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和風異世界物語~綴り歌~  作者: ここば


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19/89

瑞穂の里①

長い山道を越え、穏やかな陽光が差し込む丘を抜けたとき、遥花の目に広がったのは黄金色に実る田畑だった。水路が整然と走り、そよ風に揺れる稲穂が一面に広がっている。


「……きれい。まるで絵巻物の中みたい。」

「ここが瑞穂の里。久遠の国の穀倉とも呼ばれている。」


言葉を交わすうちに、里の入り口で待っていた人々の姿が見えてきた。白衣をまとった者、稲を背負う者、幼子を連れた母。いずれも朗らかに笑みを浮かべ、旅人を迎える雰囲気に満ちていた。


その中心に立つ、背筋の伸びた老人が一歩前へ出る。

「遠路はるばるようこそ。天響の綴る者・遥花様。そして従者の陽路殿。我ら瑞穂の里一同、心よりお迎えいたします。」


人々が一斉に頭を垂れる。


遥花は思わず足を止め、胸の奥がざわついた。

「……様」と呼ばれる響きが、まだ馴染まない。だが視線の先に陽路がいる。彼はいつものように深く一礼し――そして、そっと遥花のほうを見やった。その目が、「大丈夫」と言っているようで、遥花は息を整え、ぎこちなくも頭を下げ返した。


「えっと……こちらこそ、温かく迎えてくださってありがとうございます。」


里人たちの表情が和らぐ。老人は満足げに頷き、里の奥へと案内した。


瑞穂の里は豊穣の象徴のような場所だった。

水を引く仕組み、収穫を祝う祭壇、そして穀霊へ祈りを捧げる場――。遥花は一つひとつを目にするたびに、胸の奥に懐かしい感覚がかすかに揺れる。

けれども、それは記憶の輪郭には届かない。

遥花(……わたしはここに来たことがあるのかなあ。)


ふと立ち止まった遥花に気づき、陽路が声をかけた。

今は二人きり。

「……疲れてないか?」

「うん、平気。ただ……不思議なの。初めて来たはずなのに、懐かしい気がする。」

「それで十分だ。無理に思い出す必要はないさ。遥花は遥花のままでいい。」

その言葉に、思わず笑みをこぼした。


やがて一行は、瑞穂の里の会館へと通された。

木の香りが満ちる広間で、長老が席に着く。左右には瑞穂を支える祀る者や語る者たちが並び、静かに遥花を見つめている。


長老「さて……遥花殿には、明日我らの務めを見ていただきたい。そして可能であれば――あなた自身の“詞脈”を、少しずつ確かめていただければと思う。」


陽路が一歩前に進み、恭しく頭を下げた。

陽路「承知いたしました。必ずや遥花様の助けとなりましょう。」


――二人きりではないから、陽路はきちんと敬語に戻っている。

遥花はその切り替えに内心ふっと笑いそうになったが、同時に背筋を伸ばし、真剣な顔でうなずいた。


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