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マルとミカンとブンタ

作者: 志村菫

マルとその家族と友達ワンコのお話です。

 秋晴れの空が心地よい木曜日の午後。

 いつもの花道公園のベンチで、智美ママと夏枝さんが深刻な表情で話している。


 智美ママのリードには、ジャックラッセルテリアとビーグルのミックス犬のボク、マルが繋がれていて、夏枝さんのリードには柴犬のミカン先輩が繋がれている。


 いつもこの公園で智美ママが夏枝さんとお話している時、僕もミカン先輩と話すんだ。もちろん、人間には僕たちの会話は聞こえない。犬は心の中で話すからね。


「ねぇマル、智美さん、ちょっと深刻な悩み?」

「うん。ちょっとね、愛ちゃんと杏ちゃんがケンカしてるんだよ」

「あら、仲良し姉妹じゃない。どうしたの?」

「うーん、よく分かんないけど……原因はカチューシャっていう……何か頭につけるやつ?」

「ああ、女の子はそういうの付けるわよね。それがどうかしたの?」



 ある日、佐藤家に海外旅行が趣味の菜々美おばさんが来ていたんだ。

 菜々美おばさんは、智美ママの妹で愛ちゃんと杏ちゃんのおばさんなんだけど、その日はフランスっていう国に旅行へ行った時のお土産を持ってきてくれたんだ。

 お土産はお菓子だったんだけどね。他に、そのカチューシャってやつをお土産として買ってきたんだ。それを見た愛ちゃんは、すぐ頭にそれを付けたんだ。キラキラしててすっごく綺麗だったなぁ……愛ちゃん、それをとても気に入って、鏡の前でポーズを取ったりしてたんだ。


「菜々美おばさん、ありがとう!」

「可愛いわ。よく似合ってる!」

「二人とも声が大きい! 杏が起きちゃうよ」

「さっき寝たばっかじゃん。大丈夫だよ」

「旅行先でふらっと立ち寄った雑貨屋さんで見つけたの。一個しかなかったから、杏のはないけど……今度また似たようなの見掛けたら買ってくるね」

「いいのいいの。交代で付けたらいいでしょ」

「えーっ、私が貰ったんだもん」

「じゃあ、ちゃんとしまっておきなさいよ」


 僕はその時、隣の部屋でお昼寝をしている杏ちゃんを見たんだ。スヤスヤ眠っていたけど……。


「何かねこの時、嫌―な予感がしたんだよ」

「そうね、だいたい想像はつくわ」

「どんな?」

「そのカチューシャってやつ、杏ちゃんが見つけちゃったんでしょ」

「そうなんだよ! 流石ミカン先輩」


 小学校から元気に帰って来た愛ちゃんは、いつもの様に帽子とランドセルをお部屋に置きに行ったんだ。その時、ゲージの中でおやつを食べていた僕は、愛ちゃんの悲鳴を聞いて驚いたんだ。

