第1話 カブトエビです! 愛しのあの人のところへお出かけです!
私の名前はカブトエビ!
皆からはカブトエビちゃんって呼ばれてます!
私が暮らす水田町には温かい春がやって来ています。
そんな私が暮らす水田町には色んな友達がいるんです!
ホウネンエビちゃんに、ホウネンエビちゃんとか、ホウネンエビちゃんです!
そんな今日はホウネンエビちゃんと一緒にお出かけです!
「ねえ、カブトエビちゃん」
「なんですか? ホウネンエビちゃん」
「いきなり遊びに行こうって突撃してきたけど、これからどこに行くの?」
「どこに行くのか? 愚問ですね。それは決まってるじゃないですか!」
私は愚問な質問をしてきたホウネンエビちゃんへと宣言します!
「カブトガニお兄ちゃんのところです!!」
「一昨日も行ったと思うんだけど?」
「何言ってるんですか! 昨日行ってないんですよ!?」
そうですよ! 私は昨日行ってないんです!!
「そんなに毎日行ったら失礼だと思うけど……」
「何を言ってるんですか! 初めて会ったあの日、いつ来ても良いよって言ってくれたんですよ? それはつまり私が好きだという事です! それはつまりお嫁さんにしたいって事ですから、希望通りに毎日でも行くのが当たり前ですよ!」
そう。これは当たり前の事ですし、常識です!
それに―――、
「それに、今日はカブトガニお兄ちゃんの誕生日なんです。だからプレゼントを渡しに行くんです!」
「え? 今日カブトガニさん誕生日なの?」
「そうですよ?」
「なんで言ってくれないの!?」
へ?
「言いましたよ?」
「え? 言ってたっけ?」
「はい。今言いましたよ?」
「今じゃ遅いよ! せめて昨日とかに教えてよ、カブトエビちゃん! これじゃあ私、誕生日に何も持っていかない子になっちゃうよ!」
「え? 何かダメなんですか?」
「ダメって言うか、なんか嫌だよ。お願い! 行く前にどこかのお店寄って良い?」
「えー? うーん」
「ダメ、かな?」
「うーーーーーーーーーーーーーーーん……」
正直、すぐにカブトガニお兄ちゃんのところに行きたいんですけど。
でも、ホウネンエビちゃん買いに行きたいみたいですし。
むむむ……。
ハッ!
「そうですよ! ホウネンエビちゃん!」
「え? 急に何? カブトエビちゃん」
「私が持って来たプレゼントを二人で持って来た事にしましょう!」
「え? 良いの?」
「勿論ですよ! 私とホウネンエビちゃんは友達じゃないですか! それに、早くカブトガニお兄ちゃんの所に行きたいですし!」
「えっ、あ、うん。そうだね」
「そういう事で!」
私達はカブトガニお兄ちゃんの家にゴー! ゴゴー!!
「ところでカブトエビちゃん」
「なんですか?」
「用意したプレゼントって何?」
「ん? 気になりますか?」
「それは、まあ」
「ふっふっふ、ならば教えてあげましょう! それは―――」
「それは?」
「茹でたキャベツです!!!!!」
「……えっ?」
~~☆~~
「なんでお店に行かなきゃいけないんですか~」
「なんでって、流石に茹でたキャベツだけじゃ誕生日祝えないよ。せめてケーキ買わないと」
ホウネンエビちゃんはそんな事を言いますけど、茹でたキャベツでも十分美味しいですよね?
「それに乗り換えした駅近くのケーキ屋さんで買ったんだし、乗る予定の電車に乗れてるんだから良いでしょ?」
「むむぅ、ぐうの音も出ない事言わないで下さいよっ!! 文句言えないじゃないですか!」
「文句言いたいの!?」
「あれ? もしかしてカブトエビちゃんに、ホウネンエビちゃん?」
私達が言い合っていたらそんな声が。
「この声は!」
電車内。声に振り返ると、そこにはホウネンエビちゃんと一瞬だけ見間違えるあの子が!
「オバケエビちゃん!」
「アルテミア、だよ?」
すぐに私のあだ名が否定されました。ぐすん。
え? 何故オバケエビちゃんって言うあだ名なのかって?
それは、ホウネンエビちゃんに似てたけど真っ白でホウネンエビちゃんのオバケかと出会った時に思ったからですね。
「こんにちは、アルテミアちゃん。こんな所で会うなんて珍しいね」
「あ、はい。えっと、ちょっとたまにはお出かけしようと思って。お二人はこれからどこかに行くの?」
「あ、えっとね―――ゴニョゴニョ」
ホウネンエビちゃんがアルテミアちゃんに耳打ちをしています。
「あ、へー。これからお誕生日会かぁ。良いなぁ。私は行った事も来られた事も無い、けど……」
言った事も来た事も無いんですか。
「なら、一緒に来ますか?」
「え? 良い、の? 見知らぬ私が行ってアウェーにならない……?」
「構いませんよ。私の邪魔さえしなければ、大歓迎です!」
そう私の邪魔をしなければ皆でわいわいした方が楽しいですし。
まあ、最も、私以外、カブトガニお兄ちゃんは眼中に無いと思いますけど、ね!!
