鍛錬
悠真の里の奥、土を固めた広い訓練場。
朝露の残る空気の中、木剣と鉄扇が軽くぶつかる音が響いていた。
「ほら、もっと腰を落として! 腕だけじゃなく、全身で受けるんです!」
楓の声は鋭いが、的確で無駄がない。
遥花は鉄扇を構え、必死に楓の斬撃を受け止めていた。
その横で陽路は刀を握りしめ、別の相手と組んでいる。彼の額には汗がにじんでいるが、動きはどこか迷いなく整い始めていた。
少し離れた木陰。
伊吹は書物を胸に広げ、寝転がるようにしてページをめくっていた。
「……ふむ。瑞穂での揺らぎ、やっぱり言霊の流れが特殊だったか。こっちの記録と突き合わせると……」
ひとりぶつぶつ呟きながら筆を走らせている。
楓が振り返り、ジト目で叫んだ。
「伊吹様! せめて見守るくらいしてください!」
「見てるさ、見てる。記録も取ってる。ほら……遥花の鉄扇、思ったより詞脈の流れと相性がいい。握りの角度で力の抜け方が変わる……これは興味深いなぁ。」
起き上がりもせず、にやにや笑いながらメモを取る伊吹。
「……だからそういうことは後でまとめてくださいって言ってるんです!」
楓は文句を言いながらも、再び木剣を振るい、遥花の鉄扇に打ち込む。
「うっ……!」
衝撃で遥花の腕が痺れる。だが彼女は踏み込み、必死に反撃の姿勢を取った。
「いいですよ、その調子! ただし無理に打ち返そうとせず、受け流して!」
楓の指導は厳しいが、表情には確かな優しさがにじんでいる。
陽路もまた別の組手を終え、息を整えながら遥花を見守っていた。
その視線に気づいた伊吹がにやりと笑う。
「ふふ……面白い。やっぱり、綴る者と従者はこうでなくちゃね。お互いの詞脈が響き合う瞬間って、実に美しい……」
「伊吹様! 余計なこと言わない!」
楓がまた飛んできて、伊吹の頭を軽く小突いた。
「いてっ……! いやいや、本気で褒めてるんだよ?」
伊吹は肩をすくめて笑う。
遥花と陽路は顔を赤らめながらも、それぞれの武器を構え直した。