 それで洗濯物を取り込んでいるママを吠えて呼んだんだよ。


「何よマル、お客さんでも来た?」

「ワンワンワン! (愛ちゃんに何かあったみたいだよ)」


 その時、「杏、返してよ!」って叫びながら、愛ちゃんが杏ちゃんを追いかけてリビングに入って来たんだ。

 杏ちゃんの頭には、菜々美おばさんから貰ったカチューシャが付けられていて……。


「何で杏がつけてんの? 机の引き出し開けたの?」

「色えんぴつ探してたの!」

「自分のあるでしょ?」

「おねえちゃんの方がいっぱい色があるもん!」


 声の感じから、愛ちゃんがすっごくイライラしているのが分かったんだ。


「もう! 私が菜々美おばちゃんから貰ったの! 返して!」

「杏もほしい!」

「それはダメ!」


 杏ちゃんの頭のカチューシャを愛ちゃんが思いっきり引っ張ったんだよ。


「イタイ! 髪が抜けた…イタイ」


「二人とも、いい加減にしなさい!」


 ママが二人を止めたんだけどね……。


「ねぇ、おかあさん、このカチューシャ、私が貰ったんだよね」

「そうよ」

「杏のは?」

「一つしかなかったから、また今度だって、菜々美おばさんが言ってよ。だから……」

「ほしい! 杏、それがほしいの!」

「だから、これは私の!」

「違うよ。おかあさんがさ、交代って言ったもん」

「えっ? あっ、聞いてたの?」

「何言ってんのよ。杏、寝てたじゃん」


 杏ちゃんはね、たまに寝てる様で寝ていない時があるんだ。


「泣くの? 泣いてもダメだからね!」

「泣かないもん…」

「泣いてんじゃん! いつも泣けばいいと思ってるじゃん」


 もう杏ちゃんは、わーってなっちゃって愛ちゃんを押しちゃって。倒れた愛ちゃんは、足で杏ちゃんを蹴飛ばしてね。僕、必死になって二人を止めたんだけど……。


「ワンワンワン! (二人ともケンカしないで!)」

「もう! いい加減にしなさい!」


ママが洗濯物のシーツを二人に被せて抑えたんだよ。それでも暴れて……。


 いつもは仲良しなのに、僕は見てるのが辛かったよ。しかも、そのケンカは思ったより長く続いたんだ。


 ふぅぅ……


「智美さん、まだケンカは続いてるの?」

「はい……」

「うちの孫も女の子二人なんだけどね。愛ちゃんと杏ちゃんと年も同じくらいだわ……」

「やっぱりケンカしますよね?」

「うーん……するんだろうけど、一緒に暮らしてないからね。たまに会うくらいだから……でも、うちの子が小さい頃は、よく兄弟喧嘩したけど自然と仲直りしてたわね。でも、男の子だからちょっと違うかしら」

「私も妹とは、自然と仲直りしてたような……ああ、でも長引いた時もあったかな……でもそれって中学生や高校生の頃とかだったし……」


 いつもの様にベンチに腰かけて、ママと夏枝さんがお話をしているから、僕もミカン先輩とお話をする。

 前はママと夏枝さんは、「おはよう!」とか「こんにちは!」とか、挨拶をするだけの関係だったんだ。でも、一年前に僕が佐藤家に来てから、ママは夏枝さんとミカン先輩とお話をするようになって……。


「最初、僕はミカン先輩が怖かったんだよ」

「どうして? こんなに優しいのに?」

「知らないとこへ来て、ドキドキしてたんだよ。初めてのお散歩で、チワワのマロンちゃんにめっちゃ吠えられて、ミニチュアダックスのジェフくんには無視されて……」

「そうね、最初は私も秋田犬のマサルに吠えられて泣いちゃったもん……」

「ミカン先輩もそんな時が?」


 今では、マロンちゃんもジェフくんも道で会ったら挨拶するし、前みたいな事はないよ。勿論、相性があるからミカン先輩みたいに、みーんなとこうして何でも話せる訳じゃないけど。


「で、あれから愛ちゃんと杏ちゃんは?」

「前よりひどくなったんだよ……」


 祥平パパがお仕事から帰ってきてね、駅前の美味しいケーキ屋さんでシュークリームを買ってきてくれたんだ。パパは二人で好きな物を一緒に食べたら簡単に仲直りするって考えたらしいんだけど……。


