陽路との出会い
石畳の道を進んでいた遥花の耳に、カツン、カツンと音が聞こえてきた。
その音の方向へ歩みを進めていくと、霧の中から影が現れ、ぱっと形を結ぶ。
現れたのは、自分と同じくらいの年の少年だった。動くたびに揺れる黄金色の髪の様子は、たわわに実った稲穂を彷彿とさせる。
彼は白い装束に身を包み、額には汗がにじんでいる。どうやら木刀を手に、ひとり稽古をしていたらしい。
「えっ……?」
驚きに目を見開いた少年は、しばらく遥花を凝視していた。
「まさか……そんな!」
木刀を取り落とし、慌てて拾い直す。
遥花は訳が分からず、思わず一歩後ずさる。
「す、すみません!」
少年は深く頭を下げた。
「私は陽路。あなたにいつかお仕えするため、ここで鍛錬を続けてきました。でも……まさか、今日お姿を現されるなんて……!」
その声は震えていたが、瞳は真っ直ぐに輝いている。
遥花は戸惑いながらも問いかける。
「私に……お仕えする?」
陽路は胸に手を当てて、真剣な面持ちで答えた。
「はい。あなたは――“綴る者”。僕は、その力を支え、守るために選ばれた従者です。」
霧の向こうに響くその言葉に、遥花の心は強く揺さぶられていた。