸をし、本を片手に言った。

「別にいいだろう? 君らの実力は十分伝わったし、俺が華を持っていったおかげで盛り上がったんだから」


「はあ!? そんな理屈あります!?」

「あるんだよ~。」

「むぅぅ……!」


ぷんすか怒る楓。その頬がほんのり赤いのを、誰も突っ込まなかった。

――いや、陽路は気づいたかもしれない。だが彼は視線をそっと逸らした。


控室に戻ると、長老や見習いたちが待っていた。

「二人とも見事だったぞ。互角の勝負、久遠の未来は明るい。」

「はい……ありがとうございます。」


楓は深々と頭を下げ、陽路も緊張をにじませながら応じた。

観客からも見習いたちからも「すごかった!」と称賛が飛び交い、二人は照れながら答える。


伊吹はその中でひとり椅子に腰かけ、つまらなそうに爪をいじっていたが――

「……まあ、遥花も陽路も、随分よくなったな。楓の指導が良かったんだろ。」

ぼそりと呟いたその言葉に、楓が「伊吹様……」と小さく目を見開く。


だが次の瞬間、伊吹は再び大欠伸。

「さて、俺は眠いからもう帰る。」

「ちょっと! 最後まで責任持ってください!」

楓の怒鳴り声に、場が和む。


夜。大会を終え、宿舎へ戻る途中。

「陽路、お疲れさま」

「遥花……ありがとな。……俺、楓殿に一歩も引かなかったって、そう言えるよな?」


遥花はくすっと笑い、頷いた。

「もちろん。すごく格好よかった。楓さんとあそこまで渡り合えるなんて。」


陽路は耳まで赤くなり、頭をかいた。

「……いや、まだまだだよ。でも……嬉しい。」


遥花は少し間を置いて、柔らかい声で続けた。

「ただ、私にとっては……戦いの陽路も、普段の陽路も、同じくらい大事。だから無理はしないでね。」


その一言に、陽路の胸がきゅっと熱くなった。

彼女の言葉は、自分を従者としてだけでなく――ひとりの人間として気遣ってくれているように思えて。


「……ありがとう、遥花。遥花のためなら、俺、もっと強くなりたい。」


無意識に出た言葉に、遥花は目を瞬かせる。

陽路は慌てて顔を背けた。

「な、なんでもない! ほら、早く戻らないと!」


遥花はその背を見つめ、ふっと笑った。



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