「ズルい! お姉ちゃんのシュークリームの方が大きいよ!」

「何言ってんのよ! 杏の方が大きいよ」

「もういい加減にしてよ。どっちも同じでしょ?」


 ママも疲れちゃって……。

 そしたらね、杏ちゃんが愛ちゃんのシュークリームを掴んで取ろうとしたんだよ。力いっぱいシュークリームをギュッとしたから、中のクリームが飛び出して床に落ちたんだよ。

 いつも優しいうちのパパも……。


「食べ物を粗末にする子には、もう買ってこないからな!」


 珍しく怒ったパパを見て、杏ちゃんが泣き出したんだ。

 それを見て、愛ちゃんは「また泣いた! 泣いたらいいと思ってるもんね」とか言うもんだから、また前みたいに掴み合いのケンカになって……。


「ほら! 二人ともいい加減に……あれ?」


 どさくさに紛れて、床に落ちたカスタードクリームをペロペロしてたら、ママに見つかっちゃって……。

 僕も愛ちゃんと杏ちゃんと並んでママに叱られちゃった……。


 でね、その日の夜に杏ちゃんが愛ちゃんのランドセルに何か入れているのを見たんだ。きっと、イケナイことをしたんだって思ったよ。


 次の日、幼稚園から帰った杏ちゃんは寝転がってアニメを観ていたんだ。笑って楽しそうにね。

 ママは、ソファに座って本を読んでいたんだ。それをゲージの中で僕は眺めていて……。きっとこの穏やかな時間は、愛ちゃんが学校から戻ると変わってしまうだろう……。


 玄関がバンって開く音がしたと思ったら、廊下をバババババって歩く音がして、愛ちゃんがめっちゃ怒って入ってきたんだ。


「愛、おかえりなさ……どうしたの? 顔が真っ赤よ……」

「ちょっと、杏!」


 愛ちゃんは激怒して、蛇のおもちゃを杏ちゃんに投げつけたんだ。愛ちゃんの可愛い顔がね、ものすごくコワーイ顔になってて……。


「これ杏が入れたんでしょ! 教室でみんな驚いて大変だったんだからね」

「ちょっと、落ち着きなさい、愛」

「おかあさん、杏がヘビのおもちゃ、私のランドセルに入れたんだよ!」

「入れてないもん!」

「だってこれ杏のじゃん」

「知らないもん!」

「ウソつき! バカバカ!」

「バカじゃないもん」


 怒りが止まらず、一年二組を騒がせたヘビのおもちゃをまるで鞭のように振りまわして、逃げる杏ちゃんを愛ちゃんが必死で追いかけて……。


「ワンワンワン! (もうケンカはやめてー)」

「もう! いい加減にしなさい!」


 僕もママも必死で止めたんだよ。


 その夜、祥平パパが帰って来ると、愛ちゃんのおでこにはひっかき傷、杏ちゃんの頬にもヘビのおもちゃで叩かれた傷が痛々しくあって……。

 パパはママの態度と、愛ちゃんと杏ちゃんから漂う重い空気で、何が起きたのか察したんだ。


「二人とも、おとうさんに「おかえりなさい」は?」


 ママが夕飯のオムライスを並べながら言うと……。


 小さく愛ちゃんが「おかえりなさい」って、更に小さく杏ちゃんが「おかえりなさい」って……ママに散々叱られた後だから、元気がなかったんだ。

 そこまではよかったんだけど……あ、よくはないけど……。

 テーブルの中心に置いてあるケチャップに、同時に手を伸ばしちゃったんだよ。


「杏が先だもん!」

「私の方が先!」


 愛ちゃんを無視して、杏ちゃんがケチャップを取ってキャップを開けたら、無理やり掴んだもんだから、勢いよくピューって愛ちゃんの顔にケチャップが……。

 その時、杏ちゃんは大笑いして……。それでますます愛ちゃんが怒っちゃって……。


「もう! 何するの」


 今度は愛ちゃんが杏ちゃんにケチャップをピューって……。

 いつも可愛い愛ちゃんと杏ちゃんなのに……なんか怖くて……。

 だから僕、愛ちゃんの顔をペロペロしちゃったんだ……杏ちゃんの顔も……。


「マル、やめなさい。二人とも、いい加減にしなさい!」 


 祥平パパに、僕も愛ちゃんと杏ちゃんと並んで叱られちゃった……。


 その日の夜、ゲージの中で眠ってたら、パパとママがずっとお話をしていたんだ。