「邪魔、というと?」
「私とカブトガニお兄ちゃんの邪魔ですよ」
「え? えーと?」
「カブトエビちゃん、カブトガニさんのこと大好きだから会話とかの邪魔をするなって事だと思うよ?」
「ああ、成る程」
「何を言ってるんですかホウネンエビちゃん! 大好きなのはカブトガニお兄ちゃんの方ですよ! 私に愛の告白ともとれる言葉を言ってきたんですから!!」
そう、言ってきたのは向こうです!
私は、まあ、好きかもしれませんけど、向こうは私に告白してくる程に私の事好きなんですよ!
「え? カブトエビちゃん。告白されたの?」
「はい! それはもう毎日でも会いたいという猛烈アピールをされましたよ!」
「へ、へぇ~。そ、そうなんだ」
そう言って赤面するオバケエビちゃん。
ふふっ、お子様には少し刺激が強かったですかね?
「アルテミアちゃん、カブトエビちゃんの言ってる事かなり飛躍した解釈での結論だから鵜呑みにしちゃダメだよ?」
「え? そうなの?」
「何言ってるんですか! 拡大解釈も何もしてないですよ! カブトガニお兄ちゃんは私の事が一目会った時から大好きなんです!!」
そうカブトガニお兄ちゃんは―――っ
「聞き捨てならない……」
「っ! この声はっ!!」
本来ここでは聞く事のない声に振り向いた先。
そこには、カブトガニお兄ちゃんを付け狙い、私からカブトガニお兄ちゃんをかっ攫おうとする泥棒!
ラティメリアの姿っ!
「何故、貴様がここに!?」
「愚問。彼の誕生日ケーキを買いに来てた……」
「なっ!?」
このラティメリア、私と同じでカブトガニお兄ちゃんを祝うつもりか!
ぐぬぬっ!
「それに、平穏を好む彼には、物静かで包容力のあるこの私が相応しい……」
「ふ、ふーん。包容力ですか! それなら私にもありますし! ね! ホウンエネビちゃん」
「え!? そこで私に振るの!?」
「当然です! 第三者から見ての意見は重要ってテレビで言ってましたから!」
「えぇ……、そう言われても……」
オロオロしているホウネンエビちゃん。
だけど、そんな御託はどうでも言いんです!
今、重要なのは、そう! 第三者からの意見!!
しかし、ホウネンエビちゃんはおろおろするだけ!
全く、ラティメリアよりこの私、カブトエビが相応しいに決まっているのに即答しないとは!
「あのー、本人に決めてもらえば良いのでは……?」
オロオロするホウネンエビちゃんの横から不意に手が上がって見れば、おずおずとアルテミアちゃんがそんな事を。
その言葉にラティメリアと互いに目を合わせました。
~☆~
電車を降り数分の場所。
そこはこれから私の愛の巣になる場所にして、決戦の場。
そう!
「ついに来ました! カブトガニお兄ちゃんのお家!」
平凡などこにでもあるような外観の家。
しかし、中は綺麗で、タンスも食器も最低限なのです!
ではでは、いざ! カブトガニお兄ちゃんのところへ!
「カブトエビ……」
向かおうとしたところで不意に言葉をかけてくるラティメリア。
「なんですか?」
「ここではっきりさせる……」
「フッ、望むところですよ!」
そうして私の隣に立つラティメリア。
しかし、勝つのはこの私! カブトエビです!!
そして開幕の合図となる鐘を私達は押しました!
数秒後、聞こえる足音に気持ちが早まります。
そうしてはやる気持ちを抑えて、待っていたら、家のドアが『ガチャリ』と音を立てました。
「はい。どちらさまでしょうか?」
姿を見せるは本日の主役、カブトガニお兄ちゃん!
はぁ! 今日も素敵ですよ!
はっ!? いや、そんな感想よりも!!
「こんにちは! カブトガニお兄ちゃん!」
「こんにちは。 カブトガニ……」
くっ、先制発言をしようとしたら同時ですと!?
「あっ、えーと、ラティメリアさんにカブトエビさん。こんにちは。それで急に来てどうしました?」
カブトガニお兄ちゃんはそんな野暮な事を聞いてきました。
そんなの決まってるじゃないですか!
「お誕生日おめでとうございます! カブトガニお兄ちゃん!」
「誕生日おめでとう。 カブトガニ……」
くぅ! ここでもまたタイミングが被った!!
「え? あ、え??」
悔やんだら、カブトガニお兄ちゃんが戸惑った様子で返答に困ってますね。
いや、これは―――っ!
ピンときましたよ!
これはつまり、同時で愛する私の声が不届き者であるラティメリアによってかき消えたから私だけの祝いの言葉をもらいたい。
しかし、直接言ってしまえばこのラティメリアから何されるか分からない。
そう考えて、ぼかして言ったんですね!
流石カブトガニお兄ちゃん!
そして、お望みとあらば!!
「お誕生日おめでとうございます! カブトガニお兄ちゃん!」
「誕生日おめでとう。 カブトガニ……」
またしてもラティメリアがっ!!
「なんで同時に言うんですか!」
「そっちこそ……」
「あのー、お二人とも」
お互いに睨みを効かせていたらカブトガニお兄ちゃんが声をかけてきました。
「どうしました?」
「何……?」
「えっと、あのー、祝ってくれる気持ちは嬉しいんですけど。僕の誕生日、八月でまだまだ先ですけど……?」