武比べ①
訓練場は朝から活気に満ちていた。
広場の中央には武具が整えられ、見習い従者や戦闘員たちが列を成す。緊張と高揚の入り混じった空気が、肌を刺すように伝わってくる。
「これより、武比べを始める!」
楓の張りのある声が場内に響いた。
観客席には、悠真の長老と数人の役職者たち。
そしてその中で一際目立たぬ姿で腰を下ろしているのは伊吹だった。
膝の上には書物。だが、目線はしっかりと訓練場へ注がれている。
「ふむふむ……どんな風に動くのか、実に興味深いな。」
ぼそりと呟き、隣の戦闘員に「伊吹様、静かに。」と注意されると、肩をすくめてみせた。
最初に呼ばれたのは見習い従者同士の組み合わせ。
鋭い剣戟が響くたび、歓声が沸き、熱が増していく。
続いて――
「次は、遥花様と悠真の見習い従者・千景!」
「えっ、私……!」
驚く遥花の背を、陽路が軽く押した。
「大丈夫。これまでやってきたことを信じて。」
千景は黒髪をひとつに結んだ女性で、槍の使い手。
相手の動きをよく見る瞳が印象的だった。
「よろしくお願いします、遥花様。」
「……はい!」
鉄扇を構える手に汗が滲む。
次の組は陽路。
対戦相手は戦闘員候補の男子・迅。
大柄な体躯に双刀を携え、迫力ある気迫を放っていた。
「やっと手合わせできるな、天響の従者!」
「……望むところだ。」
陽路の刀に迷いはない。
さらに後半には――
「次は、楓対仁科と巴!」
呼ばれた瞬間、見習いたちからどよめきが起こる。
「え、楓さんも出るの……?」
遥花が呟くと、陽路が頷いた。
「従者として誰よりも鍛え抜かれてるからな。彼女は、この里の模範だ。」
楓の対戦相手は、最上位の見習い二人同時。
「……私でよければ、お手合わせを。」
楓の瞳は真剣そのもの。
観客席で伊吹がにやりと笑った。
「おお、これは楽しみだ。さて、どんな研究材料になるかな。」
遥花の初戦:対 千景(槍)
鉄扇を握る手が少し震えていた。
対する千景は長槍を構え、落ち着いた面持ちで遥花を見据えている。
「失礼します!」
鋭い突きが一閃。
遥花はとっさに身を翻し、鉄扇で槍の穂先を払った。
衝撃が手に響き、バランスを崩しそうになる。
(速い……! けど、諦められない!)
遥花は足を踏み込み、鉄扇を横に振って相手の間合いを詰める。
しかし千景の反応は早かった。槍を引き、横薙ぎで迎撃。
扇と槍が激しくぶつかり合い、観客席から歓声が上がる。
「おお、頑張ってるじゃないか。実に面白い!」
伊吹が声を上げ、楓に「伊吹様、静かに!」と小突かれる。
試合は接戦に見えたが、徐々に千景は押し込まれていく。
最後は、鉄扇の穂先が千景の首筋すれすれで止まった。
「勝負あり!」
審判の声に、遥花は肩で息をしながらも笑みを浮かべる。
「ありがとうございました……!」
千景が深く頭を下げた。