「外国のお土産だもんな。その辺では売ってないか……でもさ、探したらどこか似たようなので売ってそうじゃないか?」

「それは考えたんだけど、今はそういう問題じゃない感じなのよ……杏はきっと、私が内緒で愛にだけあのカチューシャを使えばいいって言ったのが気に入らないのよ……」

「まぁ、意地になっているって事か? で、そのカチューシャはどこにあるんだ?」

「手の届かないとこに隠しておいたわ。愛はそれが気に入らないみたいで、私ともあんまり話をしなくなったのよ……」

「そっか……まぁ、様子をみようよ」

「ああ……最初は交代で着けたらいいって軽く考えてたのが、こんなになるなんてね……私が悪かったのよ」


 ママは落ち込んじゃって……可哀想だったよ……

 でもね、また事件は起きたんだよ……


 ある日、機嫌良さそうに愛ちゃんが学校から帰って来たんだよ。

 そしたらさ、リビングで杏ちゃんが泣いてるのを見て……。


「あれ? どうしたの?」


 ちょっと……いや、かなりワザとらしかったから、ママはピンと来たんだよ。


「愛……まさか……」


 いつも杏ちゃんの幼稚園は給食なんだけどね、その日はお弁当を持って行く日だったんだって。

 ママは杏ちゃんの好きなミニオンズのキャラ弁を作ったんだ。

 でも、お弁当を開けると、混ぜご飯みたいにグチャグチャになってたんだって。

 お友達に「杏ちゃんのお弁当、変なの」とか「気持ち悪い」とか言われて……。


「みんなに、杏のお弁当怖いって……」


 杏ちゃんはその時の事を思い出して、また更に泣き出したんだ。


「愛でしょ? なんでそんな事するの?」

「先にイタズラしたのは杏でしょ! 私はやり返しただけだもん!」

「やり返すとか、そんな事しちゃダメなの!」

「だって、杏が私のカチューシャ取ろうとしたのが悪いんでしょ?」

「取ろうとなんてしてないもん!」

「引き出しの中、勝手に開けたじゃん!」


 また言い争いが始まったから、僕は止めたんだ。必死で……。


「ワンワンワン! (もうケンカしないでよ……)」


 でも愛ちゃんと杏ちゃんは掴み合って……グルグルと回って本棚にぶつかったんだ。

 二人ともドンって倒れて……それで、本棚の上にママが隠したカチューシャが落ちて来ちゃって。


「あっ、こんな所にあった!」


 愛ちゃんが拾おうとしたら、先に杏ちゃんが拾って……。

 それで愛ちゃんが奪おうとしたら、勢い余ってカチューシャが飛んでって……。


 僕の目の前にポトンって。


 だから、僕はカチューシャを拾って銜えたんだ。

 そうしたらカチューシャが……。


「あーっ!」


 愛ちゃんと杏ちゃんの叫ぶ声と共に、カチューシャが真っ二つに割れて、ビーズもパラパラと落ちて壊れて……。

 ママは、僕の口からポロッと落ちた、壊れたカチューシャを手に取ったんだ。


「もうマル! ダメじゃん!」


 愛ちゃんが怒りだしたんだ。


「そうだよ……何で壊しちゃったの……」


 杏ちゃんは泣いてた……。


「やめなさい! マルは悪くないでしょ!」


 もう、今まで感じた事のない空気が漂ったんだよ……。

 僕、どうしたらいいのか……しょんぼりしちゃったんだ……。


 それから、ケンカは収まったけど……あんなに明るかった佐藤家が、なんか静かになっちゃったんだ。


「まぁ、あの子たちは大人しくはなりましたけど……」

「……でも勿体ないわね。素敵なカチューシャなのに」


 僕が壊したカチューシャをママが夏枝さんに見せていたんだ。

 それで、僕もミカン先輩とお話をして……。


「で、愛ちゃんと杏ちゃん、マルのこと怒ったまんま?」

「ううん、そんな事ないよ。抱っこしてくれるし、頭も撫でてくれるし……。でも、何かやっぱり僕が壊しちゃったカチューシャ、どうにかならないかなって思うよ」

「まぁね……でも、自分のものにしたくて、ケンカとか嫌がらせを繰り返したんだから、もうそんな物ない方いいんじゃないの?」

「そりゃそうだけど……」


「こんにちは! お久しぶりです」


 あれ? この声は……文香さんだ。

 という事は……ブンタ!


