2.ふたり
途中まで康と一緒で康が先に降りた。
ぼくはやっと一人になれたことが嬉しかった。
一人で妄想する時間が何より楽しい。
ちなみにさっきは康だったが、同僚に「尾崎」と呼んでる人もいる。
尾崎はすぐ「俺たちいつ上に行けるんですかね?」
とか
「家のベッド軋むんですよね」
などとどっかで聞いたことあるフレーズで攻めてくる。
どこの会社にも変な人はいるのだろう。
僕も彼たちに変なあだ名で呼ばれれているのかもしれない。
でも僕は全然気にしない。
のんびりマイペースが一番。
1時間30分かけてやっと最寄りの駅に着いた。
またさらに15分かけて歩くのだ。
サラリーマンは楽じゃない。
だからこそ自由な時間楽しまなければいけないのだ。
家の前に着いた。
インターフォンを鳴らす。
しばらくして千鶴子がドアを開けてくれる。
「すき焼き出来ているわよ!」
僕は一気にテンションが上がる。
家にあるフラフープを回して見せる。
「今日スピルバーグに、役者にならないか?」
と誘われたけど断った。
「あら、もったいない」
「ハリウッドにさだまさしっておかしいだろ?」
「まあ、そうね」
「では、いっただきまーす!」
「一ヶ月お疲れ様でした」
千鶴子とビールで乾杯する。
テーブルの上には旦那が好きな、すき焼き、イカの塩辛が豪華に並んでいる。
僕は生玉子にお肉を絡ませる。
「最高に美味しいよ」
千鶴子が冷蔵庫からビールを追加で出す。
「イカの塩辛もビールに合うねー」
「千鶴子は最近何しているの?」
「ここら辺ってなにもないじゃない?だからガーデニングしたり、近所の奥さんと話したりよ」
「なんか充実してそうじゃん」
「あなた仕事うまく行ってる?」
「うん、楽しいよ」
すき焼きをバクバク食べる旦那。
それを微笑ましく見守る嫁。
ふたりは実に仲が良い。
「あー食べた、食べた」
「あなたお風呂も沸いてるわよ」
「後で入るよ」
片付けを始める嫁。
「じゃあ僕お風呂入っちゃうねー」
「熱いから気をつけてね」
「わかってる」