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和風異世界物語~綴り歌~  作者: ここば


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悠真の里

陽路に導かれ、遥花が目にしたのは、高い石垣に守られた悠真の里。

やはり武の中心地と呼ぶにふさわしい威容を誇っていた。

瑞穂の里の穏やかな田畑とは打って変わり、空気そのものが鋭さを帯びている。


門をくぐると、広場では、若い者たちが木剣を手に声を張り上げて稽古をしていた。

槍や弓を扱う者も多く、その動きは無駄なく鋭い。石畳の道を歩けば、すれ違う人々は誰もが引き締まった表情をしており、戦の里と呼ばれる所以がすぐに伝わってきた。


「……すごい。息をするだけで背筋が伸びる気がする」

遥花は思わず感嘆の声を漏らした。


悠真の里は、従者の多くが育つ場所でもあった。陽路もまた、この里で修業を積み重ねてきた一人だ。だからこそ、ここに足を踏み入れると、懐かしい空気を胸に感じていた。陽路は小さく頷き、柔らかく答える。

「ここでは強さこそが誇り。そのために、日々を武と共に過ごしている。」

祀る者や祈る者、語る者であっても、最低限の体術を学ぶことは義務とされていた。己を守れぬ者は、言霊の近くに立つことすら許されない――悠真の里はそんな学びの場としても久遠を支えていた。


二人はやがて、里の中央にそびえる武殿へと案内された。

重厚な木戸が開かれると、その奥には白髪を後ろに流した威厳ある老人が座していた。

悠真の里を束ねる長老―― 悠真の長老・武峯たけみね である。


「遠き天響よりの客人、よくぞ参られた」

低くも力強い声が広間に響く。


遥花は深く頭を下げた。

「私は天響の里の綴る者、遥花と申します。……今回、この悠真の里にて、詞脈の揺らぎを制御する力を学ぶと同時に、自らの身を守る術を身につけたく存じております。」


長老は目を細め、遥花を静かに見つめた。

「なるほど。旅の途上において禍ツ者に再び襲われることもあるであろう。その備えを求めるか……」


「――え?」

遥花は思わず息を呑んだ。

そんなこと、まだここでは誰にも話していない。使い獣にもその旨は伝えさせていない。隣の陽路も、きゅっと唇を結ぶ。


長老の静かな声が広間に響いた。

「……また、記憶をなくしながらも、瑞穂で言霊を封じるとは、見事であったな。」


陽路も一歩進み出て、丁寧に口を添える。

「はい。瑞穂の里では幸い結芽殿と共に封じを果たすことができました。しかし、これからは天響の近くではございません。いざという時、遥花様ご自身が身を守れる力を得ねばなりません。」


長老・武峯は、深く顎を撫でながら話す。

「……ならば、おぬしたちに紹介すべきは、悠真の綴る者――伊吹。才は確かだ。だが武の道よりも、詞脈や言霊そのものを解き明かすことに心を寄せる研究者肌の男でな。」


遥花は意外そうに目を瞬いた。

「……研究者?」


「うむ。本来なら祀る者や祈る者として言霊に触れたいと望んでおったが、あやつは綴る者の家系に生まれついた。強い詞脈を持っておったゆえ、他の道は選べなんだ。封じの力も戦の術も身につけてはおるが、戦うこと自体は好まず……その分、周囲を支える者が要る。」


そこで長老はふと、遥花を見つめる。

「だがあやつは、封じの際に言霊を“最も近くで見る”ことができるからこそ、その役目を気に入っておる。好きで選んだ道ではなくとも、己にしかできぬことを果たそうとするのだ。」


遥花の胸に、その言葉は重く響いた。

――自分もまた、戻ってきたばかりでうまくできないことが多い。けれど「自分だからこそ」という自身を持ちたい……。


長老はさらに言葉を続ける。

「伊吹には武を補う従者がついておる。名をかえでといい、武に長けた女だ。おぬしたちが学ぶには、この二人との縁がふさわしかろう。」


遥花と陽路は深く頭を下げた。

新たな出会いへの期待と、少しの緊張が胸の内で入り混じっていた。


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