「あら! ブンタちゃん、久しぶりね」


 ママがブンタをナデナデした。ブンタはフレンチブルドッグのお洒落犬。

 文香さんは美容師をやっている美魔女。


「仕事で忙しくて、夜にしかお散歩に来れなくて……マルちゃん、ミカンちゃん、元気だった?」


 文香さんは僕とミカン先輩を優しく撫でてくれて……。

 ブンタは犬なのにヒョウ柄の洋服を着ていた。


「どうも、久しぶり! ミカン先輩……マル? 何かグッタリしてるね」

「そう? 君は相変わらずお洒落でカッコいいね」

「そうそう、あんたたち、同じペットショップだったんだって?」

「そうだよ。駅前のショッピングセンターのね。誕生日も近いんだよ。ねっマル!」

「そうそう、僕たちね、もし売れなかったら、どっかに連れて行かれそうだったんだよ」

「どっかって?」

「知らないけど……でも、すっごく遠くだって……」

「……ああ……そう……」

「ちなみに、うちのママは僕を飼う時、マルにしようか僕にしようか迷ったんだよ」

「またその話? 僕はブンタのママが飼い主さんじゃなくて良かったよ。洋服着るの嫌だし」

「似合わないもんね」


 ブンタはたまに嫌な事を言う……そんな事ないよ。着たら似合うよ、僕だって。


「ほらほら、どうでもいい事でケンカしない! あら、それ綺麗な首輪ね」


 ミカン先輩は、キラキラ光るブンタの首輪が気になったんだ。

 それと同時に、夏枝さんもブンタを撫でながら、同じ事を言ったんだ。


「ブンタちゃんの首輪、綺麗ね……素敵だわ」

「私が作ったんです。最近、ビーズアクセサリーが趣味で」

「まぁ! 器用ですね。あっ、ブンタくんの洋服も作ってるんですもんね」

「ああ、そうだ智美さん! 文香さんにお願いしたら? そのカチューシャ!」

「あっ、そうですね……」

「えっ? カチューシャって?」


 文香さんは何の事だか首を傾げたので、ママが事情を説明し始めた。


「さすが、うちのお母さん、いいアイデア!」


 僕は何がいいアイデアなのかよく分からなかった。ブンタも文香さんの様に首を傾げていた。


 それから割とすぐに、文香さんが佐藤家に来てくれたんだ。

 夏枝さんも一緒に、ビーズアクセサリーを教えてもらおうとやって来た。


 ダイニングテーブルの上には、壊れたカチューシャとビーズアクセサリーを作る道具などが並んでいた。

 愛ちゃんと杏ちゃんは、壊れたカチューシャを見て悲しそうな顔をしていたよ。


「道具は無くさないように、大事に使いましょうね」


「よろしくお願いします」


 と元気にママと夏枝さんが挨拶をすると、愛ちゃんも杏ちゃんも「お願いします!」って同時に言ったんだ。その時、ちょっとだけ顔を見合わせて笑った様な気がしたんだけど……気のせいかな……。


