夕露の神隠し①
放課後のチャイムが鳴り終わると同時に、教室はざわめきに包まれた。
部活へ急ぐ子、友人と寄り道の約束をする子。
その輪の中で、遥花は机に鞄を掛けながら笑顔を作っていた。
「じゃあ、また明日!」
手を振りながら教室を出た友人たちの背中を見送り、静かになった教室に一人取り残される。
スマホを開けばグループチャットは盛り上がっているのに、そこに自分の言葉を差し込む気にはなれなかった。
――どうしてだろう。
楽しいはずの毎日なのに、どこか浮いている気がする。
鞄を肩に掛け、校門を出る。
橙色の夕陽が街路樹の影を長く伸ばし、制服のスカートの裾を照らしていた。
近くのコンビニからは唐揚げの匂いが漂い、道端では小学生がボールを蹴って遊んでいる。
そんな何気ない景色が、今の自分には遠い世界のように思えた。
「……何か、違う。」
歩道に伸びる影へ、ぽつりと声がこぼれる。
その瞬間。
霧のような霞が、夕焼けに溶ける街並みの奥から滲み出した。
ふと顔を上げると、細い路地の先に赤い鳥居が佇んでいる。
――あれ、こんな場所に神社なんてあったっけ?
不自然に静まり返った空気。
そして、胸の奥を突き動かす「呼ばれている」ような感覚。
遥花は吸い寄せられるように、鳥居へと歩を進めた。
一歩、境内に足を踏み入れた瞬間。
世界は音もなく、裏返った。