「何かイイ感じだな……」

「うちのママは教えるの上手だしセンスがいいんだ!」


 ブンタは自慢気に言った。でも、本当にそうだった。

 文香さんの声は優しくて、ゆっくりと穏やかで……たまに面白い事を言いながら……だから、ママと文香さんと夏枝さん、すごく楽しそうで……。

 もちろん、愛ちゃんも杏ちゃんも……。


「そうね。ブンタの言う通りだわ。文香さんは教えるのが上手ね」


 ミカン先輩と僕とブンタは、おやつのクッキーを食べながら、みんながアクセサリーを作るのを眺めていた。

 でも、ちょっと眠くなって……ウトウトしちゃったんだ……。


 夜になって、パパが会社から帰って来た時……。

 玄関ドアを開けたら、目の前には愛ちゃんと杏ちゃんが出迎えてたんだ。


「どうしたんだ……」


 愛ちゃんと杏ちゃんがお揃いのカチューシャをつけて同時に「おとうさん、おかえりなさい」って……。


「あれ? 買ったの? 前のやつと微妙に似てるな」

「菜々美おばちゃんから貰った壊れたカチューシャのビーズを使ってね、他のビーズを混ぜて、杏とお揃いの作ったの」

「ブンタのママに教えて貰ったんだよ」

「ブンタのママ?」


「公園でよく話す犬友達よ」


と、派手なビーズで作ったカチューシャをつけてママが登場したら、パパが思わず笑ったんだ。


「何、それ」

「ついでに私も教えて貰って作ったの。どう?」

「ちょっと派手じゃない? なぁ愛、杏」

「そんなことないよ。おかあさん可愛い! ねっ、お姉ちゃん」

「うん! 可愛い!」


 愛ちゃんも杏ちゃんもママも、キラキラしてて可愛いよ。

 それに、すっかり元の仲良しな二人に戻ってよかったね。

 パパとママは顔を見合わせて頷いていたのを、僕は見ていたよ。


「ワンワンワン!(よかったね!)」


「あれ? お前も作って貰ったのか? じゃあ、おとうさんにも何か作ってくれよー」


 僕は窓ガラスに映る、キラキラ光る首輪をした姿にちょっと照れていた。

 この首輪は、ミカン先輩とブンタとおそろいなんだよ……。



 それから少ししてから、菜々美おばさんが佐藤家にやって来たんだ。


「遅くなってごめんね。よく似てるカチューシャがやっと見つかったから……」


 杏ちゃんは「ありがとう」ってそのカチューシャを受け取ったんだ。

 その時、学校から愛ちゃんが帰って来て、菜々美おばさんに挨拶をした後、杏ちゃんが貰ったカチューシャを見たんだ。


「お姉ちゃん、菜々美おばちゃんから貰ったよ」

「わぁ……可愛いね……」


 そう言いながら、愛ちゃんがカチューシャをじっと見つめるから、ちょっとママは不安な顔をしたんだ。そしたらね……。


「お姉ちゃん、またこのカチューシャ壊してお揃いの作る?」

「えっ? こ、壊すって? どうして?」


 菜々美おばさんは驚いてママを見たんだ。


「何言ってるの! 折角もらったのに! ごめんね、菜々美」

「そうだよ。杏が付けたらいいよ……」

「でも……」

「じゃあ、交代で付けようよ」

「うん!」


 その時、もうとっくに仲直りをしていた愛ちゃんと杏ちゃんだったけど……。


「あ……お弁当、グチャグチャにして…ごめんね」

「杏も……ヘビをランドセルに入れてごめんね…」


 そうだ……「ごめんなさい」って言っていなかった事、ずっとお互いに気にしてたんだよね。

 ケンカしてもその後、前より仲良しになってるっていいな……。


 公園でママと文香さんと夏枝さんがお話をしている、その足元でミカン先輩とブンタと僕はお喋りをしている。

 僕たちの話題は、きょうだいについてだった……。


「僕のおねえちゃんやおにいちゃんはどうしてるかな…」

「私は、たまに会いにいくわよ」

「いいな……僕とマルは、さよならしたら会える確率は殆どないからね」

「そうだね」

「でも、マルには愛ちゃんと杏ちゃんがいるじゃない」

「うん……そうだけど……」

「ああ……僕のとこはママしかいないからな……でも寂しくはないよ」


 でも、愛ちゃんと杏ちゃんは僕のきょうだいではないよ……

 だって……僕はあっという間にパパやママと同じくらいの年になって……夏枝さんくらいの年になって……。


「マル、そろそろ愛と杏が帰ってくるから、帰ろ!」

「買い物してから帰ろうね、ブンタ」

「もう少し散歩してこうか、ミカン」


 話していたママ、夏枝さん、文香さんがリードを引いて僕たちを呼ぶから、ミカン先輩とブンタに、さよならする。


「またね、ミカン先輩、ブンタ」

「じゃあね、マル、ブンタ」

「楽しかったよ、ミカン先輩、マル」


 それぞれ僕たちは家に帰る。


 明日、ママと町内を散歩して、道でマロンちゃんやジェフくんに挨拶をして……公園でミカン先輩とブンタとお話をするよ。

 それで、ずっとこの町で僕は家族と友達と暮らすんだ!

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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